ワゼの報告
情報収集能力と家事特化…‥‥とワゼは言っているけど、ぶっちゃけ武器とかも高性能。
むしろ高性能ゆえに、扱う能力を少々下げて、他の機能に回せたのではないかと思い始めた。
SIDEリュー
‥‥‥夏休みも終わり、リューたち学園に戻ってくると秋の冷たい木枯らしが吹き始めていた。
そして案の定というか、夏休みの宿題をやり切れなかった者たちが先生方に叱られていたりする光景もあったが、それはそれで風情を感じるであろう。
【いやリュー様、それに風情を感じることはできないような気もしますが‥‥‥】
ハクロにツッコミを入れられたが、共感できている人がいると信じたい。
「それにしても、なんかこう、最近視線を妙に感じるな」
「ああ、わたくしたちの婚約話が学園中にようやく広まったようですわね」
『調査の結果、じわりじわりと拡散している模様』
授業が始まって、数日経過したある日、リューはそうつぶやき、ヴィクトリアとワゼはそう返答した。
夏休みの最中のヴィクトリアとの婚約話。
決闘を貴族達からも挑まれ、返り討ちにして、そして正式に婚約が決定したのである。
その話題があった首都から学園があるこの都市は離れているのだが、どうやら今頃になって噂が到達してようであった。
『あの婚約話や決闘があった時にいたのは貴族たちばかりでしたが、その話が使用人とかに伝わり、そして外へと拡散していったようですネ。城下街に入り、そして出入りする商人たちの耳に入って、各地へ広がっているのでしょウ』
人の噂も七十五日というけど、一応この国の第2王女が婚約した話はその日数すらも超えて拡散していきそうである。
「でもなんかそう言うのを聞くと、ちょっかいをかけてきそうな輩が出そうで嫌だなぁ」
今はまだ国内で良いのだが、国外の‥‥‥国交の政略結婚みたいな考えていた他国の権力者たちからいろいろと仕掛けられてきそうな気がリューはした。
「まぁ、お父様はきちんと交渉とかなさるでしょうし、多国間での問題はおそらくないですわね」
【そうは見えないけど、政治の場ではまともにしているのが人間の不思議ですよ】
『あ、念のためにミニワゼたちでそう言った他国の権力者の弱みゴホン、動向を探らせたりもしましたが、今のところは問題ないようです』
今、弱みとか言わなかった?
ワゼがごまかしたように咳払いをしたが、ごまかしきれていないような気がする。
メイドゴーレムとは言え、人間くさい部分があるのが見えたような気がして、すこし面白く思うも同時に、弱みを探ってどうする気だったのかリューは少々話したくなった。まぁ、一応思ってやってくれている事らしいので黙ったが。
『それはそうと、思い出しましたが…‥‥一応リュー様とヴィクトリア様に報告しておこうかと思う事項がありましたネ』
まだごまかしているような感じもしつつ、ふとワゼがそう口にした。
「え?なんかあるのか?」
「わたくしにもですか?」
『ハイ。まだ王城の方からヴィクトリア様に連絡が行っていないようですが…‥‥第3王子のボーンブリッド・フォン・ザウターさんが、いえ、もうただのボーンブリットのようですが、昨日未明、王位継承権剥奪、王籍削除及び平民落ち、加えて他国の諜報員への情報流出やその他の罪で牢獄に入れらたようデス』
‥‥‥どうやったら、そんな昨日の王城の情報が素早く伝達するのかが気になったが、その情報にもリューたちは驚いた。
ただし、なんとなくやらかしそうだなという納得感があったので今一つ微妙なところであったが。
「そっか、ヴィクトリアの兄が捕まったのか」
「というか、王位継承権とかはまだわかりますけど、情報流出ってそんなことを考えることがあの兄にあったのが驚きですわね」
何気に酷いことを言っているような、間違ってはいないようなことをヴィクトリアは言った。
『あ~、正確に言えばその馬鹿にべったりだった悪臭女ベルモアが主犯デス』
まさかとは思っていたが、どうやら正確には王子ではなく、そのベルモアがうまいことコントロールして入手したという事のようだ。
事件の詳しい説明を聞くために、一旦ワゼに事のあらましから説明をしてもらうことにした。
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~ワゼによる第3王子ボーンブリッド・フォン・ザウター失脚までの流れ~
第3王子の平民落ちは、実は夏休みが終わる前日には既に決定していた。
王城へ帰還した第3王子ボーンブリットだが、フラッター学園の方から補習授業を抜け出してきていたのがばれ、国王に怒鳴られる形で引きずって学園に戻されていたらしい。
そんな醜態をさらしまくり、成績も不良で、色欲に溺れているようでは国政を担わせるという事も出来ず、かといって一応王族だから適当な爵位を与えようとも、貴族だカラみたいな考え方で態度が改められないであろうことは容易に想像がついていた。
