閑話 一家団欒
本日2話目!!
SIDEリュー
オーラ辺境伯爵領へと帰郷し、なぜか少々やつれた父を心配しつつ、その日の晩は屋敷で久しぶりに家族そろっての夕食となった。
皆で和気あいあいと、近況報告をしたり、成長を実感して過ごせる楽しい時間である。
「ふぉぉぉっつ!?なんだこのうまい料理は!!今までと同じようで、味が格段に上がっているぞ!!」
「確かにそうね。足りないなと思っていた味付けを、見事に保管し、そして食べやすいように丁寧な心遣いがされているわ」
「ワゼが手伝っていたからなぁ‥‥‥うまいけど、料理長に土下座されていた様子を思い出すと驚いたな」
「兄はうらやましいぞ‥‥これフラッター学園の食堂よりも格段に味が上過ぎる」
「どうしよう、これ学園に戻ったあとレベルが落ちている料理を食べられるかな…‥」
「旨ければいいような‥‥‥まぁ、でも気持ちはわかるかな」
‥‥‥ワゼが屋敷の厨房に潜り込み、料理人たちの手伝いをしたらしく、夕食の味が格段に向上していた。
料理に関しての語彙力がうちにはない様だが、とにもかくにもみんなおいしいらしい。
【うわぁ‥‥リュー様のお父様が涙を流しながら食べてますよ】
【あそこまで泣く人だったかなー?】
【まぁまぁ、主殿の父はこの領地経営とかで大変なのかもしれないカナ。その辛さで、こういう時に涙を流しているカナ】
『あ、一応レシピや改善点は既にこの屋敷の料理長へ告げています。ご主人様の家族は私にとっても大切ですからネ』
「ありがとう、息子の従魔らしいメイドゴーレムのワゼよ…‥日頃の辛さが、このステーキの肉汁のように溶けだしているんだ…‥」
「ふふふふ、にしても愛しの息子がまた従魔を増やしてくるとはね…‥できれば今度は小さな女の子が欲しいのだけれども…‥」
涙を流すリューの父親であるディビットと、さり気なく願望を告げる母のミストラル。
親孝行がなんとなくできているようで、リューにとってはうれしい事でもあった。
「あ、そう言えばドスパラ兄上とエレクト兄上に聞きたいことがあったんだった」
ふと、リューはあることを思い出した。
ここに来る前、ある場所で…‥‥
「多分、兄上たちも知っているだろうけど、第3王子に出くわしたんだよね」
「何っ!?あの馬鹿王子にか!!」
「そろそろ学園から追放されるのではないだろうかと噂になっている、ウルトラボンクラ王子にか!!」
‥‥‥ある程度の予想ができていたとはいえ、酷い評価である。
よっぽど評判が最悪な様で、本気でどうにかしたほうが良いのではないだろうかとも言われていたそうだ。
城下街での話をして、悪臭女の話をすると兄たちは誰なのかよくわかったようで、嫌な顔をしていた。
「あ~‥‥‥それ絶対ベルモアだ。間違いなくあの悪女だ」
「あの甘ったるい女か‥‥喜劇コンビで確か有名な二人だっけ」
片方ずつなら最悪な人物。
両方揃えば、マヌケに見えて笑いがこぼれる喜劇コンビ。
それが、第3王子&ベルモアの周囲からの認識のようであった。
「あの女はさ、権力やら金がありそうな異性に近づいては『あなただけが特別よ~ん』みたいな、甘ったるい言葉をささやいてくるんだぞ」
「しかもな、俺達にまでささやいてきて…‥ううっつ、あれは鳥肌が立つくらい、どこか気持ち悪かったなぁ」
その時のことを思い出したのか、鳥肌を立てる兄上たち。
本気で嫌な思い出のようで、思い出させて悪かったなとリューは何処か罪悪感を抱いた。
第3王子はまぁいいとして、やはりそのベルモアとか言う女ははっきり言って、男子生徒たちからほぼ人気がないそうだ。
ベルモアにデレデレしている第3王子はものすごい悪趣味だとも言えるようだ。
‥‥‥ある意味お似合いの二人だからいいような。
