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自由に過ごしたい魔物使い  作者: 志位斗 茂家波
終わりが見えてくるで章
159/162

閑話 愚者はどこまで愚者なのか

本当は短編として出す予定だったけど、内容的に閑話に近いかも。

少々先のお話でもある。

‥‥‥とある場所にて、バルク王国が主催する華やかな晩餐会が、今夜まさに行われる予定であった。


 だがしかし、その晩餐会の会場は今、誰一人として気を抜けない緊張の場になっていた。



「‥‥‥で、そこの大馬鹿野郎が、孫娘に対してありもしない冤罪をかけようとした馬鹿共か」

「は、はい・・・・・この旅は本当に申し訳ございません」

「何を言っているのだ父上!わたしはただ、全てありのままに告げようと」

「何も言うなこのバカ息子がぁぁぁぁあ!!」


 黒い衣を着た男の前で、この国の国王が必死になって謝っているところで、その息子であるジャバーッカ第1王子が反論しようとすると、有無も言わさずに王妃が息子の頭をつかみ、余計なことを言わないように地面へたたきつけた。



 頭から地面に突き刺さる形で王子が放置され、とりあえず事の状況を整理しようと、周囲にいた貴族たちは、この状況になるまでの経緯を思い返し始めた‥‥‥


―――――――――

事の起こりはつい半刻前。


 晩餐会の開催しようとした場で、ジャバーッカ第1王子はやらかした。



「ミリー・フォン・オーラ令嬢!!お前の悪事は全てばれている!!よってこの場でわたしジャバーッカとの婚約破棄し、この愛しいチール・フォン・ズレーア男爵令嬢との婚約をここに宣言しよう!!」


