相性最悪
ある意味、分かっていた事実かもしれない。
【グゴォォォォォォォォォォッツ!!】
突如として、大学園祭に現れた巨大な植物のモンスター。
ハエトリグサを極端に大きくしたような見た目だが、そこから考えられる事としては最悪なものがある。
「食人植物にしか思えないんですけど!!」
【がっつりよだれだらだら垂らして襲い掛かってますもんね!!】
慌てて逃げるリューたちの後方で、襲ってくる植物モンスター。
何とか迎撃をしたいところなのだが、生憎この会場はまだ避難できていない人が多く、迂闊に戦闘になれば、流れ弾が当たりかねない。
そのうえ、このハエトリグサもどきのようなモンスターは、その頑丈な、というか凶悪なあごを生やした部分がいくつも出てきて、あちこちの地面から飛び出し、襲い掛かってきているのである。
なんとなく、ヤマタノオロチとか思ったけど、あっちは蛇みたいなものに対して、今回襲ってきているのは巨大植物なので全くの別種であろう。
「ファイ!!氷魔法でとりあえず動きを鈍らせられないか!!」
【了解カナ!!『氷結乱、』】
ファイが魔法を唱え、氷魔法で動きを鈍らせようとしたのだが‥‥‥
【グゴォォォォォォォッツガァァァァ!!】
がぱっと、相手の顎が大きく開き、
ズドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
【のわぁぁぁぁ!?す、隙が無いカナ!!】
魔法を撃たんとしていたファイにめがけ、なにやら種のような物を連射してきて、慌てて彼女は回避したが、魔法が発動できなかった。
「これってもしかして、結構知能が髙いのか?」
ふと、周囲を見渡してみれば何とか魔法などで攻撃して応戦しようとしている人たちがいるのだが、逃げ惑う人よりもその人たちの方を、このモンスターは攻撃しているようである。
しかも、植物のような見た目故か弱点らしい炎や氷などを扱う人を集中的に狙っているようであった。
『分析完了。あのモンスターの正体が判明いたしましタ』
後方から襲い掛かってくる植物モンスターに対して、片腕が変形してズバズバ切り裂いていたワゼが逃げながら報告してきた。
「あれは何だ!!」
『記録に少ないですが、おそらく大昔に確認された災害危険指定種「マンイータープラント」のようデス』
【そのまんまの名前のような‥‥‥‥】
それは言ってはいけないお約束なような気がする。
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「マンイータープラント」
巨大食肉植物モンスター。ありとあらゆるたんぱく質を含んだ生物を狙い、骨一つ残すことなく食べきるという凶悪すぎる特徴を持つ。
人をも貪り食うので、明らかに危険すぎるためせん滅推奨がされていて、今ではダンジョンなどと呼ばれる場所でも奥深くにしか生息しないほど、数が減っているはずである。
サイズは通常のものだと最大でも大型犬サイズまでなのだが、亜種として確認・災害危険指定種となった物には、それよりもはるかに巨大なサイズだという。
――――――――――――――――――――――
「そんな物騒な奴が、しかも巨大な奴が何でここにいるんだよ!!」
『急に発生しましたので、おそらくは人為的なものと思われマス。可能性が高いものだとすれば、「魔封印石」という道具に封じられていたものをあの場で誰かが解放したとかじゃないと説明が付きまセン』
【でもそれってかなり貴重なものですよね!?】
魔封印石は大昔の、機械魔王とは違う魔王が創り出したものであり、その中には凶悪なモンスターが封じられているという。
そのような物騒な物は国に届け出して再封印をしっかりしてもらう義務があり、このような学園祭の会場でそうやすやすと封印を解いてあつかうことなど出来るはずがないのである。
つまり、何処ぞやの国にある物を誰かが持ち出して使用したか、もしくは発掘されていない未発見の物があって、それがここで解き放たれたかのどちらかになるのだが…‥‥どう考えても前者しかない。
『マンイータープラントですと、記録されている限り神聖国エルモディア…‥‥例の馬鹿王子を誘惑した者を送り込んだ国デス』
宗教国とかも言われているのだが、記録上、その国に保管されている魔封印石にしか、マンイータープラントがないそうである。
つまり、この騒ぎの元凶はその国である可能性が最も高い…‥‥というか、あの馬鹿王子の処分済んだのか。
