契約ですか?
本日3話目!!
ようやく話が進みそうだ。
SIDEリュー
何やらお父さんはものすごく悩んでいたようだが、もう何もかも悟ったような顔になって、とりあえずアラクネの彼女も今夜は一緒にこの屋敷に泊めることができるようになったようだ。
心労を重ねるようで、なんかごめんなさい。
まぁそれはそうとして、まずは一つ決めておかないいけないことがあるけどね。
「そういえば名前とかってないのかな?」
【名前ですか?ありませんよ】
だよね、森で一人暮らしをしていたみたいな話もしたし、どうやら彼女には名前がないらしい。
とはいえ、いつまでもアラクネの彼女と言うのもなぁ。
何か名前を付けて呼びたいけど、それはそれでちょっとした問題があるようだ。
「従魔になるらしいんだよな‥‥‥仮契約でだけど」
このモンスターと互いに意志疎通ができ、普通に会話ができているこの才能は「魔物使い」と呼ばれる職業の物だというのだ。
魔物使いとは、契約し、従魔になったモンスターを自由自在に従えることができ、互いに契約すると何かしらの恩恵があるらしい。
で、魔物使いの持つ才能の中に、名前がないモンスターへの名づけによって仮契約をモンスターと結ぶという事があるのだそうだ。
「仮」なのはモンスターの方でも主を定める期間が欲しいそうで、本契約、つまりまぁ永久的に従魔にするという契約に移る前の準備期間になるらしい。
永久的に従魔となるのは本契約と呼ばれる方で、こちらのやり方は互いの了承がある状態で、ちょっと傷口を作って、そこに互いの血を垂らす方法なのだとか。
混ぜ合わさり、そこで初めてつながりができて従魔に出来るという事であるそうだ。
「とはいえ、いきなり見ず知らずの相手の『仮』でも従魔になるのは嫌だよね?」
誰だっていきなりの契約なんて結びたくはないものだ。
そう考えたけど‥‥‥アラクネの彼女は少し考えこんだかと思うと、笑顔を見せてきた。
【いえ、嫌ではありません。あのままでは私は死んでいたでしょうし、どうせ一人で暮らしているのも寂しくなりましたから、あなたとの本契約まで結んでも良いですよ】
‥‥‥ええ?良いのかよ。
「えっと、つまり従魔になっても、ずっと一緒でも構わないと」
【はい、その通りです。と言うか、なんか見ていないと色々とやらかしそうな相手ですし‥‥‥】
おい、ちょっと本音が漏れているぞ。モンスターに心配されるって彼女は俺の事をどれだけの問題児に見えているんだろうか?
とにもかくにも、本契約、俺の完全な従魔になるまで彼女は抵抗がないそうだ。
彼女自身の意思という事もあり、断る理由も特になさそうだ。
「それじゃぁ、まずは仮契約から行こうか」
名前を付け、それを了承すれば契約は執行される。
仮契約とはいえ、名前はしっかりと決めないとね。
「そうだな‥‥‥『ハクロ』、その名前でどうかな?」
何気なく思いついたその名前。
でも、ふと俺は気が付く、何かこう、懐かしい名前のような気がするのだ。
【『ハクロ』‥‥‥懐かしいような気分もします。ええ、その名前を私は受け入れましょう】
そううなずきながら彼女が言うと、次の瞬間俺と彼女の間に、魔法陣のようなものが一気に浮かび上がり、すぐに消滅した。
‥‥‥今のがどうやら、仮契約が了承された時に出るとされる「契約の魔法陣」と呼ばれるものだろう。
次に‥‥‥本契約を結んでいいというし、ここは結ぶか。
「本契約を結んで、永遠に俺の従魔になっていいんだよな?」
最後の確認をしっかりと俺は確かめた。
ここで心変わりをすれば、まだ「仮」だけでいいのだが‥‥‥
【大丈夫ですよ。あのモンスターから助けてくれた時から、覚悟はできています】
こぶしを握り、彼女は変わらぬ決心を俺に見せた。
‥‥‥うん、ならば答えてあげないわけにはいかないじゃないか。
互いにとりあえず親指を少し切って血をにじませる。
血を混ぜればいいので、傷口を互いに合わせ、少し痛いがぐりぐりと血を擦り付けた瞬間‥‥‥
カッツ!?
「うわっつ!?」
その傷口の接合部から光が漏れ、その眩しさに一瞬某大佐のような状態になりかけたんだけど!?