 堂々と言い放つ王子を見て、会場にいた貴族たちは顔を青ざめさせた。



 そして、その王子に指さされているミリー令嬢は、平然としていた。


 いや、もはや王子を切り捨てる冷酷な目で見ていたのだが、その事に馬鹿なジャバーッカは気が付かない。


「あ~~ん、こわいですよぅ王子様~」

「よしよしチール、お前はわたしが守るからな」


 わざとらしく怖がって王子にしがみつくのは、件のチール令嬢であろう。


 普段の噂も悪いものが多く、よく高位貴族の子息たちに言い寄ってはいたが、誰も彼もが一蹴していた。


 だがしかし、その中には当然突き抜けた馬鹿がいたようで、どうも王子とその取りまきたちが籠絡されてしまったようなのだ。


 よく見れば、王子とそのチールの周囲に一緒にいるのは、宰相の子息のカーオロン、騎士団長子息のズーックド、宮廷魔導士筆頭の子息のヌーケマサである。


 彼らは全員、元々はそれなりに頭が働く方であったが・・・・・どうも、完全に大馬鹿野郎になったようだ。




 そして、会場にいる貴族たちは知っている。


 あのミリー令嬢はただの令嬢ではないことを。


 だが、あの馬鹿たちはミリーについてほとんど何も知らなかったようである。



「・・・・失礼ですが屑こほん、ジャバーッカ王子、私の悪事とは何でしょうか?」


 本音が少し漏れたが、とりあえずミリーはそう尋ねた。



「数々のチールへ行った悪事をお前が知らないだと!?そんなわけないだろう!!」


 ミリーのその態度に、ジャバーッカは憤慨し、顔を真っ赤にする。


「お前たち!!皆で説明してやれ!!」

「「「はっ!!」」


 ジャバーッカの言葉に、取りまきたちは説明し始めた。


「まず!!愛しいチール様に対して水を豪快にぶっかけたという事!!」

「次に!!チール様の教科書をずたずたに切り裂いたこと!!」

「また!!落とし穴を設置し、それに我がチール様を落としたこと!!」

「「「極めつけは!!昨夜王子に会いに行ったチール様を、王城の階段で突き飛ばしたことだぁぁぁぁ!!」」」



 綺麗に声をそろえ、叫ぶ取りまきたち。


 ついでになぜか、王子もいちいちポーズをとっていたが・・・正直言って気持ち悪い動きである。



「統率は見事でしたけど、どれも心当たりがありませんね」

「なんだと!?しらばっくれるのかこの心が卑しい女は!!」


 ミリーのはっきりと言ったその言葉に、ジャバーッカは更に顔をこれ以上に無いほど赤くして憤慨した。



「‥…はぁ、本当に愚かというか、屑というか、大馬鹿野郎というか、とんま、間抜け、頭無し・・・・もうめんどくさいから愚者とまとめたほうが良いのかしら?」

「はぁっ!?」


 そのあまりの言いように、王子は素っ頓狂な声を上げて驚く。



 気が付けば、会場中の貴族たちは顔をこれでもかというほど青ざめさせていた。


 できれば、すぐにでもここから抜け出して、何もなかった事にしたい。


 だが、すでに遅い事を知っているがゆえに、動けないのだ。




「・・・・・ま、どうせもう遅いでしょうし、別に良いでしょう。婚約破棄は受け入れます」


 呆れるような声を出しつつ、ミリーがそう言うと、全くこの状況を理解していない屑もとい馬鹿もといジャバーッカは勝ち誇ったような態度になった。



「ほれみたことか!!全てお前がやったんだな!!婚約破棄を受け入れたということはそういうことだろこの不細工女!!」


 ・・・・・貴族たちは思う。


 ミリー令嬢は不細工ではなく、むしろ美しすぎる女性である。


 整った顔立ちに、令嬢として纏う雰囲気も清く、そのスタイルも黄金比を取っているかのような感じだ。


 そんな女性を相手にそう言い切る王子は、もうこの時点ですべての女性の敵で間違いないだろう。




 というか、ここまで言い切ったのはかなり不味いことであった。


 事態は一刻一刻悪化し、貴族たちはこの場の状態が最悪なのを理解していた。



 

 と、突然この場に誰かが走って来た。


「ま、待ってくれミリー令嬢!!」

「あら、国王陛下ですか」

「ち、父上!?それに母上まで!?」


 入って来たのは、この国の国王陛下とその妻の王妃。


 よっぽど急いできたのか衣服が少々乱れてはいるが、全速力で必死になって来たのはよく理解できた。




「陛下、残念ですがもはや私は婚約破棄をされましたわ。しかるべき措置は直ぐにとられるでしょうし、諦めてくださいませ」


 駆け寄って来た国王に対して、ミリーがそう告げると、国王の顔が青色を通り越して白色となり、続けて立っている王子をみて、顔を真っ赤にさせた。


「な、な、何をやらかしてくれたんだ、この大馬鹿息子があぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 本気で殴り、ジャバーッカは軽く吹っ飛んだ。


 その拳に、取りまきたちも、チール令嬢も目を丸くする。



「ぢ、ぢぢヴべ、いっだい何をなざるのでずが!!」


 よろよろと起き上り、そう発するジャバーッカ。


 どうもこの屑は全くこの状況を理解していないらしい。


「た、頼むミリー令嬢!!どうかこのことは絶対に!!」

「・・・・・・俺の耳に入らないようにしてくれか?それは無理な相談だな」

「!?」


 ミリー令嬢に向き直り、懇願しようとする国王の言葉を遮った声がした。



 絶望の表情を浮かべる国王がその声の方へ振り向くと、そこには怒りのオーラに身を包んだ、黒目黒髪の男が立っていたのであった‥…


―――――――


 そして冒頭に戻り、現在国王夫妻は目の前の男に全力で土下座し懇願していた。



「あら、お爺ちゃんもう来ていたの?」


 ミリーがそう言いながら、お爺ちゃん呼ばわりをしたその男の下へ向かった。



(・・・・・あれでお爺ちゃんって言える年齢かよ?)

(どう見たって、まだ20代程だぞ)

(馬鹿野郎!!あの馬鹿皇子たちは知らないんだろうけど、あの方はやばいぞ!!)


