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出張編4話 龍の目を持つ姫君

照京の最高権力者である御門我龍とイスカが会談するようです。



モーゼの十戒のように人波を割りながら、若い女性を従えた御門我龍はコッチに歩いてくる。


若い女性は身なりからして従者ではなく娘だろうか?


司令の前までやって来た御門我龍はどこか司令を見下している風だ。


「久しぶりだね、御堂君。招待されたので遅ればせながらやってきたのだが、授与式は終わってしまったようだ。実に残念だよ。」


「出席か欠席かの返事を頂けなかったのでね、やむを得ず授与式を済ませたまでだが。なにかご不満でも?」


「私も忙しい身でね、出席できるかどうか分からなかったのだよ。悪く思わないでくれたまえ。」


司令は艶然と微笑むと、ボーイに黒服に命じてシャンパンを持ってこさせる。


「せっかく来られたのだ、お忙しい身で宴の最後までお付き合い願うのは無理やもしれぬが、酒の一杯くらいは飲まれては如何?」


「頂こう。大佐の言う通り、中座させてもらう事にはなろうがな。」


やれやれ、フレンドリーとは言い難い雰囲気だよなぁ。ん? 司令からテレパス通信?


(カナタ、おまえの件でこれからガリュウに話をつける。うまくあわせろよ。)


(オレの? ああ、そうか。狼眼を使えばオレが八熾宗家の人間だって思われますもんね。)


(ああ、八熾一族は御門家に謀反を起こして、一族郎党が照京を追われているからな。)


正確には御門家がそう主張しているだけ、だけどな。本当に謀反を企てたかどうか怪しいもんだ。


(このヒト、謀反を起こされそうな顔してますもんね。でも司令に上から目線でモノを言うなんて、いくら同盟軍の有力都市のトップでも、いささか尊大すぎなのでは?)


(私の祖母が御鏡家の人間だったからな。ガリュウは私を家臣の分家とでも思ってやがるのさ。)


ヤダヤダ、ノーブルな人達ってとかく家格だの血筋だのに拘るよなぁ。


「ところでガリュウ総帥、ここにいる天掛曹長なのですが狼眼を持っていましてね。」


我龍は見るからに険のある目付きになってオレを睨む。


「この小……男が狼眼を持っているだと? 狼眼は八熾一族宗家にのみ顕現する邪眼だ。つまりこの男は八熾一族の人間という事だな?」


オッサン、今、小僧って言いかけたよな? オレの嫌いなヤツリストに載っけとくかんな。


「そのようで。狼眼を持っている事が判明したのはつい最近なのですが、一応耳に入れておこうかと思いましてね。」


ガリュウが口を開く前に司令が釘を刺しにいく。


「言っておきますが天掛曹長を引き渡すつもりはありません。私の部下で先行きが楽しみな軍人でね。」


司令の有無を言わせぬ強い口調にガリュウは彫刻みたいに固まった。


彫刻のタイトルは「憮然」ってところかね。


一瞬の硬直の後、彫刻は人間に戻って抗議してくる。


「父に……いや、照京に弓を引いた謀反人を飼うと言うのか? 照京の長として看過出来ぬ話だ。」


なるほど、こうなりかねないからアギトは狼眼を秘密にしてたってワケね。身を守る保険でもあったろうけど。


しかし本人の前で飼うとか言っちゃうかね。無用に敵を作るタイプだなぁ。


いつか後ろから刺されんぞ、アンタ。


怒りと不本意のオーラを醸し出すガリュウに対し、司令は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)だ。


「これはこれは総帥のお言葉とは思えませんな。天掛曹長がいつ照京に弓を引きましたか? 先々代の総帥が八熾宗家を処刑し、一族郎党を都から追放されたのは四十年以上前の話のはず。生まれてもいなかった天掛曹長にどんな罪があると仰るのか?」


「………一族を滅ぼされた恨みで、いつ弓を引くやら分かったものではなかろう。」


司令は煙草を咥え、クランド中佐に火を点けさせる。オレも点数稼ぎにライターを持ってようかな。


「将来の危険性など理由になりませんな。その理屈で言えば政治犯の子や孫は軒並み処刑せねばならなくなる。それは同盟軍憲章の精神に反する行為だ。それとも照京はいまだ封建制の国家でしたかな?」


「照京は近代的民主国家だ。侮辱は看過出来ぬぞ。」


え~? 御門一族が世襲で権力を握り続けてんだから、民主国家じゃなくて封建国家に近くねえか?


「ならば問題ないでしょう。そもそも危険ですらない。カナタ、おまえは照京になにか含むところでもあるか?」


オレは精一杯畏まった顔を作って答える。


「ありません。顔も知らない一族の恨みや、行ったコトもない街のコトになど興味はない。」


「しかしだな……」


諦めの悪いオッサンだなぁ。独裁者にとって親や自分が粛正した連中の残党ってのは、とかく恐ろしいモノらしい。


実父の先々代だけじゃなくこのオッサンも十三年前にだっけか、御三家の叢雲一族を粛正したんだよな。


しかも先々代は処刑したのは宗家だけで一族郎党は追放で済ませたんだけど、このオッサンは丸ごと処刑したってんだから先代以上の暴君だよな。憲章違反の責任は部下に押しつけたけどさ。


