表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/162

ラストリモの森

森と言うよりも里山に近いかも。

そのあたりの区別がつけにくい。

「‥‥‥おー、なんか静かな森だな」


 兄を生贄(死んではいないが)に屋敷に置いてきて、20分ほど。


 まだ5歳児の足でもまぁ頑張れば辿り着けるような場所に、ラストリモの森はあった。


 開拓されているので切断されていたり、切り株が掘り起こされて畑ができていたりして入るものの、過剰の伐採などは行っていないようである。


 今日も作業をしている領民たちがいるようで、ちょっと軽くあいさつしてから俺は森に入った。



 危険な野生動物やモンスターはいないようだけど……





「静かと言うか、こう神秘的な雰囲気だな」


 リューの歩く音に対して、背後から時折木を切り倒す程度の音しかない。


 静けさもあり、そこそこ木々の間隔もあるようで、森の中は木漏れ日が多く、明るかった。






「ふ~ん♪ふふん♪」


 リューはつい鼻歌を歌いながら森の中を進んだ。


 なんとなく楽しいというか、ちょっとした冒険のような少年心がくすぐられているからである。


 何しろ前世の最後は受験に縛られ、自由も何もなく、ただ受かれというだけの親の指示のみだけだった。


 そのため、こうやって自由気ままに森の探検をするのは楽しいのである。



‥‥‥内心、少しはハプニングのようなモノが欲しいとは思っていたが、危険がないのならいいとしようか。


 




「それにしても、この森ってどれだけ広いのやら‥‥‥」


 結構奥へ進んだはずなのだが、それでもまだまだ森は広がっている。


 と言うか、これって外から見た森の全体像よりは大きいような‥‥‥?


 異世界の森なら不思議でもないかもしれないが、もしかするとまだまだ広がっている可能性を考えるのであれば、そろそろ引き返したほうが良いのかもしれないと思った。





 往復時間や、今の俺の体力を考えて帰ろうかと考えたその時であった。


ずぅん!!


「!?」


 いきなり何かが落ちたような音が聞こえて、思わず俺はびくっと体が震えた。


 重量がかなりあったのか、地面も揺れて少し転びそうになり、慌ててバランスを取って体勢を立て直す。


「い、一体なんだ‥‥‥?」




 この森にはほとんどモンスターが出ることがないらしいが、力の強いモンスターが立ち寄ることがあるらしいという話を、その時俺は思い出した。


 だとしたら、今の衝撃はその力の強いモンスターの可能性がある。

 

 興味がわき、こっそりと茂みに隠れながら俺はその振動の発生源に向かった。こちらから何もしなければ、相手も何もしないそうだしね。










「‥‥‥どういう状況?」


 その振動の発生したところに見に行けば、誰かが倒れていた。


 美しい銀髪を持ち、地面に押し付けられて横にはみ出ていてちょっと見た目に困る胸に、その顔は清楚な方での美女と言っても差し支えがないだろう。


 ただ、それが人であればの話だが。


 下半身‥‥‥と言うか、大体人でいうと臀部あたりから人ではない姿になっていた。


 ちょっとモフモフしたいような毛でおおわれていて、全体的に白い光沢を放っているような、蜘蛛の下半身だったのだ。


「確か‥‥‥アラクネ?」


 上半身が美女、下半身が蜘蛛のその姿はそのモンスターを想起させた。


 ただ、ここまで綺麗なモノとは想像していなくて、しかも白さも相まってなんか逆にこう色っぽいような。




って、そんなことを考えている場合じゃないじゃん。


 よく見れば、足のいくつかに何やら鋭い傷が入っているようで、綺麗な肌に似つかわしくない切り傷のようなものが多く見られた。


「だ、大丈夫ですか!!」


 思わず、俺は近づいて声をかけた。


 だが、完全に気絶しているようで、ぐったりとしている。


 声をかけても目を覚まさないが、とりあえず口から息を吐いているのを確認したから生きているみたいなのはわかった。



‥‥‥って、待てよ?