アレン国王は念のために主たる貴族たちを集めて話してみたが、満場一致で第3王子の王籍の除籍に加えて、本来ならばまだ貴族籍を残すはずだが、余りのひどさゆえに、平民落ちを続けて決定することに、誰も文句は言わなかったのである。
婿にもらったりして、王族との血のつながりを得ようとする貴族もいたようだが‥‥‥流石に、第3王子は嫌だったようで、本当に見捨てる形にした様であった。
というか、そう言った人たちですらいらないもの扱いされるのは逆にすごいような気もするが‥‥‥。
とにもかくにも決定したことであり、王族から抜かれるという事は扱いを平民に変えなければいけない。
フラッター学園の方にもその手続きをさせつつ、着々と準備を進めていたところで、そこにある事実が持ち込まれた。
持ち込んできたのは、将来の王位継承権がある第1,2王子たち。
第3王子のボーンブリットはダメな子になっていたが、その上の王子たちは国王に似た有能さを持ち、そして念のためにやらかしそうな第3王子を身辺を調べてもいた。
その二人が調べているときに、ある存在が浮かんできた。
その名はベルモア。第3王子の自称みらいの王妃と呼ばれている令嬢である。
ただ、不審な点がその令嬢から数多く出てきたことに、王子たちは気が付いた。
ある貴族の令嬢というが、そんな貴族の存在がなく、妙な香りがするので調べると薬物の反応がある。
それで第3王子を虜にしたのかと思ったが…‥‥それはなく、本気で惚れさせてしまったようだ。
それは置いておいて、とにもかくにも、その身辺がどうも怪しすぎるので王子たちが調べてみたところ、そのベルモアの本当の姿が明らかになった。
彼女はなんと、他国の諜報員。つまりスパイであり、馬鹿王子から次々とこの国の情報をむしり取って流していたことが判明したのである。
幸いな事というべしか、第3王子はそこまで重要な情報は与えられておらず、持っていたとしても実はかなり古いものばかりで被害はそんなにない。
けれども、色欲にうつつを抜かしてやらかしていることは大問題であり、そしてベルモアという女も他の権力を持っていそうな者たちに取り色としていたりなど問題行動を起こしていた。
流石に、このままにはしておけないので、王子たちは画策し、そしてある方法を国王に伝えに来て、アレン国王は了承した。
準備をし終え、学園から王城へと来るようにとアレン国王は第3王子に連絡した。
お前の婚約者を此方で決めて、そいつと過ごせというものである。
ヴィクトリアのように、国王は王子たちにも本当は好きな相手と結ばれてほしいと思っていた。
ただ、流石に今回の第3王子はやらかし過ぎて、この際喜劇になるように画策して、罠の婚約話を出してきたのである。
第3王子のボーンブリットはその話を聞くと、憤慨した。
いわく、其の婚約者の相手の名前が出てきたのだが、社交界ではデブリン令嬢の名前で通っている少々ふくよかな女性。
一応、ある程度聡明であり、誰とも親しみやすいような人であるがゆえに愛称でそう呼ばれていて、本人もその相性がなぜか気に入っていたのだが…‥‥ボーンブリットはその人の詳細を全く知らず、ただのデブを婚約者にされるなどまっぴらごめんだったのだろう。
大急ぎで王城へ彼は向かい、ついでに婚約を結びたいベルモアも一緒に連れて、彼らは突撃した。
王城の謁見室で、ベルモアを引き連れてボーンブリット堂々ベルモアと婚約することを宣言し、そして来ていたデブリン令嬢に誹謗中傷の罵詈雑言と、なんといえば良いのかわからないほど言いたいことを言いまくったようである。
王族であるが、それでも国王の前でその令嬢に無礼を働きまくりで、そしてマナーもないようにふるまい、諜報員と判明している女が己を愛してくれている者だろうと思っている盲目さ。
そのあまりの醜態に、国王はものの見事に罠にはまった第3王子に内心爆笑しかけたらしいが、一応抑えて本気で怒っているように見せたそうだ。
兵士たちが呼ばれ、ボーンブリットたちはとり囲まれた。
なぜこうなったのかがわからないボーンブリットが抵抗しようとしたところで、第1,2王子たちが出てきて全ての事を話した。
そのあまりの素行の悪さや成績不良の段階で既に王位継承権はなくなっているような物であったり、そのお前が愛している女は他国のスパイであり、情報を横流しにしていたなどとどんどん話していくたびに、言激怒していた顔から、事の重大さを馬鹿でもよく分かったのかボーンブリットは青ざめさせていった。
そのうえ、この場で相手が不満とはいえ、その令嬢にいきなりのダメダメすぎる態度や、愚かな女を妻に迎えたいという馬鹿さ。
そしてこの時、馬鹿王子はついでに自分が未来の国王になるからなどとも話していたのだが…‥‥その言葉もまずかった。
まだ王太子は決まっておらず、次期国王の話もしていない。
そもそもボーンブリットには上に二人の兄である第1,2王子たちがおり、そちらの方が優秀で、どちらが王になってもおかしくはない。