「とはいえ、そのベルモアってどこかの貴族の娘と名乗っているらしいが‥‥‥実はその話って、物凄く怪しいんだよね」
「というと?」
「馬鹿王子は気が付いていないのか、それとも勉強不足なだけか、はたまたその両方か。とにもかくにも、その令嬢が言っている貴族家って‥‥‥実はないんだよ」
「はぁっつ!?」
つまり、詐称のようなものなのだが…‥そもそも、いつの間にそのベルモアとか言う令嬢が学園にいたのかも、実はよくわからないそうだ。
「それってどう考えても怪しさ100%だろ」
「そうだよなぁ。だから第1,2王子様方が調べているようで、調査結果次第では夏休み明けには追い出すつもりらしいぞ」
どうやらすでに解決に向けての話は順調に進んでいたようだ。ついでに、存在しないという貴族の娘を入れている時点で学園に問題があるのは確定しているから、ついでに大掃除としてこびりついた有害な者たちを一掃する予定もあるらしい。
この際、容赦なく徹底的にやるようで不正している人たちも検挙されていくであろう。
とにもかくにも、せっかくの帰省なので、これ以上不快になるような馬鹿たちの話はそこでやめて、リューたちはその後はたわいもない世間話で笑いあった。
その日の夕食は、馬鹿の話が出たとはいえ、皆楽しく過ごせたのであった‥‥‥
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SIDEワゼ
‥‥‥深夜、皆が寝静まるころに屋敷内ではワゼが活動していた。
『ミッ!ミミミッツ!!』
『ミ―ッツ!!ミッ!』
『ご苦労様です、ミニワゼ2と5号機。情報収集は完了したようですネ』
リューたちも気が付かない間に、彼女はミニワゼたちを情報収集の任務に当てており、現在その情報を一旦まとめているのである。
人知れず、主であるリューを守るために様々なこの世界の情報をワゼは収集し、活かしているのであった。
『なるほどなるほど…‥‥調べれば調べるだけ、本当にあの第3王子が国王の息子なのか滅茶苦茶疑わしくなりますネ‥‥‥残念ながら、血縁関係は本当のようですケド」
親が優秀でも、子供までがそうではない‥‥‥そのような遺伝の不思議にワゼは首をかしげるのであった。
『ミッ!!ミー!!』
『ミミッツ!』
『おや、ミニワゼ6と7号機。ちょうど帰ってきましたか』
『ミ―ッツ、ミミミッツ!』
『え?第3王子が馬鹿をやらかそうと王城で画策しているのデスカ』
『ミッ、ミッ、ミミィッツ!』
『しかも、次期国王になるために手段を択ばないそうなのですカ‥‥‥やっぱ屑ですネ』
『『ミッ!』』
ワゼの言葉に、同意するミニワゼたち。
『仕方がありませんね‥‥‥他の王子たちは自分たちで対処できるようですが、ご主人様の婚約者であるヴィクトリア様には少々面倒なことになりますし、徹底的に馬鹿の心を折りまくって、防ぎましょうかネ』
ふぅっ、と溜息を吐きつつ、その準備に取り掛かるワゼ。
ワゼにとっては主であるリューが最優先事項であり、あとはその親しい者たちを守るべきだという信念があるのだ。
その為、リューの婚約者でもあるヴィクトリアに被害が無いように、人知れずワゼは暗躍するのであった‥‥‥
『ミニワゼの移動速度などについては、企業秘密デス。機械魔王様の手によって子機とはいえ、それ相応のスペックはあるのデス』
なお、ミニワゼの言葉はかなり圧縮されてはいるが、聞いてみると不思議なことに会話が成り立つようにされている。短い文に圧縮されまくっているのに‥‥‥なぜ分かってしまうのだろうか。製作者の技術力は相当なものだったのだろうということ以外は不明である。
‥‥‥そして、ワゼが動いた時点で、第3王子とその悪臭を放つ人は終わったも同然であった。