 ふと違和感を感じて見てみれば、その切り傷‥‥‥剣とかで出来たようなものとはまた違う。


 庭で兄が剣術の勉強をさせられているのを見たが、手本として人形を斬った時の切り口を俺は見ているのだ。


 スパッと切れて、腕がいい人ならもっときれいな切り口の痕。


 だが、今倒れているアラクネの彼女の体にある傷は、どう見ても切り口が汚く、まるでムリヤリ切れない物で斬ったかのようなそんな感じである。ひっかき傷の方が正しいか?



 そして気が付いたのだが、彼女のそばに何やら大きな爪のような、足のようなものが‥‥‥





【ピャァァァァァァ!!】

「っつ!?」


 突然聞こえてきた、まるでタカの鳴き声のような声を聞き、思わずその方向を見ると‥‥‥



 超・でかいタカのような鳥がそこに居ました。あ、これモンスターだわ。




‥‥‥そこで俺は気が付いた。


 もしかしたら、先ほどの衝撃は、アラクネの彼女が上空からあのタカに落とされたものではないだろうかと。


 体についている傷も、おそらくあのでかい足につかまっているときに、暴れて傷ついたのではないだろうか。


 片足だけであり、よく見れば彼女のそばに落ちていた足のようなものと、もう片方残っている脚の形がほぼ一致しているのだ。


【ピャァァァァァァ!!】

「って、考えている場合じゃないじゃん!!」


 思いっきりあのタカのようなモンスターは臨戦態勢、というか、俺も獲物として見つけたかのよう舌なめずりをしたぞあの野郎!!



【ぐっ‥‥‥】


 っと、どうやらアラクネの彼女が意識を取り戻したようである。


「おい!!起き上って逃げることはできるか!!」


 慌てて俺は彼女に呼び掛けた。


【だ、誰ですか?いや、その前にここは‥‥‥】


 あ、これあかん。まだ頭がぼうっとしているようで、はっきり認識できていないのだろう。




【ピィィィィィヤァァァァァァァァ!!】


 そうこうしているうちに、あのタカのようなモンスターは勢いよく滑空し、俺達の下へかぎづめを向けて襲い掛かって来た。


 このまま逃げようにも逃げきれそうにもないし、まだよく知らない相手であり、モンスターだけどアラクネの彼女を置いて逃げるのも嫌だ!!





「ぐっ!?」


 そう強く思った時に、突然俺は体の血が沸騰したかのような熱さに襲われた。


 一瞬気を失いかけたが、頭の中に知らないはずの(・・・・・・・)魔法が大量に思い浮かぶ。



 すぐさま体が冷え、何もなかったかのような状態となり、目の前に鷹のようなモンスターが迫って来た。



 こうなれば一か八か、あの沸騰感は不明だけど思い浮かんだ中から、今使えそうなものを使うしかない!!




「『重力圧縮砲グラビティプレスカノン』!!」





 魔法名を唱えた途端、なにやら黒い球体が俺の目の前に形成される。


 そして、狙いを定めた鷹のモンスターに向かって勢いよく飛んでいき、一瞬で広がって包み込んだ。


【ピヤッツ!?‥‥‥ピギャァァァァァァァア!?】



 包まれて鷹のモンスターは一瞬困惑し、そしてすぐ後にその魔法の正体が何だったのか、自身で知ることになった。


べきぃぐしゃぼぎぃごぃ!!

【ピギャガァァァギュゥェェェェェェ!?】


 中心に向かって、まるでブラックホールに吸い込まれるかのように物凄い痛々しい音を立て、骨が折れ、身体がつぶされながらタカのようなモンスターは圧縮されていく。


 そのうち声も聞こえなくなり、包み込んでいた黒い球体も小さくなって‥‥‥そして、何もなくなった。


 そう、まるで圧縮され過ぎて小さな砂粒のようにでもなったかのように。




「‥‥‥えぐいなっ!?」


 数秒ほど呆けて、すぐにその威力の感想がつい口から洩れた。


 あの熱くなった感覚や魔法が思いついたのはよくわからない。


 けれども使えるものならと思って使ったのだが、予想以上だった。


 やばい、これ封印決定だろ。人前で迂闊に使えないぞ。




‥‥‥というか、この魔法って何の属性?もしかしてまだわかっていない俺の魔法の属性か?


