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閑話 とある宰相苦労話

ある意味この作品でもっともな苦労人。

‥‥‥わたしの名前はカクスケ。


 このザウター王国のアレン国王陛下に使える宰相である。


 国王陛下の政治面での相談や決定、主要貴族の動かし方や、事業の展開など、ありとあらゆる仕事を受け持っているのである。


 わたし自身、この仕事に誇りを持って‥‥持っ‥‥持ちたかった。




 いや、やりがいがないわけではないし、やればやる分だけその分の事が自分に返ってくるからいいだろう。



 だがしかし!!うちのアレン国王陛下(放蕩野郎)のせいで結構ストレスが溜まっているんですよ!!






「国王陛下、前々から相談されていたあの地方の河川の治水工事の見積もりですが‥‥‥」



 今日は執務室にて、書類仕事中のはずである国王陛下の下へ、最近ようやく見積もりが出せる国家事業の一部を話しに来たのだが…‥もぬけの殻であった。


 壁を見てみれば、でかでかと一枚の紙が貼られており、そこには‥‥‥



『ふーはっはっはっはっは!!明日の朝にまで戻るから、ちょっと逃亡するぜ☆ アレン国王より』


「‥‥‥何が『逃亡するぜ☆』ですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 国王陛下は有能な方であるのは間違いない。


 実力もあるので、そんじょそこらの暗殺者とかが来ても殴り飛ばせるし、自ら指揮を引いて前線へ出ることもあるだろう。



 だけど!!あの人はなんというか放浪癖と言うべきか、じっとしてくれないのが本当に困りものである!!




 街中に勝手に出てスリや強盗などの悪人を成敗したり、ある貴族の腐った噂を聞けば、すぐさま突撃して言い逃れのできないほどの証拠も集めて処分したり、辺境の地へ赴き、その領地での畑仕事を手伝だったりと、やることなすことは一応この国の、そして民のためになることなので、民の人望はあるだろう。



 けれども、その分いなくなっている間の我々の苦労をせめて考えてくださいよあのフラフラ国王陛下ぁぁぁぁぁ!!





 カクスケの心の叫びは、城内にいた誰もが伝わり、そして同情する。


 一度、国王陛下が逃れられないように少々荒っぽい手で監禁して見たことも実はあったのだが、どこをどうしたのかあっという間に抜け出してしまっているのである。


 そんなカクスケ宰相の苦労を知る者は皆、彼の将来的な健康不安を心配するのであった。












 そんなある日、珍しく執務室にて真面目に政務に励んでいるアレン国王の様子を見て、一瞬明日は槍の雨になるかと不安になったが、すぐにこれまで貯まっていた仕事もカクスケは出し始めた。


「国王陛下、この事業と、国のこのエリアの補助金なのですが…」

「ああ、もう少し見直せば無駄が減るぞ。あとその補助金なのだが、ごまかしがあるようで調査隊を派遣したい」


「税金の収支報告書と、その他貴族の金遣いです」

「ふむ、あの家とこの家は真面目にやっているようだが、ここは偽装しているみたいだな。再度計算をし直し、追及して来い」


「新しく確認されたモンスターの情報や、他国の動きなのですが」

「ほぅ、これは新種ではなくただの亜種だろう。しかしまたあの神聖だがなんだが知らん国が仕掛けてきそうだな‥‥‥爆弾でも仕掛けてやろうか」



 物騒な言葉が混じってはいるが、それでもこうやって真面目に政務に取り掛かってくれる国王陛下はいい。



 ああ、毎日こういう真面目さがあれば、わたしの負担が減るのになぁ‥‥‥




 真面目なアレン国王陛下を見て、ポロリと涙をこぼすカクスケ。



「ああそうだ、そう言えば言うのを忘れていたな」


 と、ふと何かを思い出したかのように国王が手を止め、カクスケの方に向き直った。


「もうすでに出したのだが、ある人物を招くことにした。応接室の掃除と、その為の予定の確認をしてくれ」

「ん?誰か招くって珍しいですね」

「ああ、正確に言えばその人物を招けば他にもついてくるものがいるのだが‥‥‥なにぶん、迂闊に漏れたら面倒事にもなりかねんから、情報統制も頼む」



‥‥‥ここでカクスケは嫌な予感を覚えた。


 アレン国王が呼び、そして情報統制などが必要な人物と言うと、国王陛下とのやり取りの中で最近話題によく上がっていた人物しか思いつかないからである。



「えっと‥‥陛下、もしかしてですが、その人物って学生なのでは‥‥」

「ああ、リュー・フォン・オーラだ。ホーリアラクネだの、フェアリースライムだの、スピリット・スキュラに、果ては機械魔王の最高傑作のメイドゴーレムを持つ相手だが?」

「なぜ王城にその者を呼ぶのでしょうか」

「まぁ、大体察しが付くだろう?ついでにヴィクトリアもいったん戻ってくるように言ってあるし、その際に出るであろう馬鹿共の除去作戦も実行中だ」


 にやりと笑い、そして国王陛下はカクスケにある企みを話した。



 国王の信頼が最もある人物故に、聞かされた話であり、下手すりゃ宰相の胃を直撃する企みでもある。




「‥‥‥ぐふっ」

「おいカクスケぇぇぇぇ!?」


 その企みを聞き終えた後、ツッコミを叫ぶこともできず、カクスケは吐血して倒れたのであった。


 国王の叫びが聞こえたが、原因はあなただろうとツッコミを心で入れつつ、カクスケはこの心労を癒すために、しばらく有給休暇でも申請しようかと真剣に考え始めるのであった‥‥‥

さてと、次回その企みが明らかになるかな。

カクスケによく効く胃薬を考えながら、お楽しみください。



‥‥‥吐血レベルの心労ってどのぐらいかな?

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