ゆらゆら揺れての馬車の旅:その3
旅は道連れ世は情けってね
SIDEリュー
襲われていた馬車‥‥‥状況としては膠着状態だったようなので、手助けをして襲撃していた盗賊たちらしき者達を捕縛し終えた後、リューたちは情報交換を馬車の持ち主とすることになったのだが‥‥‥
「ヴ、ヴィクトリア第2王女様!?」
【この国の王女様ですか!?】
【王女って何ーピキッツ?】
まさかの馬車に乗っていた主が、このザウター王国の王族である第2王女様でした。
驚いて思わず俺たちは叫んで‥‥‥あ、ピポはまだよくわかっていないのか。後でゆっくり教えてやらねば。
と言うか、王女というとなんとなくこう、おしとやかで、ゆったりとしたようなイメージを持っていたけど‥‥‥
「何か文句がありまして?」
目の前にいる王女、そんなイメージをぶち壊してくれました。
いやね?見た目とかは大体俺と同い年の少女で、髪の色が燃えるように赤くて、目の色が透き通るような青色をして、顔は結構可愛いかなと思えたけど……
手に持っている鉄パイプのようなものが怖ろしいんですが。あ、金棒?血濡れなんですけど。
‥‥‥噂で少しばかりは王族の話を聞くことがある。
その中でも、まさにあの国王にしてこの娘ありと言う言葉通りのような人がいるそうな。
なんでも、幼い時から活発で、国王のあの無茶苦茶ぶりを受け継いだような、そんな人が。
「ふむ……なるほど、辺境伯爵家の方でしたか。辺境の話は聞くことがなかったですけれども、これはこれで失敗でしたわね……ここまで強い人がいるならば、もっと情報を集めなければいけないと思い知らされましたわ」
ふぅっと、溜息を吐く第2王女様。
あれ?この人もしかして若干戦闘狂なのかな。異世界の姫マジ怖い。
「情報をもっと集めて、この人の事を知れたら‥‥‥」
【んんん?】
第2王女のそのつぶやきに、聞こえたハクロは目を細めたが、そのことに誰も気が付くことはなかった。
「ふぉっふぉっふぉっふぉ、まさか出くわした馬車が王族の馬車とはのぅ」
「お久しぶりですポーンルド先輩!」
馬車の方は馬車の方で、なにやら御者同士のつながりがあった模様。
ポーンルドさんの後輩の人のようで、どうやら面識はあったようだ。
世間って狭いね。
どうやら互いに話し合ったところ、この第2王女様もなんと夢追い人育成学園の方へ向かっている途中だったようだ。
目的地が同じという事もあり、実力はすでに見られてはいるので、この際一緒に向かってはどうかと王女様の護衛の一人が提案した。
普通、王族の馬車と辺境伯爵家の、それも4男の馬車が一緒になっていいのかと言いたいところだったけど‥‥‥なんか王女様側も納得しているようなので、一緒に目的地へと向けて馬車を進めることになった。
あ、無力化した盗賊たち‥‥‥王女様が推測するにはどうも盗賊に扮した王女様狙いの襲撃者だったようだが、そいつらは現在ずるずると馬車の後方で引きずられております。
「いたたたたたた!!」
「おい!!せめてもう少しゆっくりしてくれぇぇ!!」
「禿げる!!髪の毛が地面に刷れて抜けていくーーーーー!!」
ただの盗賊とかならば、切り捨ててその場に埋葬するようだが、こいつらはただの盗賊ではないのようなので、近くの町まで連行し、王族を襲撃してきた者たちとしてしかるべきところに引き渡し、拷問にかけられる運命が待っているようだ。
なお、盗賊と馬車をつないでいるのはハクロの糸をより合わせて作ったロープで、頑丈なので千切れもキレもせずにきちんとそのままつなぎ留めます。逃げられぬように、盗賊たちの体に幾重にも縛り上げ、縄抜けもそう簡単にはできません。
もちろん、道中で命を落とさぬように、ハクロが編み込んだ癒しの効果が入っておりますので、そう簡単にはくたばらないでしょう。
「にしても、まさか王族と途中から道中が同じになるとはなぁ」
馬車に戻り、ゆっくりとくつろぎながら俺はつぶやく。
一応王女が乗っている馬車の後方についていく感じで進むことになっており、前方を見れば護衛の騎士の最後尾の方が見えます。
【予想外と言うか、幸先が不安になりますよね】
【王女って偉い人ピキ―ッツ?】
「そうだよ。うちは辺境伯爵家であり、貴族の中でもそこそこの位だけど、その頂点に立つのが王族だからな」
うん、普通は敬うべき対象のようだ。だけどなぁ、なんか昔みたあのアレン国王だっけ?あの日と見てからちょっと敬いにくくなった。
何もかもあの国王が悪いという事でいいだろう。
【でもリュー様、王女様が襲われていたということは、この先私たちも道中が同じであるならば巻き添えになるのでは?】
「どうだろうかな。まぁ、出てきたらそれはそれで叩き潰すだけだ」
この際、夢追い人育成学園の方へ行くついでに、俺の魔法の加減の仕方を実践でより明確にしておいても損はないだろう。
練習台に出来るし、王女も守れるし一石二鳥ではないだろうか。
まぁ、何もないほうが良いなとは思うけどね。
【‥‥‥それに、なにかこう厄介なものが増えたような気がしますしね】
「ん?何かつぶやいたか?」
【いえいえなにも!!】
ふとハクロがポツリと真剣な表情でつぶやいたような気がしたけど、なんだったんだろうか?
