閑話 とある夏の猛暑日
……季節ネタ。と言うか、一家に一体は欲しいと思えるかも。
……ファイがリューの従魔となり、一週間ほど経過した。
もう間もなく夏休みが迫ってきているせいか、ここ最近はぎらぎらと太陽が照り付けてくる暑い日が多かった。
どうやら異世界でも地球同様の季節は当たり前にあるようなのだが、今年はどうやら少々異常気象の年のようで、例年以上の猛暑日が多くなると予想されていた。
けれどもまぁ、そんなことはこの場において関係ないような状態となっていた。
なぜならば……
「あ~めっちゃ涼しい……外の暑さに比べたら室内の方が快適だよ」
【本当ですねぇ。こういう時に役に立つ魔法が使えると役に立ちますよね】
【キュピ~…‥‥スヤァ】
寮のリューの室内は今、快適なほど涼しい状態になっていた。
【主殿のために使用した魔法だけど、気分はどうカナ?】
「グッジョブ!!氷魔法と風魔法の組み合わせで、ものすっごい快適だよファイ!!」
にこやかに尋ねてきたファイに対して、リューはぐっと親指を立てて返答した。
そう、ファイは水、風、そして氷の3属性の魔法を扱えるようで、現在クーラーがかかっているがごとく、物凄く室内は快適な状態へと魔法によって変貌していた。
今日は休日であり、部屋に籠っていたのだが、窓を開けても暑いものは暑い。
そこで、物は試しにファイにお願いしてみたところ、見事に快適な空間へと変貌させてくれたのであった。
「にしても、こういった多種多様な魔法が扱えるファイが従魔になってくれたことは、今この瞬間が最も感謝できるなぁ」
【ふっふっふっふ、湖に普段住んでいたけど、時折夏の暑さにイラっと来た時があったから、こういう時のためにこの魔法を扱えるようにしていてよかったカナ】
こういう便利な魔法こそが、本当に必要なものではないだろうかとリューは心から思えた。
まぁ、室内が冷えて涼しいので、今日はこのまま籠っていたほうが良さそうである。
リューは一応宿題を終えて本を読んでおり、ハクロは編み物で夏用に風通しのいい衣服を編んでいるようである。
ピポは専用の小さなベッドの上で、涼しげに昼寝をしており、ファイは魔法をかけつつ、なにやら作業をしていた。
「そういえば何をしているんだよファイ?」
【ん?薬草の調合カナ。魔力を一応消耗するし、魔法だと体力は回復できても魔力の回復はできないから、こういった魔力回復薬なる物を調合しているのカナ】
スピリット・スキュラであるファイは、どうやら薬草学などの薬に関する知識も高いようで、その方面にも手を出し始めたらしい。
よくファンタジーにあるような回復薬とかはこの世界にもあるけど、魔力回復薬のようなものは、人と取引をするモンスターだけしか何故か作れないようで、その為貴重品とされているそうだ。
無理やり作らせようとした人もいたそうだが、たいていそう言うのを作るモンスターは強いのが多いらしく、返り討ちに合うのが関の山だという。
あとまぁ、貴重品でもあるので売ってもらえなくなる可能性を避けるために周囲が全力で止めるそうな。
……そんな貴重品を、目の前でファイが調合しているけどね。
【コトコト煮込んで~♪ その間に種と実を刻んで冷やし~♪ 粘液を少々混ぜて~♪】
歌いながらやっているけど、今明らかにやばそうなものが入ったような……聞かなかったことにしよう。
【あ、ちょっと材料がないカナ?うーんっと、ハクロ、お主の糸を30グラムほどわけてくれんカナ?】
「え?糸なんか薬にできるのか?」
【ホーリアラクネの性質は癒し、糸にもそのような成分があるので、切り刻んで細かくして、煮込んで抽出するのが薬にする方法カナ】
【へー、私の糸も材料になるんですか】
ファイの説明に、己の糸をそのように扱えるのかと、感心して聞くハクロ。
とりあえず糸を渡し、作業を続けるようだった。
コンコン
「リュー?いるかしら?」
「ん?ヴィクトリアか。入っていいよー」
部屋の扉をノックする音と、声が聞こえてリューは返事した。
ここは男子寮だが、女子が入るのは特に規制されていない。
男子が女子寮に入るのは規制されており、許可をもらわなければいけないという事になっているのだが……まぁ、別に良いだろう。
そもそも、リューの部屋にいる従魔たち全員の性別が女の子だから今更感があるのだが。
「ちょっと今日やろうと思っていた宿題の…‥‥何この部屋!?超涼しいわ!?」
部屋に入って来たヴィクトリアは、リューの部屋の快適さに驚きで目を見開いた。
「ああ、ファイの魔法によるものだよ」
「従魔に魔法で……いいですわね魔物使いって。ここまで気持ちがいい部屋なのはうらやましくもなりますわ」
ぐてーんと、さっきまでよほど外が熱かったのか、涼むようにくつろぐヴィクトリア。
王女にあるまじき姿と言いたいけど、まぁヴィクトリアだしな。お転婆姫とも言われているようだし、そのあたりは気にしないでおこう。
【この程度の魔法、普通に魔法を扱える人間でも出来そうカナ】
「いや、出来ないと思うぞ」
首をかしげて言ったファイに、リューは答える。
水や風属性の魔法を扱える人はいることにはいるのだが、こういう複合させて扱う人は余りない。
それに、基本的に魔法は戦闘に扱うと考える人が多いので、生活に役に立つような魔法を使用する人は少ないそうな。
まぁ、何はともあれ、暑い夏の休日は室内で快適に過ごせるようになったので、涼みにヴィクトリアが来るようになったのであった。
なお、後日談だが、その事を知った他の生徒たちも頼んできたが、流石にファイは一体しかいないので全員回れないので諦めてもらった。
でも、教室で授業をやる際に魔法を発動してもらい、リューたちのクラスだけが快適になったのは言うまでもない。……同じ授業でない人たちはうらやましそうな眼をしていたけどね。
なお、冬はピポの出番です。一応炎と癒しの属性を持っているので、ホッカイロのような役割を持つのである。
【私は?】
「ハクロはそうだな……春夏秋冬、臨機応変に季節に対応した衣服を作れることかな?」
【なるほど、そういう感じですか】