とにもかくにも、どうやらこれで契約が完了したらしい。
「‥‥‥これで契約は完了という事でいいのかな?これからよろしくね、『ハクロ』!!」
【はい!これからよろしくお願いいたしますね、えっと‥‥‥】
「ああ、まだ名前を言っていなかったっけ。俺の名前はリュー・フォン・オーラ。このオーラ家の4男だよ」
【なるほど‥‥‥では、改めましてこれから一緒に永久的にお仕えすることをここに、私ハクロは誓います。よろしくお願いしますねリュー様】
そうにこやかに彼女は微笑み、この日俺は従魔を手に入れたのであった‥‥‥
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SIDEディビット・フォン・オーラ辺境伯爵
わたしの名前はディビット・フォン・オーラである。
この地方の辺境伯爵をやっており、実質的な経営面は愛しき妻ミストラルに任せてしまっているのだが、その分子供たちの教育方針や国土防衛のための訓練は欠かさずしているのだ。
愛しきわが子たちだが、やればできる子のはずなのに、勉強嫌いが多いのが困り事である。
10歳になれば学校へ送り出すことになるのだが、それまでにできるだけ知識やある程度の武術を蓄えて会得してほしいと考えている。
そんな中、息子たちの中でも一番末のリューが、今日とんでもない事をしでかしてきた。
‥‥‥息子よ、父さんモンスターを拾ってくるように教育した覚えはありません。
と言うか、会話が成り立っているってなんかすごい才能の片鱗が見えてしまったんですが。
そう、我が愛しの息子の一人であるリューが、モンスターの中でも物凄く珍しい、幻とも言われるような幻獣種のホーリアラクネを連れ帰って来たのである。
いやそのアラクネの美しさは良いけどさ‥‥‥あ、妻の殺気が一瞬出たのでそこは考えないことにしよう。
とにもかくにも、出会った原因とかも聞いたが‥‥‥何をやらかしているんだ我が子はぁぁぁぁぁぁ!!
でかい鷹のようなモンスターに殺されかけた?あのアラクネが連れ去られていた相手?しかもなぜか魔法が使えるようになって、色々やって撃退したと?
‥‥‥うん、何処から同突っ込めばいいのか、もうわからんよ!!
というか、でかい鷹のようなモンスター‥‥‥もしかすると災害危険指定種の『ウルトラホーク』ではないだろうか?
モンスターだが、その種族等によっていくつかの分け方がされている。
通常種、亜種、希少種、進化種、超希少種、神獣種、幻獣種などと、様々だ。
その分け方の中でも、もっとも世の中で危険だとされるモンスターにつけられるのが災害危険指定種であり、いわば「生きた災害」とも言われるやばい奴だ。
そんなものが襲い掛かってきたら通常、発見時に優秀な者たちを集めて、犠牲覚悟で挑むのだが‥‥‥それなのに、まだ5歳の子供が倒したなんてあり得る話なのだろうか?
‥‥‥あり得る話のようだ。何せ、息子と共に会話しているアラクネも証言しているようで、そのモンスターがいたという証拠の片足だけなら森に置いてきたままだというのだ。
一体どのように撃退したのか聞いてみたら、なにやら魔法を突如として扱えるようになったらしく、その魔法のうちとっさに使用したもので消し去ったらしい。
本当にこの愛しい息子ってどうなっているの!?
まぁ、モンスターとはいえ負傷していた女性をかばおうとしたその精神は褒められるだろう。
見捨てて逃げぬその心は良い。でもそう言う事ばかりしていると、同僚には修羅場になったやつがいたからそこは気を付けろよ。
いやそれは良いとしてだ、結局どうしようかこの状況‥‥‥
そう考えていたら、どうやら息子はすでに真央の津秋なる職業についての知識を持っていたようであり、どうやらアラクネとの契約を結ぶようだ。
仮で済むかなと思っていたが‥‥‥まさか本契約までするとは思わなかった。
どれだけ才能にあふれているというか、モンスターに好かれているんだお前は。
ああ、息子よ。お前はこの先どのように成長するのだろうか。
もしかすると、かつて魔王と呼ばれていた者たちのようになるのだろうか?
息子の成長が予測出来て、嬉しいやら悲しいやら不安になるやら。
もうわたしはこの日、ふて寝をして現実逃避へと移るのであった‥‥‥ああ、後で妻に相談して今後の教育方針をきちんと決めないとな。
いや助けたりする騎士道精神で行けばわたしのほうが上なのはわかるのだが、妻にはどうも頭が上がらないというか‥‥‥
‥‥‥この父親、苦労していそうだなぁ。
実験は妻が握り、息子がやらかしそうで大変である。
常識人とも言うし、苦労人とも言うのかもしれない。