平穏は崩れ去るものである
平和な時期があれども、やはり主人公は騒動に巻き込まれるか…‥‥
SIDEリュー
‥‥‥大学園祭3日目の最終日早々、リューたちのクラスで行っていた輪投げ屋は、昼前に全ての景品が無くなり、あとは自由行動の時間となってしまった。
「記録更新というか、初日よりも早く終わったなぁ」
【遊べるのは良いんですけど、はやく終わり過ぎですね】
リューのつぶやきに対して、ハクロはそう答える。
輪投げ屋の早々閉店という事で、接客のための人語から、話しやすいモンスター語に切り替えての言葉だが、やはりこちらで聞く方が彼女達らしいような気がリューはした。
『原因は明確デス。どうやら、昨日の胃薬をめぐっての争いが流れたようで、今日の景品も豪華なものになるのではないかという事で、集客効果として大量に客が来たんですヨ』
ワゼの分析によると、昨日の宰相やその他の胃を痛めている人たちが、ファイお手製の胃薬をめぐっての熱い戦いを繰り広げたことで、今日の輪投げの景品はもしかしたらそのような薬や、もしくはもっと豪華な景品があるかもしれないという噂が流れて、結果として客が集まったようである。
【まぁ、実際その通りカナ。よく聞く傷薬や、痒いところに聞くかゆみ止め、あとちょっと効力を薄めたとはいえ、そこそこの毛髪保護剤も景品として出していたカナ】
【効力が抑えられているとはいえ、それなりの体のお悩みがある方たちには大好評だったようピキッツ】
何にせよ、この後は大学園祭の終盤…‥‥暗くなってきたころに後夜祭というのが行われるらしいが、それまではもう自由時間で、他の店をめぐることにリューたちはしていた。
ちなみに、ヴィクトリアは他の女友達とめぐるようなので別行動である。
…‥‥別に寂しいなとは思っていない。婚約者とはいえ、流石に行動の自由を妨げるわけにもいかないしね。
【というか、普通の友達がいたことに驚きますね】
「それ彼女の前で絶対言うなよ!?」
まさかのハクロの言葉に、リューは慌てて言うのを止めさせた。
いや、ちょっとは思っていたけど、そんな素直に口に出すなよ。
‥‥‥というわけで、せっかくこの学園祭は他の学園とも合同で行っているので、フラッター学園側にいるはずのドスパラ&エレクトの兄二人がいるはずの模擬店へリューたちは来たのだが‥‥‥。
「‥‥‥何があったんだよ兄上たち?」
「‥‥‥ふふふ、聞かないでくれ弟よ」
「ああ、ロイヤルード学園や他の同級生たちとも接しやすいこの学園祭とはいえ、怒涛の迫り具合は恐ろしかったよ…‥‥」
真っ白な灰のようになった兄二人を見て、リューは絶句した。
それに他によく見ると、兄たちのようになっているほかの生徒たちも店内に見られ、まるで嵐が過ぎ去ったかのようにも荒れていた。
訳を聞くと、どうやらこの学園祭が合同で、他の学園の生徒と話しやすくもなっていることが原因らしい。
兄二人が通っている学園はフラッター学園…‥‥貴族や平民が入り混じって学ぶ場所である。
ロイヤルード学園という貴族や王族だけの学園の生徒もこの学園祭にいて、要は平民よりも位の高い貴族である生徒たちとも、この大学園祭は接しやすいのだ。
そして、その貴族である者たちの中には当然位の高い者たちもいて、忘れがちだがリューたちの家のオーラ辺境伯爵家もかなり地位としては高い。
そこで、玉の輿を狙う女子生徒たちや、その他学園祭に出入りできる外部の参加者たちが押しかけてきて、アピールとかに付き合わされたのである。
例え、位の高い貴族出身でロイヤルード学園に通っている女性生徒でも、家を継ぐわけでもない者たちであれば他の位の高い家に次ぎたいだろうし、平民だけのゼウストリア学園でも、あわよくばシンデレラのごとく玉の輿を狙いたい女子生徒はいる。
また、兄たちのいるフラッター学園の場合は、家はどうでもいいけど人がらに惹かれての人が意外にいるらしい。
夢追い人育成学園の方は、将来的に貴族籍につけたらなぁという夢があっても、地力でかなえたい人が多いので行動を起こす人はいないようだったが…‥‥
とにもかくにも、そんなわけで女性生徒たちの玉の輿狙いのアピール合戦のような物が開かれており、最終日の今日爆発して、その対応の忙しさに灰と化したようなのであった。
そのせいで、皆の疲労っぷりがすさまじく、今日はもう少し休業するらしい。
ちなみに、逆玉の輿という言葉もあるので、狙われるのは何も男子生徒ばかりではなかったようなのだが、外部から入ることが出来るこの学園祭には、娘が変な輩の毒牙にかからないように、見張りのための親たちも来ているようなので、未然に防がれているのであった。
…‥‥リューも一応兄たち同様辺境伯爵家の息子であり、王族のヴィクトリアとの婚約関係にあるので、うまいこと行けば王族とつながりを持てる立場にあるのだが、そこはハクロたちがガードしてくれているようなので、変な虫は近付かないようだ。
というか、来て欲しくもない。兄たちの憔悴ぶりからやばいのがはっきりわかるもん。
「疲労やばそうカナ。これ、飲むカナ?]
