ちょっとした悲劇?
今作一番の不幸キャラかもしれない。
…‥‥まさかの、ワゼの提案によるサキュバス・フラットとの契約。
従魔にすることによって、今後の彼女の生活をなんとかしてあげる代わりに、あの土下座懺悔事件のようなことを起こさないように監視する意味もあるようだ。
『従魔になれば、こちらで面倒が見れますし、魔力の方はご主人様からもらうとして、飢えることはめったにないですヨ』
【よし、従魔になるのだよ!!】
ワゼのその甘言に、サキュバス・フラットの彼女は見事なまでに速攻で決めた。
なぜだろう、先ほどまでやや物悲しかった雰囲気が、よだれを垂らした彼女のせいで一気に緊張が抜け過ぎた空気になったんだが。
「って、魔力とかってどうするんだよ?」
サキュバス・フラットの本能事情というべきか、精気とかではなく魔力を食べても充分代用になるらしい。
魔力を食べさせてもらえば、サキュバス・フラットの彼女はもう二度とあの土下座懺悔事件のような真似はしないといってはいるが、その供給の仕方が分からないのである。
『本契約まですると、魔物使いとその従魔につながりが出来ますよネ?そのつながりを利用すれば、容易いはずデス』
「だからどうやってやれと?」
『‥‥‥勘?』
そこで疑問形にしないでほしいぞワゼ。
いつもなら完璧な回答が出そうだが、こういう時に限ってはデータにあまりない事のようなので答えようがないそうだ。
意外なワゼの弱点というか、知識不足な場合適切な答えを出すことができないのは人でも同じか。
「ま、とにもかくにも契約を・・・・・仮を経て本契約まで結んでみてから試してみたほうが良さそうか?えっと・・・・・そっちも俺の従魔になっていいんだよね?」
念のために、食欲を抜きで考えてもらったが…‥‥
【いいのだよ。うちはどうせ天涯孤独の身。だったらいっその事、誰かの下に仕えたほうが良いのだよ】
リューの従魔になると決めたら、もうその決意を曲げないのかしっかりとした目でサキュバス・フラットはリューを真っ直ぐ見た。
「ハクロたちも、新たな従魔が増えることに文句はないな?」
【性的な攻撃をリュー様に仕掛けないのであれば、良いでしょう】
【仲間増えるのは良いっピキッツ】
【そもそも、先ほどの話を聞いてむしろこちらから引き取らないと罪悪感があるカナ・・・・・ううっつ、涙がまだ止まらないカナ】
『発案しましたし、文句はないデス』
皆も文句はない。
…‥‥ただ、まだ先ほどの悲しい話の余韻が残っているのか、案外涙もろかったファイが涙を流したままである。
「それじゃ、まずは仮契約の段階として名づけか…‥‥」
サキュバス・フラットという種族名から、サキュバスに関連した者を名付けるべきか、それともフラットに関したものを名付けるべきか…‥‥後者はやめておこうかな。やっぱり色々と失礼だしね。
となると、サキュバス関連で言うならば…‥‥よく聞くのはリリスとか、七つの大罪での色欲の英語の読み方とかがあるけど、どうも彼女には今一つ似合わない。
こう、薄幸の少女に対して、幸せをつかめるような‥‥‥‥褐色だし、茶色のブラウン・・・・・・違うな。
いや待てよ?ブラウンから二文字ほど抜けばちょうどいいかな?