「というかなんでこの場で、っておおっとぅ!?」
危うくいつの間にか上から突進してきたマンイータープラントの、いくつも生えてきている顎の一つが突進攻撃を仕掛けようとしていることにリューは気が付いた。
【ピキッツ!『燃え盛る鉄拳』!!】
すばやくピポが全身を一気に発火させて、顔面はないけどその顎をめがけて拳の一撃を叩き込んだ。
燃えているものだからすぐさま危険と判断して、マンイータープラントの顎たちが攻撃を仕掛けてきたが、生憎ピポの素早さには追い付けていないようである。
というか、身体が小さいから、顎との間にある職種で巻き付いて捕えようにも素早く抜け出されるようだし、ぱっくんと食べられてもその刃の隙間からすぐさま逃げ出せるのは有利な部分であろう。
ただし、それは欠点にもなっているのであった。
「一撃が軽いな‥‥‥」
燃える拳や蹴りを撃ったとしても、所詮小さな体ゆえに、体格の大きな相手には効果が薄いようである。
しかも、相手はすぐさま燃えている部分を斬り落としたりして、燃え移るのを防ぐという徹底ぶり。
「ハクロ、お前の糸とかでからめとれないか?」
【無理ですね…‥‥地面から素早く生えてきますし、本体を潰さないことにはきりがありませんよ】
見る限り、どうもこのマンイータープラントとやらは本体と、あちこちに出没する群体の構造に分かれているようである。
要は竹やツクシに近い構造で、本体から根が伸びて、その根のあちこちから獲物を捕らえるための部分が出ているようなのだ。
つまり、いくら襲ってくる部分を攻撃しても、きりがない。
ハクロの糸で捕えようにも数が多すぎる。
ピポの攻撃は一撃一撃が軽く、そもそもの体格差でダメージが小さすぎる。
ファイの魔法は、発動前に感知されて集中攻撃で発動させられない。
そして、ワゼの攻撃だと‥‥‥‥
『うん、相性最悪ですネ』
内臓武器の一つで、某機動戦士が持っていそうなビー○サーベルを振り回しているのだが、やはりその場しのぎという事で決定的な一撃にはならないようである。
ぶっちゃけ言って、このメンバーだと決定的な一撃がない…‥‥‥どうやら、思わぬ欠点というか、相性最悪の相手のようであった。
決定的な、突貫力のある一撃。
それも、ピポの蹴りとかのような小さなものではなく、もっと大きなものでないと意味がない。
となれば、ここは選択肢は一つだけ。
「全員撤退!!」
リューはそう全員に命令して、逃げ始めた。
そもそも、真正面から相手をするのが間違っている。
リューはまだ学生であり、いくら強いメンバーがいるとはいえ、戦闘経験が少ない。
となれば、ここは撤退し、誰かに何とかしてもらう他に方法はないだろう。
だがしかし、撤退は許されないような状況、というかできない状況になった。
【ダメですリュー様!!すでに囲まれてしまいました!!】
「ちっ、逃げ遅れたか」
ぐるりと取り囲むかのように、リューたちの周囲に続々とマンイータープラントの顎が生えていく。
よく見れば、他にも逃げ遅れた人もいるようで、あちこちからは悲鳴が上がっているようだ。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
「助けてくれぇぇぇ!!」
「いだぁぁぁぁぁぁ!!」
捕食され、飲み込まれていく音が聞こえるようで、思わずリューは耳を防ぎたくなった。
じわりじわりと周囲から迫ってくるマンイータープラントの顎たち。
今はハクロたちとの攻撃で、何とか捕食を免れて籠城しているようなものだが、体力が尽きたその時が最後である。
【っつ、糸での攻撃にも限度がありますよ!!】
【まずい、魔法攻撃をしようにも集中して狙われるから何とか足で攻撃するしか無いカナ】
【ピキ―ッツ!!もう雑草のようにしつこいよー!!】
『エネルギー残量50%。省エネモードとして、物理主体に切り替えマス』
皆で一生懸命応戦するが、もはや限界が近いのが目に見えている。
「くっつ‥‥‥このままじゃ…‥‥」
リューの魔法でも、せいぜい重力で押しつぶしたり、皆の一撃を重くしたりすることはできるが、やはりこのままではらちが明かないのが現状である。
他の皆とは異なる異質な力魔法を扱えるとはいえ、この状況じゃあまり役に立たない無力感にリューは苦虫を潰したような気持になる。
(このままここで人生を終えて良いのか‥‥‥?)