人の言葉で話しかけ、ファイは懐から2本の薬品を取り出した。
「『精神回復薬』という、心の疲れをいやす薬で、これを飲めば復活できるはずカナ」
要は、心の栄養剤。
体力の回復や、怪我の知慮を目的としたものではなく、精神的に効く薬品のようである。
某崖を登るCMに出てくる薬の、気分を爽快にするだけバージョンってところかな。
ファイから手渡された薬を兄たちは飲みほして‥‥‥
「ふぉっつ!?」
「ファイトいっぱぁぁぁぁぁっつ!!」
どうやら十分効果があったようである。
きらりと目が光って、ふんはぁっつ!!っと力を入れてたちどころに兄たちは復活した。
「ま、元気になることはなるけど、副作用として1週間は眠れなくなるカナ」
「それを先に言ってくれないかな!?」
「飲んだ後に言われても!?」
…‥‥遅すぎる注意であった。ファイよ、そういう副作用があるなら先に言え!!
ピポが察して渡してくれたハリセンを持って、リューはファイにツッコミを入れるのであった。
しかし、徹夜したい漫画家とか、残業を乗り越えたいサラリーマンとかには需要ありそうだな…‥‥この世界にその職業があるのかはわからんが。
念のために、副作用が薄い方をファイに素早く作ってもらい、他の方々にもおすそ分けをした。
【薄いから元気も薄くなるけど、2日徹夜程度なら大丈夫カナ?】
「最初からそうしたほうがよかったんじゃ…‥‥」
とにもかくにも、その店からリューたちは出て、他の学園の模擬店を見て回ることにした。
「射的、くじ、お化け屋敷などいろいろあるなぁ‥‥‥」
【学園ごとの特色や、魔法などを使用しているために、似たような店でも結構違うようですね。ほら、あそこなんて空中アクロバティック玉乗り皿回しナイフ投げ綿飴屋さんと言う物がありますよ】
【詰め込めるだけ詰め込んだ感じがするカナ】
【でもすごーいピキッツ!!】
ガッシャァァァン!!
『あ、大失敗して崩落しましたネ』
あちこちを見て回るが、どれもこれも面白い。
大学園祭なので、他校の特色を目で見ることが出来るのも面白い一因だろう。もっと語彙力が欲しいけど。
昼過ぎとなり、そろそろ休憩しようかとリューたちは考え始めた。
【ずっと歩き回るのもなんですし、どこか休めませんかね?】
「何しろ広いからなぁ・・・・・あ、中央の方に休憩用のスペースがあるようだな」
大学園祭会場は広いので、あちこちに現在地が分かる看板があるのだが、それによって休憩できそうな場所をリューたちは見つけた。
その場所へ向かい、到着したのは良いのだが…‥‥そこで、リューはある人物を見かけてしまった。
「ん?‥‥‥あれって」
なにやら怪しい動きをしている人物がいるが、その髪の色は青くて、きょろきょろしている顔を見れば右が青色、左が赤色のオッドアイの目の渋いおじさん。
変装のつもりなのか、あまり目立たないような服装をしているが‥‥‥
【間違いなく、アレン国王ですよね】
【変装のつもり‥‥カナ?】
【バレバレピキッツ!】
『周囲の人が気遣って気が付かないふりをしていますけど、良い大人が何をしているんでしょうカ‥‥‥』
どうやらこの国の国王本人のようである。
国王の訪問は短い時間で終わっているはずなのだが、どうも抜け出してきてこっそり最後まで楽しむ気のようだ。
今頃、国王を探している人たちは気が気でならないであろう。
「ワゼ、ミニワゼで探しているであろう衛兵や側近の人達に国王の居場所を連絡してやってくれ。自由にさせたほうが良いかもしれないけど、あれでも一応お義父さんにもなるし、この国の重要な国王だからな」
【一応扱い‥‥‥まぁ、わかりますけど】
『了解。ミニワゼ3号機を向かわせました』
何かを国王がやらかす前に、先に捕縛してもらったほうが良いであろう。
とはいえ、今関わったら最後まで付いてきそうで、めんどくさい。
「皆、今のうちに気が付かれないようにそっと離れるぞ」
『【【【了解】】】】』
全員同じ思いだったようで、すぐにその場を離れようと、リューたちが方向転換したその時である。
‥‥‥バキッツ!!