「よし、名前として…‥‥『ラン』でいいか?」
ブラウンから「ブ」と「ウ」を抜いただけだが、これの方が似合うかもしれない。
ランの花があるし、花言葉の一つに「美しい淑女」ってあるからな…‥‥サキュバスにしては、亜種故か色欲が薄い彼女には似合うだろう。
【『ラン』…‥‥うちに似合うかもなのだよ】
こくりとサキュバス・フラットの彼女‥‥‥ランは頷き、互いの合意がなされたところで魔法陣が出現し、仮契約が結ばれた。
「このまま本契約もするか」
ちょっとだけリューは指先を切り、ランもまた切って互いの血を流し、混ぜていれる。
ぴかっと、血が入った部分の傷口が輝き、互いに本契約が結ばれたことを、リューもランも感じ取った。
「あとは魔力の方だが…‥‥どうすればいいかな?」
『魔法を使う要領で、魔法名を唱えずにやってみたらいかがでしょうか?イメージ的に、ランに流し込む感じで試みるのが良いでしょウ』
ハクロのアドバイスを受け、とりあえずやりやすいようにランの手をリューは握った。
「ここから流れ出して、入れるイメージか…‥‥」
…‥‥魔法を使用することはあったが、魔力そのものを流し込む作業流行ったことはない。
イメージしつつ、魔法を使うときと同じ感覚で‥‥‥‥そう、魔法名を唱えたほうがやりやすいかもしれない。
「‥‥‥『魔力譲渡』とか」
これが現代日本だと中二病っぽいけど、なんとなくリューはそうつぶやいてみた。
すると、魔法に近いようなものとして発動したのか、すっとリューは己の魔力とでもいうべきものが出て言ったような気がして。
【お、もしかしてこれが魔り、$%%’#☆Σφγ&’%#%’!?】
「うわっつ!?」
魔力を感じたのか、ランが言おうとした瞬間、彼女の言葉が途中で乱れた。
いや、何というべきか‥‥‥いきなり全身を震わせて、毛を逆立ててぶるぶると痙攣したのである。
「どうしたラン!?」
【ちょっまっつ、魔力が、いっきにふわぁぁぁぁぁぁぁっ!?】
なにやらやらかしたようで、慌てて魔力の供給を止めて手を放すリュー。
だがしかし、遅かったのかそのままランは背中の羽を広げ、尻尾を震えさせ、全身けいれんし、そのままぐったりと倒れて、白目をむいて気絶した。
・・・・・・なんというか、悲惨な惨状である。
「えっと‥‥‥何が起きたこれ?」
【うわぁ、気絶してますけどまだびくびく動いていますよ】
なんかこう、全身くすぐりの刑を喰らった後の人みたいである。
『ふむ…‥‥ご主人様、おそらくですが供給過多だったのではないかと思われマス』
「供給過多?」
『つまり、必要以上に魔力を一気に流したことで、身体が耐え切れず、何らかの感覚で逃がしつつも防ぎきれず、結果として気絶してしまったようデス』
要は、酒の一気飲みで起こる急性アルコール中毒のようなもので、加減が分からなかったために一気に魔力がランの体に流し込まれ、それに耐えきれずにぶっ倒れてしまったようなのである。
本当は、コップから水を少しづつ注ぐかのようにできているのがベストであった。
だがしかし、今回リューは初めてだったうえに、常人を超えた膨大な魔力を持っていたため、ダムが決壊して一気に水が川に流れ込むように、魔力がドバっとランの中に流れ、精神的にやられてしまったようだ。
「…‥‥練習が必要ってことか」
【いやリュー様、まずはこの惨状をどうにかするのが先ですよね】
リューの言葉に、ハクロがツッコミを入れた。
全身がぐっしょりと汗でもかいたのか濡れ、痙攣をわずかにしつつ、白目をむいて気絶しているラン。
とにもかくにも、とりあえず風邪をひかないようにハクロたちに頼んで風呂場へ連れてってもらい、衣服を乾かして寝かせるのであった。
・・・・・・なんかごめん。従魔になって早々、悲惨な目に合わせてごめん。
そうリューは心に思うのであった。
悲惨な状況を分かりやすく伝えるのであれば、全身くすぐりまわして笑い死に一歩かな?
まぁ、どのような感覚に変換されたのかは、彼女のみぞ知るが、絶対に口にはしないであろう。
今後、魔力譲渡の練習は必要そうである。
次回に続く!!
・・・・・・にしても、あまりついていないなこの従魔。戦闘時は搦め手などでやるつもりだけ、下手すりゃ全部自分に跳ね返ってきそうでどうしよう。




