その景品を争いし者ども
大学園祭中のちょっとした小話かも
SIDEリュー
「‥‥‥物凄い熱い争いが、今まさに目の前で行われているな」
「たかが輪投げ、されど輪投げ。それでも勝負となれば、ここまで盛り上がるのは必然なのですわ」
大学園祭2日目。
今日も開催されたリューたちのクラスの輪投げなのだが、今日は昨日と空気が違っていた。
原因はある景品が輪投げに追加されたことであり、その商品を得ようと火花を散らす者たちによって、熱き戦いが繰り広げられているのだ。
「その原因、私、お手製の胃薬なのはどうなのカナ?」
人の言葉を話しながら、ファイが予想外だったようにそうつぶやいた。
「父上、4つの学園それぞれの学園長…‥‥そして、アレン国王の側近とされる宰相カクスケさん。その他、普段からストレスが溜まっているらしい人たちが求めるのはすごいな」
バチバチッと火花が散り合う様子を見ながら、リューはその輪投げの戦いに参加している者たちを冷静に分析した。
元々、ふざけて景品に加えたファイお手製の胃薬。
スキュラの作る薬は効果が高く、市場では高値で取引されていたりもするらしい。
そんなスキュラの中でも、スピリット・スキュラであるファイが創り上げた薬品はより効果が高いようで、そのせいか、その胃薬を狙って、ここに何かしらの負担を胃にかけているものたちが集い、争い始めたのである。
…‥‥正直言って、ここまで争いになるとは思っていなかった。
というか、なぜ宰相までここにいるのかが気になったが…‥‥どうやら、アレン国王が3日目に訪問しに来るから、その前の下見に来たのであろう。
そこで、偶然にも今回景品として出展された胃薬を聞きつけて、やって来たそうな。
ちなみに、父の場合は兄弟がそれぞれの学園で模擬店を営んでいるので、2日目の今日に偶然来ただけであり、そしてその薬の存在を知った以降は宰相と同じ。
他の各学園長も同様の理由であろう。それにしても他の学園の学園長たちも似たような境遇にあるのだろうか‥‥‥。
「ファイ、あの胃薬って量産できないのか?」
「素材の具合によって調整が変わるし、そこそこ高い薬草なども使用しているがゆえに、量産は難しいカナ?」
‥‥‥時間をかければそれなりの数が作れそうだが、今、この場を収めるだけの薬をすぐに作るとなるのは無理なようだ。
つまり、この場であの薬を手に入れられるのはたった一人だけ。時間が経てばもらえるかもしれないけど、目の前に今すぐ解決できるような薬があるのなら、待つよりも先に手にしたいというのがその人の心の欲望ではないだろうか。
そして、その効能と効果の高さを聞き、手に入れようと燃え上がる者たち。
たった一つの、それでいてとんでもない薬を手に入れるだけに、互いに争っていく光景は、まるで国が利益を求めて他国を追い落としていく様のようであった。
だがしかし、その戦いは思わぬ形で決着がついてしまった。
「ぐべっつ!?」
「ぶばっつ!?」
「ぼぼぶぅ!?」
‥‥‥全員、吐血して力尽きました。
どうやら負担が限界突破したようで、この戦闘で進行が進み、同じタイミングで撃沈したようである。
大学園祭の万が一のために設置されていた緊急医療班に搬送されていく者たちを見て、その場にいた者たちはこう悟った。
戦いは、いつもむなしいものであると。
「いい感じにまとめてますけど‥‥‥‥あの様子では、誰も手に入れられないようですわね」
「ファイ、後で希望者を調査するから、人数分用意できるようにしておいてくれないか?」
「うむ、了解カナ。【‥‥‥毛生え薬や胸を大きくする薬とか実はあったけど、この様子だとだなさくて正解だったカナ】
人の言葉から、モンスターの言葉に変えてつぶやいたファイの一言。
その言葉を聞く者は他におらず、こっそりその薬は廃棄したほうが争いを産まないだろうと、ファイは思った様であった。
‥‥‥うん、本当に争いの火種になるような薬品はやめておこうな。せめて頭痛とか風邪に効く薬程度に抑えておいたほうが良いだろう。
‥‥‥なお、後に希望者全員に薬は届けられたのだが、宰相の方は手遅れであった。
「胃薬よりも、抗がん剤かストレス緩和剤のほうが良いような」
【無理カナ主殿。いくら医薬品を与えようとも、手遅れカナ。それよりも今は、宰相の後継者の方を探したほうが良いと思うカナ】
「例えで言うならどのぐらい酷い?」
【ん~末期。動脈硬化、高血圧、胃がん、痛風、ストレス性全脱毛症…‥‥】
「それどこのブラック企業に勤めた末路だよ‥‥‥」
【この国では最もつきたくない職業が宰相らしいカナ。その分、給料は高いそうだけど、金をとるか、命をとるかの選択が重いらしいカナ。まぁ、あのカクスケさんの場合、国王に長年使えてきたせいか、金とか命よりも、何処へ行くかの不安感ゆえに離れることができないと言っているカナ】