何もできない無力感。
それでも皆に命令をして出来る限りの抵抗をさせているとはいえ、このままでは時間の問題。
いくら異常な魔力を持とうが、異質な魔法を使えようが、強いモンスターを従えようが、所詮自分はただの一人の人間に過ぎなかったのだろうか。
どこかで、敵無しの無双のようなものだという、安心感というか、心のおごりがあったのかもしれない。
もっと自身の魔法や、皆の戦法を見直す時間、強くなるための訓練など、このような事態の前に出来たかもしれない対応を考えると後悔しかない。
‥‥‥でも、今更後悔したって何になるのだろうか?
自分はただ、皆と笑って過ごせるような、時々冒険、そしていつもは楽しくのんびりと過ごせるような物を求めているのであり、別に世界征服とか国家転覆とか、ただ単に強い者を求めての旅をするような目的は無いのだ。
そんな目的よりも、今は皆を守れる力が欲しい。
従魔が魔物使いの盾にも剣にもなるとすれば、その主である己はその皆を更に守るための、より力の大きい盾や剣となりたい。
別に無双とか、チートとか、そう言う物を望むのではない。
ただ単に、今この場で、この状況から乗り越えて皆を救いたい!!
「それだけが今の、自分の望みなんだよ!!」
思わずその想いがリューの口から出ていた。
その瞬間である。
ブワッツ!!
「っつ!?」
突然、全身の血液が沸騰したかのようにリューは感じた。
まるであの日、ハクロをあの巨大な鳥のモンスターから守ろうとして、魔法を使えるようになった時のあの感覚に似ていた。
いや、それとは違うところとすれば、あくまで一時的なものだと自身で理解をすぐにできたことであろう。
そして、その理解を元に、リューは己の持つ魔力を集中させ、すぐに実行する。
この状況を好転させ、そしてすぐにでもマンイータープラントの顎どころか、本体を叩き潰してしまうための方法を‥‥‥
突然の出来事に驚きながらもリューは冷静であった。
その力を元に、この状況を変えられるのであればそれでいい。
今はただ、皆のためにその力を振るいたいだけなのだから‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥そろそろ従魔も増やそうかと考え中。今回の件から、今のメンバーだと決定力に欠けるからね。
『波○砲モドキや、シャイ○スパーク、元○玉のようなものも扱えるのですガ‥‥‥』
「著作権とか、そう言う類で引っかかりそうだから、ネタとしか出せないんだよ…‥‥というか、元○玉使えるの!?」
『その気になれば、惑星すら切断できるファ○ナル○ッタート○ホークなんかもできますヨ』
ワゼの機能がチート過ぎて、逆にバランスを崩壊させるような物をこの作品で扱えないというのが理由の一つでもあるのだが…‥‥
つまらなくなるから、それなりの制限を作者はかけているんですよ。ネタが古いのもあるから読者の方々に伝わるかはわかりませんが。