総帥さんは同盟軍加盟都市の基本理念を記した同盟憲章を読めよ。いかなる政治犯、犯罪者であろうとその罪を家族や縁者にまで波及させてはならないって文言があるだろ。地球人のオレだって知ってるぞ。


………アスラ元帥の定めた同盟憲章が有名無実化してんのが問題なんだよなぁ。


しっかし親子揃って家臣を粛正か………まるで自分の足を食べちゃうタコだな。


御三家のうち二つまでお取り潰しにしちまって、残るは御鏡家だけか。御三家じゃなく御一家だね。


惣領を継いで一年ちょっとで急死した先代ってのも、このオッサンが殺してんじゃねえかね。


我龍はなおも司令に食い下がっているが、司令は同盟憲章を楯に知らん顔だ。


「お父様、御堂司令の仰る通りですわ。天掛曹長にはなんの(とが)もありません。」


(みこと)、おまえは黙っていなさい。まだ政治に関わるのは早い。」


ミコトね。この方は我龍の娘さんみたいだな。


「お父様、私も二十二、いつまでも子供ではありません。照京は同盟の中核的都市、同盟憲章を遵守する必要があるかと。」


このお姫様は顔立ちだけじゃなくて心根も美しい方のようだ。


和服姿でおっぱいスカウターの働きがイマイチだけど、ナイスおっぱいなのも間違いない。


いいですな、心優しき深窓の姫君。男のロマンが満載ですよ。


「ううむ、しかしおまえの身の安全を考えても………」


「天掛曹長がいかに精鋭のアスラ部隊の隊員と言えど、たった一人でなにが出来ましょう。御堂司令もそんな事にならぬようしっかり管理して下さるはず。お父様の心配は杞憂です。」


なかなか能弁でもありますね。お父さんに代わって貴方が照京の最高権力者になってくれません?


思わぬ援軍を得た司令がたたみかける。


「総帥、私が約束しよう。天掛曹長は同盟の為に戦いこそすれ、照京に弓を引いたりはせぬし、させぬ。どうかご納得頂きたい。」


そこでお姫様はオレの方を向いた。このお姫様………瞳に力がある。


比喩的表現じゃなく、力を感じる。狼眼が顕現してから、オレは邪眼系能力の発動を感じとれるようになった。


………確か御門一族には龍の目を持つ者がいるってマリカさんが言ってたな。


ミコト様は目を瞑り、ゆっくりと瞼を開けた。


ミコト様の瞳が誰にでも分かる変化を遂げている。


透き通るような………見る角度によって色の変化する瞳。


オレの目を真っ直ぐ捉え、心の奥底まで見通すかのような不思議な瞳だ。


一分も見つめ合っていただろうか。ミコト様は再び目を瞑り、龍の目を封印する。


「お父様、この方に叛意はありません。私の龍の目がそう言っています。」


「心を見通すと言われるミコト姫の心龍眼(しんりゅうがん)が天掛曹長に叛意なしと言っておるのです。総帥、ここは度量の広さを見せられてはどうですかな?」


加勢する機会を窺っていたシノノメ中将も援護に入ってくれた。これは後でお礼を言わないとな。


「ミコトの心龍眼は表層意識の一部を読み取れるにすぎん。確証にはならんぞ。」


うげ!ホントに心が読めるのかよ。い、いまおっぱいのコトとか考えてなかったよな。


表層意識の一部ってんならオレの体がクローンで、魂は日本から来た漂流者だってコトまでは読み取れてねえだろうけど。


それにしても迂闊なオッサンだな、邪眼の能力をこんなところで話しちまうかね。


「では一体天掛曹長をどうしたいと仰るのですかな? 捕らえて獄にでも繋ぐおつもりか? 同盟軍中将として、我が軍の為に懸命に戦う兵士に左様な暴挙は許せませんぞ!」


温厚で知られるシノノメ中将が声を荒げる。


いつの間にかオレ達の周囲には人だかりが出来ていた。ギャラリーから総帥に向けられる視線は厳しい。


司令のシンパだけあって真っ当な人達みたいだ。


「………いいだろう。この天掛曹長とやらが御門一族に仇なした時は中将に責任を取って頂こう。」


ようやく形勢の悪さを察したガリュウ総帥は、往生際の悪い台詞で渋々ながら承諾せざるを得なくなった。


助かったぜ、本来オレは八熾一族なんかとなんの関わりもないんだ。


そして気分を害した総帥は踵を返して出口へ向かう。慌てて父の背中を追う龍の目を持つ姫君。


来たばっかなのにもうお帰りですか。アンタは二度とこなくていいよ。


ミコト姫が途中で振り向いて、オレに向かって目礼してくれた。


なんだか嬉しそうな顔だけど………オレは頭を軽く下げて応じる。


………あの姫君も苦労してそうだな。


偉大な父を亡くして奮戦する司令、出世に目が眩んだ親に売られたリリス、人間の弱くて醜い姿を見せつけられたナツメ、諍いを収めようとしたばかりに手酷い目に遭わされたホタル………そして暴君を父親に持ったミコト姫、か。




………おい神様、いい加減にしろよ。薄幸女性の品評会やってんじゃねーんだぞ!






フグを唐揚げにして食べてみる。


キスやカレイと違ってプレッシャーがかかる事に気付き、自分の器が小さい事にも気付いた。


揚げ加減を失敗したくないもんなぁ、フグは。

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