「って、あれ?なんかめまいがぁ‥‥‥」


 考えようとしたとたんに、唐突に何やらものすごいめまいがして、俺はそのまま気絶したのであった。


‥‥‥やべぇ、そういやアラクネの彼女もまだ横にいるじゃん。話も聞いていないうちに俺が先に意識を失ってどうするんだよ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDE名前なしのアラクネ



‥‥‥私は今、信じられないようなものを見てしまった。






 ある森で私は生まれ、そこで数十年ほど過ごしていた。


 私はアラクネと言うモンスターらしいけれども、たまに出会う同族とは違って体が白く、自分で言うのもなんだが美しいらしい。


 人間とか言う生き物が時折私を何やら気持ち悪い目で見てきて、襲おうとしたり攫おうとして来たりしたが、すべて撃退してきた。


 


 ただそんなある日、私が木の上で昼寝を楽しもうとしたら‥‥‥なんかでかい鳥に攫われました。


 この世は強い者が生き残る。そして、私はあの鳥にとっては弱き者だったのでしょう。


 ですが、そう簡単に死にたくはありません。


 必死をこいてもがき、爪が引っかかって傷つこうがあがき続け、そしして糸を出して足を締め上げた瞬間、糸が細すぎたせいか足を断絶したようで、そのまま斬り落とした足ごとかなり高いところから私は落ちた。


 



 ちょうど真下が森だったようで、ある程度の衝撃が和らげたようだが、私は少し気絶し、起きてもすぐには頭が働かなかった。


 その時に、気が付いたのだが人間‥の子供のようなものが私のそばにいたのだ。


 頭がはっきりしないまま尋ねてみたが、すぐに私はこの状況を思い出した。


 見れば、あの私を攫おうとしたでかい鳥が、そばにいた人間の子供をも狙って滑空してきたのである。


 だが、落ちたときの衝撃がまだ抜けていなかったので、すぐには体が動かせなかった。


 せめて、その子供だけでも逃がしてあげよう思ったその時‥‥‥私は何か、ぞくっと何かを感じ取った。


 ほんの一瞬、目の前にいた人間の子供から発せられた気配。


 すぐに消えたが、不思議と目が見放せなくなって‥‥‥そして、あの鳥が襲い掛かろうとしたその瞬間、子供が何か魔法をつぶやいた。




‥‥‥人ってこんな膨大な魔力を持っていたっけ?と疑問を思わず浮かびあげるほどの魔力が集中し、何か黒い球体のようなものができて、鳥にめがけて飛んでいき‥‥‥見たこともないような感じで、あっという間に亡き者にしてしまった。


 最初から何もなかったかのような状態となり、私は思わず唖然とした。


 数秒ほどして、その子供は「‥‥‥えぐいなっ!?」っと発言したけど私も同意します。


 さすがにあの魔法のようなものの威力は、人間が扱うにしてもとんでもないものですからね。


 

 っと、いきなり子供の身体ふらつき、そのまま気絶しました。



‥‥‥魔力の急激な消費と、精神的に張りつめていたところが切れたのだと理解できました。


 少し寝れば自然と回復するのでしょうが‥‥‥とりあえず、助けてくれた恩人でもあるので、私の下半身の蜘蛛の部分の背中に乗せて、そこに休ませことにしましょうか。



 自身もまだ回復していないし、今は休むのが先決でしょう。


 情報とかは後で交換するとして、身体が動くようになるまでじっとして、動けるようになったら第2、第3のあの鳥に狙われないように、この子供を背負ってとりあえず木陰にでも隠れますかね。


‥‥‥でもどうしてでしょうか。なぜかこの子供に私は惹かれています。愛しいというか、ぞくぞくするというか、こう、尽くしたくなるというか‥‥‥。



‥‥‥ようやく本作のメインヒロインとでもいうべき存在が登場!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字  人間とか言う生き物が時折私を何やら気持ち悪い目で見てきて、襲おうとし足り攫おうとして来たりしたが、すべて撃退してきた。 襲おうとしたり攫おうとしてきた
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