この先の事でも考えたのかなと、リューは思ったのであった‥‥‥。
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SIDE第2王女ヴィクトリア
「‥‥‥それにしても、あの襲撃者たちはどこの手の者達だったのかしら?」
馬車の中で、ヴィクトリアは静かに考える。
あのお父様‥‥‥国王は自由奔放でよく城外に出かけることが多いのだが、その分情報網を築き上げているようで、何かしらの危険があった際には未然に防ぐほどの対策を立てていたりするのだ。
そんな中で、国王に限って自分の娘がおそ合われる可能性を考慮していないはずがない。
今回もいつもなら、盗賊のような襲撃者たちが出てくるとわかっていて、あらかじめ返り討ちに出来るようなことを起こすはずなのだが、それがなかった。
情報が入らなかった?それとも相手に黒幕がいて、その者が情報をつかませないようにした?
いや、もしかしたら‥‥‥
「お父様は私を試しているのでしょうか?」
思えば、今回の夢追い人育成学園へ入学する許可をくれたのも何処か不自然なような気がした。
喜びにあふれてはいたが、それ以前にはロイヤルード学園などに入学するように勧めてはいなかっただろうか?
そんな父である国王が、急に認めてくれたのは……
もしかすると、ヴィクトリア自身の覚悟を試しているのかもしれない。
王族を守る城から離れ、そこからヴィクトリア自身がどう行動するのか調べて、そこでもしふさわしくないようなことをしてしまったら‥‥‥連れ戻されるか、他国に嫁がされる可能性がある。
試練のようなものであり、己を試すようなことであろうとヴィクトリアは結論づけたのであった。
「もし試練だとしても、わたくしは絶対にあきらめませんわ。絶対に、夢追い人育成学園でお父様の目が見張るような功績を残すのですわ!!」
ぐっとこぶしを握り、決意をあらわにするヴィクトリア。
そこでふと、馬車の後方を見ると公爵家の馬車が見えた。
目的地が同じという事もあり、同行することになった公爵家の4男が乗る馬車。
その横には馬車にいるその少年と語らっているのか、平然と並走する美女‥‥‥アラクネの姿を見て、どこか嫉妬するような感情をヴィクトリアは覚えた。
なぜだかわからないけど、己の体の足りないところを埋めてくれるような少年、リューと名乗った辺境伯爵家の息子。
絶対にその足りないところを埋めるためにも、今は親しくしておきたいとヴィクトリアは思う。
そして、彼に関する情報を集めようかと思い、その方法を考え始めるのであった‥‥‥
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SIDEアレン国王
「‥‥‥そうか、無事に襲撃者たちを退けて、伯爵家の者と同行し始めたか」
「はっ、確認はとれております。念のために襲撃を画策したであろう者たちも既に絞り込めてきています」
王城にて、アレン国王は娘の様子をあらかじめ監視するように言って降りた諜報員の一人から、今の状況の報告を受けていた。
今回、娘であるヴィクトリアの馬車に国王への嫌がらせの為か襲撃を企んだ者たちがいることを、すでにアレン国王はつかんでいた。
だが、あえて泳がせることにアレン国王は決めた。
計算上、あの辺境伯爵家の子息が乗った馬車も通りかかるようであり、その子息‥‥‥リューと言う少年なら何とかできるだろうと。
本当に危うくなれば手を出すように言っておいたが、計画通りその子息が何とかしてくれたようである。
だがまぁ、そこで計算違いだったのが、さっそうと現れる救いの救世主のような状況を創り出せなかったことだろうか?
けれども、どうも思惑とは違ったとはいえ、まだ気が付いていないようだが、ヴィクトリアが淡い恋心のような物を抱いたことを、諜報員は見抜き、国王へ報告してくれた。
「下がってよい。後はその襲撃を企んだ今回の馬鹿たちへこっそり制裁を加えてくれ」
「はっ」
そう命令し、下がらせたあと国王はニヤリと笑みを浮かべた。
計画とは微妙に違うとはいえ、このままうまいこと行けば…‥‥
その未来を想像し、おもわず笑いが止まらなくなったのであった。
‥‥‥10分後、顎が外れたので医者に向かう羽目になったけどね。
‥‥‥さてさて、どうなる事やら。