意外と言えば意外なのだろうか
現実世界よりも、こういった物語の世界の方が平和なような気がしてきた、今日この頃の世界情勢である。
SIDEリュー
‥‥‥機械魔王ヴュリュヴャミビュの最高傑作にして、最後の作品でもある「The strongest mechanic madeの10番機」、通称「TSMM:10」。
そう彼女は名乗り、お辞儀した。
「えっと‥‥‥つまり機械魔王の全技術が込められた存在?」
『その認識で合っています、新たなご主人様』
リューの問いかけに、肯定して頷くTSMM:10。
【ゴーレムのようですけど、ここまできちんとした人間に近いものは初めて見ましたよ】
【ふむ、あえて一部人間じゃないと認識させる部分を持たせていることによって、違和感を持たせないようにしているようカナ】
【良くわからないけど、なんかすごーいピキッツ!】
冷静に分析するハクロたち‥‥ピポはよくわかっていないようだけどね。
「待てよ?ゴーレムみたいなものという事はもしかして‥‥‥契約が可能なのか?」
ふと、その可能性をリューは思いついた。
ゴーレムもモンスターの一種であり、従魔として契約することは可能である。
『はい、創造主たる機械魔王様の設定上、私を起動した際に、強大な魔力を持つ方をご主人様とするようになっていますので、お望みであらば今すぐにでも可能デス』
‥‥‥名高い機械魔王の、その最高傑作を従魔のように扱う事が出来る機会というのはほぼないだろう。
だったらこの機会に‥‥‥結ぼうか。
「ハクロ、ファイ、ピポ、このゴーレム・・・・メイド?と従魔契約を結んで良いかな?」
【特に反対する理由もありませんし、良いでしょうね】
【反対しないカナ。主殿の意志に従うカナ】
【いいよー!】
皆の了承も得られたようなので、この貴重な機会にリューはこのメイドのようなゴーレムと契約することにした。
‥‥‥とはいっても、名前だけの仮契約の形だが。
本契約に至ろうにも、ゴーレムに血液もしくは体液ってないよね‥‥‥本契約の仕方をあとでボンブラスト先生に聞いたほうがいいのかもしれない。
「っと、それじゃ名前を付けるけど‥‥‥『TSMM:10』の『10』…‥『10』‥‥‥『ワゼ』でどうかな?」
名づけをしてみる。
案外安直だが、この名前の方がしっくりするだろう。
『ワゼ…‥‥はい。このTSMM:10はこれより個体名称を「ワゼ」と認証。ご主人様との契約を結びます』
ワゼが了承し、魔法陣が浮かび契約が完了する。
あの巨大物体の騒ぎのおかげで、まさかの機械魔王の作品がリューの従魔に‥‥‥ん?
「って、そう言えば忘れてたぁぁぁぁぁ!!」
まだ地上にあの巨大物体がいたという事を、リューは思い出した。
この地下室も崩落の危険性があり、一刻も早く逃げたほうがいいのである。
『状況把握‥‥‥せっかくですので、この機会に私の実力を見せましょうカ?』
「へ?」
何が起きているのか、すぐにワゼは把握したようであり、自信満々にそう言ったのであった。
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SIDE巨大ゴーレム操縦席
「がーーーーーはっはっはっはっはっは!!いけいけ巨大ゴーレム!!」
地上のブリテンにて、巨大ゴーレムの操縦席でいい年して老人が興奮していた。
長年考え、そしてついに叶った巨大ゴーレムの操縦。
一歩踏み出すごとに町が破壊されていくが、もはやこの破壊も快感に変わって、危険人物と化していたのである。
強すぎる力に火とは溺れることがあり、この老人も最初は純粋な夢だったはずが、操縦しているうちにその破壊力に溺れたのだ。
「このままこの辺り一帯を焦土にし、そこでさらなる改良ぉぉぉぉぉ!!」
どす黒い欲望と、真っ赤に燃える興奮の言葉が混ざり合い、そう叫んだ時であった。
ガゴンッツ! ブシィィィィッツ!!
