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潜んでいた者と逆鱗

逆鱗っていうけど、怒髪天の方がよかったかな

―――――――ぽちゃん



「…‥っつ」


 水のしたたり落ちる音が聞こえ、リューが目を覚ますと辺りは真っ暗であった。



 思い出すのは、先ほどの突然の地面の消失。


 とっさに反応できず、其のまま皆まとめて落ちたようであった。





 どのぐらいの深さなのか、そもそもなぜ学校にこんなものがあるのかは謎だが、いまは周囲の状況を把握したほうが良さそうである。


「ハクロ!ピポ!ファイ!ヴィクトリア!他に誰かいないか!!」



 周囲が真っ暗なため見にくいが、あの場に皆がいたので、同じように落ちているはずである。


 体を起こし、辺りにリューは叫んだ。


「…‥だ、大丈夫ですわ!!」


 っと、どうやらヴィクトリアは案外近くにいたようで、返事が返って来た。


【主殿―、こちらも足をひねることなく無事カナ】


 ファイの声も聞こえ‥‥‥タコ足をひねる?


 そこはツッコむべきかどうか一瞬迷ったが、この状況故にやめておくことにした。



 その他の巻き添えとなった生徒たちの声も聞こえ、全員いるようだが‥‥‥



「‥‥‥ハクロとピポの返事がないな」

【ピポなら先ほど、落ちる前にとっさに飛んで難を逃れていたところは見たカナ】


 ファイの言葉からして、どうやらピポだけは落ちることなく逃げたようである。


 となれば、あと返事がないハクロは‥‥‥





 先ほどの落ちる前の状況を思い出すと、ハクロの蜘蛛の背中にリューは乗っていた。


 一緒に落ちたはずなので、リューの周囲にいる可能性が高いが‥‥‥こうもあたりが暗いと見にくい。


 

「誰か光魔法、もしくは火魔法で明かりをつけてくれー」

「あ、だったらこの技で…‥『火炎の拳』!!」



 ぼっと何かが燃える音が聞こえ、燃え盛る炎の明かりがついた。


 見れば、ヴィクトリアが自らの手に炎を纏って明かりにした様である。


‥‥‥火の適正はあるようだけど、仮にも一国の王女が自らの手を燃やしているように見える光景は異様である。まぁ、助かるから良いけど。


 他の生徒たちも明かりをそれぞれの独自の方法で付け、周囲の状態を見渡した。




 どうやらこの場所、地面がむき出しなのでおそらく後者の地下をくりぬいたように作られた場所のようだ。


 そして、先ほどから返事がなかったハクロだが‥‥‥‥



「‥‥‥‥えっとハクロ、大丈夫?」

【‥‥‥】


 ダラーンっと、体中の力が抜けたようにしてひっくり返って上半身が見事に地面に突き刺さっていた。


 どうやら頭から落ちたようで、思った以上にこの地面が柔らかかったのかそのまま突き刺さって動けなくなっていたようだ。


 リューやほかの生徒たちはハクロよりも体重が軽く、ファイはあのタコ足が広がって表面積が大きくなった状態で地面に当たったから刺さらなかったのであろう。


 そしてハクロは気絶しているようで、そりゃ返事もないわと皆が納得したのであった。






【よいしょっと】


ズボッツ

【‥‥‥】


 ファイがタコ足で巻き付け、ハクロを引き抜いたが彼女はまだ気絶しているようで、くたぁっとそのまま地面に手足を広げて横たわった。少し槌で汚れてしまってはいるが、寝ているような状態である。