「ん?」
何かが割れたような音がした。
それも、嫌な予感を感じさせるものが割れたかのような‥‥‥
‥‥‥ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズッツ
「!?」
【なんですか!?】
数秒後、いきなり地面が揺れはじめた。
地震かと思いたかったが、その揺れの具合は違う。
ドバギャァァァ!!ドバギャァッ!!ドガァァァ!!
あちこちの地面がひび割れ、何かが飛び出してきた。
とげとげしくて、まがまがしい色合いをしたまるで何か巨大な植物の根のような‥‥‥
【グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!】
びりびりと、空気が震えるような、大音響の雄たけび。
耳がじんじんしながら、其の方向を見てみれば、先ほどまで確かになかったはずの、巨大なハエトリソウのような物がその場に生えていた。
「も、モンスター!?」
【なんかどう見てもやばい奴ですよこれ!?】
【ググォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッツ!!】
再び雄たけびを上げる、巨大ハエトリグサのような、植物のようなモンスター。
いや、下手したら某配管工のおっさんの敵キャラに出そうな見た目でもあるが‥‥‥‥とにもかくにも、いかにもこの場には似つかわしくない、巨大な植物のモンスターが姿を現したのであった‥‥‥
――――――
SIDE???
【ググォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッツ!!】
「っつ!?流石にものすごい迫力だな‥‥‥」
巨大植物モンスターが出現した位置から少し離れた場所にて、その姿を見て思わずその者たちはそうつぶやいた。
魔封印石を仕掛け、ターゲットが最も接近した時に起動させ、中にいる封印されている凶悪なモンスターを解き放ち、襲わせようと彼らは計画していた。
だが実際、出現したモンスターの迫力を見て、彼らはビビった。
「い、急いで予定通り逃げるぞ!!」
「幸いパニックが起き始めているし、紛れて逃げれば大丈夫なはずだ」
周囲では、突然のモンスターの出現に驚愕し、逃げ惑う人々が出てきていた。
その人たちに彼らは混じろうと…‥‥
『『『ミーッツ!!』』』
「ん?」
いきなり聞こえてきた、この場に似合わないような可愛らしい声。
ふと何事かと、思わず皆が振り向いた先には、小さな少女のような者たちがいた。
小さなメイド服のような物を着こなしており、その胸元には番号のような物が掛かれている。
そして、その手にはそれぞれ大きな筒状の武器のような物を持っており、彼らに狙いを定めて・・・・・
『『『ミッ!!』』』
ボンッツ!!という音と共に、何かが噴き出し、彼らはその場で気を失ったのであった‥‥‥
突如として大学園祭会場に現れた巨大なモンスター。
凶悪な牙を持ち、まさに怪物と言える見た目をしている。
果たして、この襲撃にリューたちはどう対応するのだろうか。
次回に続く!!
‥‥‥なお、最後の方で小さな者たちがぶっ放したのは『超強力全身麻痺噴煙幕放出機』である。とある機械魔王の作品の内臓武器の一つであり、一発喰らうだけでも半日は全身麻痺で動けなくなる非殺傷武器。モンスターには効かず、あくまで対人用なため、使用機会が少ないのが悩みどころ。
ちなみに、麻痺の威力の調節を間違えると、呼吸器系まで麻痺してしまうので最新の取扱注意が必要。
それって非殺傷兵器なのかというツッコミは無いようにお願いいたします。