それなのに次期国王になるなどという事は…‥‥それは天地がひっくり返ってもほとんど無理な話である。
故に、暗殺などの手段も考えていたなどの可能性も出てきて、その罪状も含めて馬鹿王子は王子ではなくただの馬鹿な罪人にされて、その場で捕えられた。
その捕えられた事実が嫌で、再燃した怒りで暴れる前に、ついでに第1,2王子たちはその馬鹿の心を丁寧に折るために、馬鹿が隠そうとしていたらしい所業や黒歴史の数々をどんどんその場で暴露していった。
その暴露にあっけに取られて、次第に馬鹿は再び消沈し、終わったころには心が持たなかったのか、気絶していたようである。
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‥‥‥そして、馬鹿王子は王子ではなくなったのだが、ここでまた問題が起きたようだ。
『そのベルモアですが、馬鹿王子が消沈し、暴れることができないだろうと皆が油断したタイミングで、逃走を図ったようデス。隠し持っていたらしい煙幕をその場にはって、皆が見失った隙にその場から消え失せましタ。馬鹿は牢獄で処分を待っていますが、ベルモアは逃走中。足取りをミニワゼたちは追いたかったのですが、生憎何やら秘密兵器のような何かしらの魔道具で逃亡されたようで、行方不明となりましタ』
「なるほど‥‥‥なんかこう、最後がもやもやする結末になったのか」
「なんか残念ですわね‥‥‥その撃沈していく馬鹿の様子を観察したかったですわ」
『そこは別にどうでもいいと思われマス』
とにもかくにも、問題はベルモアである。
『他国からの諜報員だというのは判明していますが‥‥‥その国がこれまた厄介なところのようデス』
「お父様が厄介とも思う国ですと‥‥‥もしかして」
『ハイ、おそらくこのザウター王国と国交がほとんどない、かなり離れた地にあるという宗教国家「神聖国エルモディア」デス』
―――――
「神聖国エルモディア」
他国との関わりはほとんどなく、預言者や巫女などと様々な神託を告げる者がその国の政治を担うとされており、情報が少なく、未だに謎が多い国である。ただ、歴史の狭間に時折現れる、繁栄も滅びももたらすという魔王と言う存在を、絶対悪として嫌いきっている宗教国家という事だけはしっかりと判明している。
―――――
「なんでそんなところからの諜報員が来たんだろうか‥‥‥」
というか、そもそも人選をミスっているよな気がする。
馬鹿なら扱いやすいという事で第3王子を狙ったのだろうけど、バカだった分さほど重要な情報も持っていなかったからね。
どうせなら王城に潜り込んで、密かに仕事をしているとかだったらまだわかるのだが…‥‥
『目的の詳細までは不明ですが、どうやら魔王の存在を探しているようデス』
魔王‥‥‥繁栄や滅びのどちらかをも荒らす存在であり、ワゼもその魔王のうちの機械魔王と呼ばれる人物に作られた作品である。
「確か魔王を絶対悪にしている国だというのはわかるけど‥‥‥なんでわざわざこの国にだよ」
『おそらくですが、神託とやらで判断したのでしょウ。ですが、どうもその国内でも色々と問題が置きまくっているようで、結果としてあまり操作能力がないのかもしれまセン』
腐敗しての、汚職してのと相当荒れているようで、国の機能がマヒしているらしい。
それ故に、馬鹿にしか諜報員を割く余裕がなかったのではないだろうかと推測できた。
「しかし魔王の存在ですか‥‥‥今の時代に現れるのかしら?」
「歴史にちょくちょく出ているようだけど、種族とかもバラバラだったりするようだしね」
【基本、おとぎ話のような存在ですよ。もしくは歴史上の偉人ですかね】
【スライムの魔王とかいたら面白そうなのになーピキッツ】
【それはそれであまり想像がつかないカナ。というか、微妙に弱そうカナ‥‥‥】
『まぁ、魔王となる人だって何かしらのきっかけがない限りは早々ならないようデス。今はまだ、その片鱗は寝ているのでしょウ』
とりあえず、馬鹿の最終的な処分が気になるので、引き続き何か情報が入ったら知らせるようにリューはワゼに命令した。
「しかしワゼよ、ミニワゼとかを王城に置いてきているのか?」
『いえ、きちんと全員収納したりしてますよ。何か用があるときにだけ向かわせ、一晩で帰ってきて報告してもらうだけデス』
どうやって一晩で帰ってくるのかは気になったが…‥‥まぁ、機械魔王のオーバーテクノロジーかなとリューは結論づけるのであった。
‥‥‥馬鹿王子の最終的な処分方法はまた後日。
実は、そのデブリン令嬢は最初から耳栓をしていて、馬鹿の罵詈雑言を全く聞いておらず、黒歴史などを暴露するところで外していたのであった。一応変なことに付き合わせた謝礼として、ある程度の金が渡されたが、彼女は孤児院に全額寄付したのだとか。
ちなみに、その令嬢の孤児院への寄付話で王子のどちらかが惚れていたのだが、それはまた別のお話という事で‥‥‥