「ファイ、ハクロは大丈夫なのか?」

【ん~、いきなりのショックによる気絶のようだから特に問題はないカナ。ホーリアラクネ故に回復力も高いはずだし、ほっといてもそのうち気が付くはずカナ】


 ペタペタとハクロを診察しながら、ファイはそう告げる。


 スピリット・スキュラゆえに薬を扱う事もできるが、それ相応の医療知識もあるようなので助かった。



 他の生徒たちの状態も念のために診察したが、足をひねっている者や、骨折した者がいる様なのでこちらは応急処置で、ファイが懐に持っていた薬で痛みを和らげた。






「さてと…‥‥あとはこの状況をどうするかだが」


 とりあえず皆の安否の確認と、周囲の状況を確認したところで、現状の問題についての議論を…‥



【ヌバァァァァァァ!!】


「!?」




 突然聞こえてきた謎の咆哮に、皆はその方向を向いた。



 そこにいたのは‥‥‥‥


【ヌバァァァァァァァ!!】

「『ギガントスラッグ』!?」

「いや、通常種じゃなさそうですわ!!」

【この感じ‥‥‥亜種カナ!!】



 超・巨大なナメクジのモンスターが、こちらに向かってきていた。


 通常種のサイズはビルほどのサイズらしいが、このギガントスラッグはちょっとした2階建ての一軒家ほどのサイズ。けれども、全身からてらてら光る粘液を吐き出し続け、ドロドロとあたりを覆いながら迫って来る光景は恐ろしい。


 しかも、ファイの見立てによるとより強力な亜種のモンスターのようである。


 ひぃぃぃ!!っと、女性生徒たちは後ずさりをし、男子生徒たちも同様の悲鳴と行動をとった。




 うん、こんなリアルすぎる巨大ナメクジは誰だっていやだ。



 そして一つ、この場所についての疑問が解けた。



「そうか‥‥‥ここはやつの巣か!」


 今のリューたちの足場はぬるぬるしてはいないのだが、どうやら時間が経って粘液が地面にしみ込んだ後だったらしい。


 そしてこの空洞のような場所は、あのギガントスラッグが自ら作り出した巣のようであった。



「って、それじゃぁあの地面の消失の説明がつかないような…‥」

「それだったらつきますわよ」


 どうやらそっちの謎の解明はヴィクトリアができたようである。



 説明によると、ギガントスラッグはその巨体故に、巣に入るにはそれなりの大穴がないと入れない。


 でも、大穴を開けたままだと、天敵が襲いかかってきたり、同種が奪いに来たりして、不便になる。


 そこで、彼らなりの工夫として巣には粘液で作った特殊なカモフラージュが施されるそうなのだ。



 あのヌルヌルとした粘液にも違いがあるようで、鍵のような役割をもつやつで、いつでも開閉が可能だという。



 つまり、リューたちが突然足元が消えたと思ったのは、その鍵の粘液が地面に付着したからであろう。



「でも、それが原因だとしても、真下かそのすぐ近くにいないとおかしいような‥‥‥」



「なぁぁぁりなりなりなりなりなり!!その説明をしてやろうかナリ!」



 突然、奇妙な笑い声が叫ばれ、見てみればギガントスラッグの頭の上に誰かが座っていた。


「だ、誰だ!!」

「ここでぷちっとやられるような輩にいう必要はないなりが、冥土の土産に教えてやろうなりぃ!!」



 すくっとたったその姿は、胴長短足で、波平禿げの冴えないおっさんのようであった。


「七不思議を創り出し、そしておまえらを引き寄せたこの偉大なる私の名はエルベンタラーゼ・フォ――――ン・ドッペリーアン・ミィドループ・め、」


【長いカナ!『特大氷玉(ビッグアイスボール)』!!】




 ご丁寧に名乗ろうとしていたようだが、名前が長くなりそうなので先手必勝とばかりに、ファイは先制攻撃を仕掛けた。


 水上と言う彼女の最も力の出る場所ではないので、あのサラマンダーの時に比べると魔法の威力は落ちているようだが、それでも巨大な氷の塊ができて、一気にギガントスラッグごとまとめて吹っ飛んでいく。



「ちょっとは人の話を聞けよナリ!!ナメィラ、あの魔法を粘液で抑え込め!!」

【ヌバァァァァ!!】


 流石にまずいと判断したのか、えるた、もうめんどいので禿げおっさんはナメィラとかいうギガントスラッグに命令を出した。


 どうやら魔物使いのようで、あのギガントスラッグを従魔にしているようだ。




 命令を聞き、ナメィラは一気に粘液を内から吐き出した。



ブジュゥゥゥゥゥゥゥ!!