「なんだ!?」
突如として、なにか奇妙な音が聞こえたと同時に、巨大ゴーレムの動きが急に止まった。
エネルギーでも切れたのかと思ったが、まだまだ稼働は可能であったはずである。
計器類を見てみると…‥
「な、なんじゃぁこりゃぁぁ!?」
全部が滅茶苦茶な動きになっており、そしてどれもが次々に0の数字を指し示し、機能がどんどん止まっていることを示していた。
バキィッツ!! ゴキィッツ!! ガゴォン!! ガリガリガリガリ!!
そしてそれに続き、巨大ゴーレムの内部から聞こえてくる奇妙な音。
慌てて状況把握のためにまだ動く部分を確認し、何が起きているのか老人は悟った。
「な、内部から破壊されているうぅぅぅぅ!?」
設計上、この巨大ゴーレムは分厚い装甲で覆われており、破壊するにはそれ相応の力が必要なはずである。
だがしかし、何者かがどうやってかその装甲を貫き、内部に入り込んでしまっていたのだ。
いくら頑丈な物体でも、その内部から攻撃されてはたまらないものである。
そして、そもそもそんなことになるとは考えていなかったので、全く対策ができない。
唖然としている中、巨大ゴーレム内部は破壊つくされ、しかも動力が停止したことからその内部にあった魔石も奪われたか破壊されたことを示していた。
破壊音が消え、内部にいたものは出ていったようだが…‥‥残されたのは、ただ頑丈なでくの坊と化したガラクタである。
長年の夢と、生じていた野望があっという間に潰えたのを理解して、その老人は其のまま力なく倒れてしまうのであった。
‥‥‥後日、ようやく操縦席の位置を特定し、何とかこじ開けた者たちが見たときには、真白に燃え尽きて、廃人と化した老人だけがいたという。
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SIDEリュー
『‥‥‥内部攻撃だけで終わりましたし、手土産としてこれも手に入れましタ』
そうにこやかに言い、片腕がドリル状態から元の手に変形させたワゼが懐から取り出したのは、一目でかなり純度の高いと分かる魔石であった。
「‥‥‥あれが巨大ゴーレムで、表面装甲が何重にも厚い金属板なのはわかったけどさ、それをぶち抜けるそのドリルの方に驚くべきか、その魔石の方に驚くべきか」
【おそらくですが、この魔石‥‥‥亜種のドラゴン系の魔石ですね。超・高額商品ですし、着やすく入手できませんよ】
【と言うか、そのドリル‥‥‥腕変形するのカナ】
『はい、私は機械魔王様の最高傑作ゆえに、ありとあらゆる状況でもご主人様をサポートできるメイドとして、あのような分厚い装甲でも簡単にぶち抜ける特殊金属ドリルを装備しているのも当たり前デス』
‥‥いや、当たり前じゃないよね?
むしろ、それが当たり前だったのだろうかと機械魔王の時代を考えるとどこか怖く感じた。
『ついでに言うなれば、レーザーで焼き切っても良かったですし、もしくは制限解除によって力を増して持ち上げて、空高く投げて落下の衝撃で自壊させたりすることも可能でしたし、いっその事溶解液を使ってでろでろに溶かすこともできましたネ』
今物凄い機械魔王に対してツッコミを入れたい。
お前の当たり前の常識って、一体どこの常識だよ!!と。
機械魔王の最高傑作を従魔にしたリュー。
どんどん彼の周りの戦力がとんでもないことになってきたような気がするんだけど…‥‥
次回に続く
‥‥今度増えるとしたら、出来れば戦闘力低めの癒し系が欲しいところ。でも、作者の意思に反してこの物語の奴らって動くからな‥‥‥‥小説って、本当に難しい。