対策済み!!
すでにどのような対応をとるのかは、アレン国王と打ち合わせているのである。
‥‥‥2日後、ザウター王国の王城の大広間にて開催されたパーティ会場には、様々な招待客たちが集まっていた。
国の重鎮的立場にいる者や、普段は首都まで来ない者、この機会に他の貴族と交流したりつながりを持とうなどと考える者など、表面上は和やかでも水面下では白熱した政治や権力に関した密かな戦いが行われていたのである。
とはいえ、誰もが今日この場で発表されるという情報に耳を傾けて聞き逃すまいと心掛けていた。
国王からの直接の招待状がそれぞれに届いており、それだけ今回のパーティにて重要な情報が出るのだと、理解できている者はきちんとわきまえているのだ。
‥‥‥残念ながら、ただ何かのお知らせだろうとまったく気にしていない者たちがいる辺り、いくら有能な・・・・そう、たとえ城から勝手に出て各地を回って暴れたり、馬鹿共を叩き潰したり、盗賊とかに出会っても意気揚々と自ら成敗しに行くような人で宰相がストレスのあまり胃に穴が開くような国王がいたとしても、やはりどうしても無能な者たちが出るのは防げないことであった。
まるで、アリの何割かは働きアリではなく怠けものになるような現象である。
そんな会場の中、一つの集団が目立っていた。
「なんだありゃ‥‥‥」
「モンスター?でもこの場にいるのであれば誰かの従魔だろうけど‥‥」
「美しいけど、何で人間じゃないんだという惜しさが」
「いやいやいや、むしろその部分がより彼女たちを引き立てているのでしょう」
「‥‥‥思った以上に目立つなこの集団」
【今さらですけど、私たちって結構目立ってますかね】
【視線がちょっと怖いピキ】
【こういう場は、堂々としている方が良いカナ。そうすれば気にも留めないカナ】
『‥‥‥メイド服カムバック』
ワゼだけどこか微妙な表情であった。
リューたちは会場に出ているのだが、現在全員正装である。
ヴィクトリアとの婚約という事で、王城の方からパーティ用の正装を借りることができたのだが、どうやら王城のスタッフの方たちは腕がいいのか、皆にあった服装を選んで着せられたのである。
‥‥‥少々、ハクロやファイ、ワゼは胸元がきつかったそうなので、ハクロが自ら手直しし、ピポの場合は体が小さいのでさっさと仕立てることができたようだ。
ハクロは清楚な白いドレスで、ピポは小さいけど真っ赤に燃えるようなドレス、ファイは薄い青色の光沢があるドレスに、ワゼはメイド服の名残か黒いドレスである。
ただ、基本的な服装がメイド服であり、主人に仕えるメイドという立場にあるワゼにとっては、今回のドレスは着るつもりがなかったようである。
ワゼにとってはメイド服は使える証でもあり、戦闘服のようなものであり、身を引き締めていたのであろう。‥‥‥文字通りというか、胸部だけ着やせするタイプだったようで、着替えを一緒にしていたヴィクトリアが、少しだけ落ち込んだように見ていたのは‥‥‥身の危険を感じたので言うまでもない。
「とはいえ、この会場にメイド姿のままでいると、他の出席者たちに呼び出しを喰らったりしそうだし、念のために命令して着せたけど…‥やっぱり気が乗らないのか?」
『‥‥‥ハイ。一応、衣服に関しては別に文句を言うわけではありませン。私はご主人様に仕えるべき立場であり、その命令を受ける者。‥‥‥ですが、やはりメイド服でないとどこか気分が乗らず、機能が20%ダウンしますネ』
たかがメイド服、されどメイド服。
機能が結構低下するようなので、パーティが終わったら元の服に速攻で戻るように言ったけど、何でそういう風になるのだと、機械魔王に問い詰めたくなった。
『足ジェット、ミサイル、レーザー及びレールガン、波○砲などがうかつに出せませんからネ‥‥‥』
前言撤回ならぬ、前言追加。
ワゼよ、お前は何と戦うつもりだ。そして機械魔王よ、お前はマジでワゼに何を仕込んでいるんだよ。
メイドだけに敵を冥途へ送れるようにしたってか?武器が物騒過ぎてシャレとしては滑るだろ!!
