閑話 両親の思いの錯誤
リューの両親たちの思いの話です。主人公不在回。
SIDEディビット・フォン・オーラ辺境伯爵
愛しい息子たちが領地に夏休みだから帰ってきて早2週間ほど。
今日はどうやら全員それぞれの宿題を一旦やめて、遊ぶことにしたらしい。
ドスパラ、エレクト、コングマン、リュー……皆の兄弟仲は良好であり、争う事は余りないだろう。
しいて言えば、2日前にドスパラとエレクトがプリンの取り合いをして、リューの従魔であるスピリット・スキュラのファイという者が仲裁としてその足で全身くまなくグネグネ揉んだようで、骨抜きにさせて争いをいさめたという事ぐらいであろうか。
……どうもそれが効いたのか二人ともそれ以来、体の調子が以前よりも良くなったらしい。マッサージだったようだが、今度わたしも受けてみたいものである。主に腰で。
まぁ、今日は日課という事でわたしは愛馬に乗って領内の見回りをしていたのだが…‥‥うん、やっぱりというか、噂にはなっているようだな。
疾走する火の妖精、美しき清楚な白い美女、蒼き妖艶な美女。
…‥‥全部息子の一人、リューの従魔たちのことじゃないかぁぁぁぁぁぁ!!
と言うか、ほぼ容姿だけの事ばかりである。
どうやら意図せずというか、当たり前と言うべきか息子の従魔である彼女たちの外見は美しいゆえにこの領内で噂になりやすかったようである。
うん、リューよ。なぜおまえの従魔は大半が人型だ?どうせなら男らしくもっとかっこいいような従魔でも作ればいいだろうに。
その事を考え、最近わたしはモンスターについて調べるようになってきた。
書斎にこもり、本を読みふけるわたしの姿を見て、妻のミストラルが驚いて熱があるのかと測りに来たぐらいだ。……そんなにわたしは本のイメージがないのだろうか?
調べてみると、いろいろ面白そうなことがよくわかった。
モンスターと他の生物との簡単な区別の付け方は魔石を体内に含むことなのだが、高位のモンスターほどその魔石の輝きが美しいらしいという事。
環境に適応した姿になる者が多く、例えば同じウルフのモンスターでも極寒の地ではブリザードウルフ、草原ではウインドウルフと言った具合になることがあって、モンスターの中で最も環境に適応した姿になるのは種類の多さもトップクラスのスライムだという事。
モンスターの中には人と意思疎通するレベルの知能を持つ者たちが集落をつくっていたりして、取引をして居たり、魔物使いにと言うか、主を求めて旅する者が居たり武者修行で強さを求める者がいたりするという事。
モンスターと人の間に子をなす事例があったりするが、その場合は両親のどちらかの種族になるという事などと、多々あった。
ただ、その中でわたしは少々気になる文を見つけてしまった。
モンスターを従える魔物使いと言う職業なのだが、過去に魔王を輩出した割合が多いという事である。
魔王とは善か悪かの存在である。
繁栄をもたらすのもいれば、滅亡を望む者もいる。
そして、魔王になった魔物使いにはある決まった共通点があるそうだ。
…‥‥「従魔がほとんど異性か人型、もしくはその両方の割合が多い」と。
この共通点……考えてみれば息子のリューにも当てはまるのではないだろうか?
少し気になって、魔物使いから以外での過去の魔王についての特徴を調べてみると、それらから藻リューとほぼ一致するような事例があることを知ってしまった。
…‥‥うん、見なかったことにしよう。魔王と言うのはある日覚醒する者ものらしいけど、流石に条件がそろい過ぎているからってうちの息子がそうなるわけではないだろう。
学園からひそかに得た情報では、魔力量が人外レベルとか、扱う魔法の属性が異質だとか、実力がすでに桁違いすぎるなんてことも聞くけど、わたしにとって愛しい息子であることには変わらない。
その他に来ていた情報としては、最近アレン国王陛下から来た手紙だと、学園の方でリューが国王陛下の娘である第2王女様と仲がいいらしいので、この際婚約させたほうがいいのではないだろうかと言う打診まで来たが…‥‥
リューよ、なぜこの父の胃に穴を開けそうなレベルの事ばかりやらかすのかね?