 物凄い勢いで吐き出され、ファイの魔法で生み出された氷の塊とぶつかり合い、そのまま押さえつけて地面に落下させた。



「なっ!?」

「なーーりなりなりなりなり!!ナメィラのこの粘液の威力は粘り気も相まって相当なものナリ!」


 どやぁっと、物凄く殴りたくなるような顔でふんぞり返る禿げおっさん。



「さてと、名乗りの途中だが以下省略してエメラでいいナリ!ついでにお前らの始末をする前にせめてもの土産にここまでの経緯を話してやろうと思ったが、いきなりの攻撃が来ては問答無用ナリ!やれぇい!!ナメィラ!!」

【ヌボォブボォバァァァァァァァァ!!】


 禿げおっさん、もといエメラがそう命令を下し、ギガントスラッグのナメィラが動き出した。




 遅い歩みのようだが、その巨体と気味悪い外見に皆がおびえる。



 ゆっくりと進みだし、リューたちへ向かおうとしたその時であった。




ピン!

「ナリ?」



 何か糸が張るような音が聞こえ、エメラが疑問の声を上げた時である。



【‥‥‥お前が元凶ですかぁぁぁぁ!!】


 そう怒声が飛ぶと、ギガントスラッグごとエメラに何かが飛んできた。


「何だナリ!?」

【ヌバァァッツ!?】



 見れば、巨大な拳、いや、糸で作られた鉄拳のような塊が一気に直撃した。



ズッゴォォォォォォン!!



「ハクロ!起きたのか!」


 振り向いてみてみれば、そこには気絶から目が覚めたらしいハクロが、先ほど飛ばした糸の巨大な拳とつながっている糸を持っていた。


【ええ、なんとなく状況で察しましたが‥‥‥あれがこの七不思議の元凶共でいいんですよねリュー様?】


 そうにっこりとハクロは微笑んで言ったが、その目は笑っていない。


 

 何不思議序盤から驚かされ、怒り、そしてまたここに落とされて激怒しているのであろう。



 その背景には、どことなく般若のオーラが見えそうなほどであった。


「あ、ああその通りらしい」


 ちょっとその静かなる激怒のオーラに押されたが、リューはなんとか返事をした。



【でしたら、アレ叩き潰しても良いですよね?】

「‥‥‥いいかな。ただ、色々と話を聞く必要性があるから命は奪うなよ?」

【大丈夫ですよ、せいぜい生きているのを後悔させるぐらいに止めますから】


「「「「「いやそれ大丈夫じゃないよな!?」」」」」



 ハクロのその言葉に、見ていた他の生徒たちは思わずツッコミを入れた。





‥‥‥普段怒るようなことが無い人ほど、その怒りはすさまじいものであるとこの数秒後にちょっとした蹂躙をみた一同は、そう学ぶのであった。



【ハクロ、氷漬けにする先から敵を砕くのは流石に解凍後がグロイカナ‥‥‥】

【どうせ、情報が必要なのはもういろいろと無くなる人ですからね。そのおまけのようなこのナメクジ共はある程度消し去っても問題ないでしょう?」



 ハクロのその回答に、ファイも若干ドン引きしたのであった。



「従魔の強さ」

マジ切れ状態ハクロ=水上・水中のファイ》通常のファイ》通常のハクロ》燃え上がるピポ》通常のピポ

ハクロって一応回復要員なんだけどね、戦闘力も結構あるんだよなぁ。

怒りによって、糸の圧縮率や射出速度などがパワーアップしております。


‥‥‥敵の冥福を祈りましょう。



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