今度、改めてワゼの構造を学ぼうかと、リューは考えるのであった。
時間が経ち、大体の出席者たちが出そろったところで、会場の中央から何かがせり上がって来た。
円形の舞台のようで、ちょっと大きい。
その上には、ドレスを着こなしているヴィクトリアと、アレン国王が乗っていた。
「さてと、会場に集まってくれた皆にここで報告をしよう!!」
アレン国王はそういいながら、皆の注目を集め始めた。
その間に、事前に打ち合わせしていた通り、リューたちは会場の指定個所に移動した。
「このたび、我が娘である第2王女のヴィクトリア・フォン・ザウターの婚約者が決まった!!」
その国王の言葉に、会場が騒がしくなる。
「なんだと?」
「あの王女様に婚約者が?」
「一体どこのどいつだ」
「その婚約者殿はだな‥‥‥」
ドラララララララララっと、ドラムをたたく音が聞こえ始め、国王の次の言葉にごくりとつばを飲んで待ち構える出席者たち。
ちなみに、ドラムはミニワゼ3号機がやっているようで、たった1体でドラム100個までなら演奏可能らしい。
ダァン!!っと、ドラムの音がそこで途絶えた。
「そこにいる、オーラ辺境伯爵家の4男にして、魔物使いのリュー・フォン・オーラ殿だあぁぁぁぁ!!」
ずばびしぃっつ!!っと音が聞こえそうなほどはっきりと言い切り、国王はリューに向けて指をさす。
タイミングに合わせて、天井に張り付いていたミニワゼ4号機が、スポットライトのような照明をリューに当てて、その居場所を示した。
「「「「「な、なんだってぇぇぇぇぇ!!」」」」」
アレン国王の言葉に、会場にいた招待客は驚愕し、皆リューの方へ向く。
それぞれ互に水面下での争いはしているのだろうけど、こういう時は全員ノリがいいらしい。
「国王陛下!!それはどういうことですか!?」
「まさかの辺境伯爵家の4男だと!?」
「しかも、その男は美しいような従魔を従えているではありませんか!!」
「反対です!!私の方こそふさわしいのだと!!」
すぐさまアレン国王に向けて、質問する者や抗議の声を上げる者が続出する。
‥‥‥当たり前といえば当たり前のようなものだろう。
王家とのつながりを持ちたいものはいて、そのつながりの手段としてヴィクトリアを求める者もいる。
もしくは、本当に好んでという人もいるだろうけど‥‥‥見る限り、そのような人はいない。
権力欲に、自分の方が上だという野心を持った人が多いのが現状である。
この場で騒ぐ人たちはその傾向があり、黙って見ている人たちの中には漁夫の利を狙うような人や、状況を把握してどうするか冷静に判断をしているようだ。
まぁ、このような反応を起こす人たちはすでに予想済みであり、アレン国王との打ち合わせも素手にやっていて対策済みである。
「皆、いったん落ち着け!」
アレン国王の言葉に、騒いでいた者たちがぴたりと止まった。
「ああ、確かに文句を持つ者がいるだろうと思ってはいた。だがしかし、本当に文句を言うだけの資格を持っているのだろうか?」
国王の問いかけに、うっ、と言葉を詰まらせる者や、それがどうしたと言わんばかりの表情を浮かべる者たちが続出する。
「なら、諸君らが納得する方法としては何があるのだろうか?」
「‥‥‥け、決闘しかないだろう!!」
アレン国王の問いかけに、思い切ってそう言葉を出す者が出た。
この場にいる者は貴族ばかりであり、当然決着をつけるならば決闘をしたほうが良いのだろうと考える者が多いようで、その中の一人がそう発案したようである。
「ふむ、決闘か。物理的な強さを求めることもそうないだろうが‥‥‥納得できるの方法がそれしかないのであれば、それを行うしかあるまい」
にやりと、どこか腹黒い笑みを浮かべるアレン国王。
「ならば!!娘の婚約話に文句がある者は、リュー殿に正面から決闘を挑んで来い!!リュー殿もそれでいいな?」
「はっ、仰せのままに」
国王の命令に対して、リューは膝まづいて恭しく了解する。
「決闘の方法だが、降参を認めて負けとする単純なルールにする。リュー殿は魔物使いであるゆえに、従魔を参加させるのも良し、決闘をする者の中には戦闘が不得意な者もいるだろうし代理人を決めてやらせてもいいものとする。ただし、貴族としての矜持を間違える様な輩は即処分するし、この決闘は一方的なもので、リュー殿にはメリットが特にないゆえに、敗北者にはそれなりのペナルティを課すが‥‥‥それでもいいのだろうか?」
アレン国王が、どのような形式にするのか簡潔に述べて、確認をとる。
「「「「「いいでしょう!!」」」」」
貴族たちが返答し、互いに了承を取った。
「ならばまずはわたしから決闘をうけろ!!」
「こちらからも同様だ!!」
「わたしもだ!!」
「ぼくちゃんだって!!」
了解した後、次から次へと決闘のための様式美として白い手袋を投げつけてくる者たち。
婚約話の発表パーティは、手袋が飛び交って終わるのであった。
収束し、宿に戻った後リューたちは今回の感想を述べ合った。
「‥‥‥ここまで予想通り過ぎて、なんか怖いんだが」
【国王がああ言っているのに、こっそり卑怯な事をしてくる人もいそうですけどね】
【そもそも、国王陛下が決めたことに、何の考えもなく、己のためだけを考えて言っている時点で貴族としてどうなのかと思うカナ】
ファイの言う通り、まずその時点で貴族としてどうなのかと問いたくなるが‥‥‥まぁ、明日の決闘後に色々とアレン国王にお掃除されるのは間違いないだろうし、気にしないでおく。
【ああいう大人には、なりたくないピキッツ】
‥‥‥フェアリースライムって、成人とかあるのだろうか?そもそもどこからモンスターって大人?
『まぁとにかく、今は機能をフル稼働して妨害工作等を防ぎマス。やらかしてくる方たちには…‥‥この伝説の下剤でも盛りましょうカネ』
【伝説の下剤って‥‥‥製造方法が失われたという『ナイアガラの滝』と言う物カナ?】
ワゼが取り出した錠剤を見て、ファイはどのような薬なのか分かったようである。
‥‥‥薬品名からして、相当やばそうな気しかしない。
というか、その伝説の下剤を作製した人って絶対に転生者だよね?何を作っているんだその人は?
ツッコミどころが多くて対処しきれないながらも、リューたちはその晩、決闘での打ち合わせをしていくのであった。
決闘の時に挑んできた者たちは、一体誰を相手にしたのか、その場で思い知ることになるだろう。
プライドが高い人なら、ばっきりと折るかな?
にしても、転生者によるものっぽいものは出るのに、リューと直接出会う事がいまだにない。
なかなかめぐり合わせが難しいのか、それとも‥‥‥