ああ、ここに父は決心したぞ。出来るだけお前をまともな存在にしてあげようということをな。
次に従魔をお前が得る機会があったら、出来るだけ人離れした容姿を持った者にしてくれ。
人型だと、どうしてもお前は美女を引き付けてしまうようだからな。できればウルフみたいなやつか、もしくはゴーレムや大蛇みたいなのにしてほしいところである。
ドラゴンでも何でもいいから、人型以外で出来るだけ頼む。
…‥‥わたしはこの時そう望んでいた。
しかし、神と言う者がいるのであれば残酷と言うか、絶対に面白がって介錯しているだろうと、後のわたしはそう思い叫ぶ。
ああ、この世界はわたしの胃に優しくはないのだ。息子の従魔とかについて悩んでいるのは学園の方にいる学園長とやらも同じらしいので、今度語り合える時があれば語りたいものである。
互いの苦労を分かち合える友、それが、本当に今わたしが求めているものだったのだろう……
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SIDEミストラル・フォン・オーラ
夫であるデイビットはこの頃、真剣に悩んでいることがあるそうだ。
なんでも、私たちの可愛い可愛い息子たちの一人であるリューについての事らしい。
その気持ちはわからなくもない。
何しろリューの従魔と言うのは、女である私から見ても美しいと思えるような容姿の方々ばかりなのである。
綺麗な白い肌に、ぴちぴちの肌に清楚な容姿をしながら大きなものを持ち、美しさを漂わせるホーリアラクネのハクロちゃん。
小さな体でも、美少女と言っていいようなフェアリースライムのピポちゃん。
そして今年に入って従魔になったばかりだという、全体的に薄い青色で、妖艶さがあるスピリット・スキュラのファイちゃんである。
それぞれ容姿が人離れしたような美しさでもあり、其の方向性は違うとはいえ、人目を惹き付けるであろう。
まぁ、娘が欲しかったのに息子ばかりだった私にとっては、女の子の従魔は大歓迎だけどね。
ハクロちゃんは編み物を教えたり教わったりして、互いにそれぞれの愛する人に贈り物ができるわね。ついでに糸も自給自足できるものだから、失敗しても材料切れの心配はないもの。
ピポちゃんはもう少し大きかったらなとは思えるけど、幼い娘のようで可愛げがあってついつい甘やかしたくなってしまうわ。ああ、たまに撫でたりして思うけど本当に本物の娘が欲しいわぁ……。
ファイちゃんはどうやら薬等の作成に長けているようで、この間美容液を作ってもらったところ思いのほかその効果がすさまじく、何年か若返ったかのような肌になったのは驚きだったわね。おかげで夫との営みもついでに密かに作ってもらった薬でより…‥‥……あ、でもできるだけそれは作りたくはないようね。妖艶な見た目の割には、どうやら結構初心のようで顔が赤かったわ。
どこか話がそれたような気がするわね。
戻して考えると…‥‥ああ、リューの事だったわね。
夫の悩むところによると、まぁいろいろと複雑な事があるようで、そのせいかあの騎士としての習慣か寮内をよく見回りに行き、鍛錬する夫がまさかおとなしく本を読んでいる場面に遭遇したときは、熱でもあるのじゃないかしらと本気で心配したわよ。
で、まあ詳しく問いただすこともないのだけれども、ちょっとおもしろいことだけは聞いたわ。
なんでもこのザウター王国の国王の娘の一人と最近仲良いようで、この際変な縁談が来る前にリューと婚約をさせてみたいと打診してきたのだとか。
仲がいいと聞くけど、どうやらであっている場所は夢追い人育成学園…‥‥ああ、お転婆としても有名な第2王女様ですか。
うん、私は別に反対はしないわよ。でもね、親同士で勝手に決める前に本人たちで一度話し合う機会があったほうがいいと思うのよねぇ。
その為、今回の婚約に関しては保留であり、候補としては残るそうね。
王女の扱いとしては、国のためになるような相手との婚姻が望ましいとされているけど…‥‥息子のリューならほぼそれに当てはまるわね。
しいて言えば、もう少し甲斐性が欲しいところかしら?あと鈍感さもなくしてほしいかもね。
相手の思いに気が付きやすいように、もっと男を磨いたほうが良さそうね。
従魔を増やす機会があれば、出来るだけ女の子の方がいいわよ?その方がより好意を至近距離から向けるだろうし、いくら鈍感でもだんだん気が付いてきやすくなるはずだしね。
ああ、私が娘を欲しいからと言う理由ではないのです。結果として美味しいところにつくからと言うわけでもないのです。
何にせよ、無事独り立ちができるように育ってほしいと、親の立場としてはそう思うのよね……
…‥‥私はこの時そう思っていた。
そして、後に夫もどうやら違うところが多かったけど似ているような部分を考えていたようだが、私の方が優先されたような望みの結果にうれしく思えた。
ええディビット。あなたの事を私は愛していますよ。だからほら、新しい胃薬と、今後不安になりそうな部分への配慮のために、この毛生え薬も渡しておくわね。
息子たちの幸せ。それが私の本当に叶えたい純粋な思いだったのである……
……純粋な思いの方が叶うのだろうか?
神がいるとすれば笑いを取った方でもあるのかもしれない。
とにもかくにも、次回は新章で、少々年月が経ちます。おそらくディビットも胃潰瘍ができている頃合いでしょう。