 その反応を見て、周囲にいた貴族たちはひそひそと話をしつつ、事の成り行きを刺激しないように見守る。



 その男、黒い衣をまとい、黒目黒髪の黒一色だが、その容姿は誰が見たって20代ぐらいであり、中々顔が整っていた。


 だがしかし、ただの人物ではないことを馬鹿王子とチールと取りまきたちを除いては、皆はよく知っていた。



「ああ、ミリー。愛しい孫娘が、ろくでもない馬鹿にありもしない冤罪で何やらされそうになっていると報告を受けたからな。急いで来たんだよ」


 ミリーに対しては優しい笑みを浮かべつつ、王子たちに対して厳しい目を向け直すその男。


 彼の名前はリュー。



 この世界で、圧倒的な力を所持する魔王。


 黒曜魔王という名前もあり、その由来は着ている黒色もあるが、敵対する者を徹底的に潰してしまうという鋭さが黒曜石のようだというところからもきているらしい。



 そんな魔王が、わざわざこの場にやって来たのは、ミリーが彼の孫娘であり、この状況を聞きつけたからである。


 この魔王、敵対する者には容赦がなく、確実に滅ぼす。


 だが、その反対に彼自身が愛する者たちは寵愛を注ぎ、その子供たちがいる国には繁栄をもたらしているのだ。



‥‥‥本来であれば、彼の孫娘であるミリーがこの国の王子に嫁ぐことによって、その繁栄を約束されたも同然の事だった。


 孫娘がいるから表立った敵対もせず、このまま平穏無事でいられるかと思っていたのだが・・・・・ジャバーッカという馬鹿な王子のせいで、その繁栄は失われた。


 いや、それどころか敵対同然と見られ、今まさに窮地に立たされている瀬戸際なのだ。



 

 なぜ、そんな重要な事をこの馬鹿たちは理解していなかったのかというと、その答えは単純である。


 王子として、そして取りまきたちは王子を支えるために勉学に励み、きちんと理解するべきだったのだが、あろうことか勉強嫌い過ぎて、世の中の常識という言葉すら知らなかったのである。


 あまりにもバカバカ過ぎるというか、こいつに国を任せれば確実に滅びるということで、近々穏便にどうにか婚約を破棄してもらい、次期国王を真面目な第2王子に指定して、なんとか彼の婚約者にする話しへもっていこうとしていたのだが・・・・・その矢先にこれである。



「そういえば、たった今うちの超人メイドたちが調べたんだけど、そこの馬鹿たちの言っていたこと、全て冤罪なのははっきりしたよ」


 にっこりとそう笑い、どこからか出てきたメイドから手渡された資料を掲げ、その真実をすべて明るみに出して、精神的に魔王はとどめを刺した。



 会場中がもはや絶望の中にある中・・・・・オーバーキルが実行されようとした。


「え~~~何を言っていらっしゃるんですかあなたは~~」

(((((ここで出てくるなよこの馬鹿がぁぁぁぁ)))))



 空気と化していたチール令嬢である。


 なんというか、もはやめでたいお花畑というか、この危機的状況をまったく理解していないだろう。





 いや、その逆だ。


 理解しているからこその行動なのかもしれないのだ。


 この国が魔王に滅ぼされる可能性が高いと理解し、ならばその前にとっととこの魔王にすり寄って自分だけは逃れようとしたのである。


‥‥‥が、愚策であった。


「いらん」



 そう魔王が発すると、その衣から大きな黒い腕が現れ・・・・



ぷちっ

「ぎゃっ!?」



 一瞬で、叩き潰した。


 その様子を見て、この状況の元凶がやられたことに対して、思わずガッツポーズをとった者たちがいたのだが、誰にも気が付かれないのであった。








‥‥‥この後、国王夫妻はほぼ死ぬ気で懇願したのだが、魔王は許さなかった。


 あんな屑は屑で最悪だが、そんな屑を育てたのは周りのせいでもある。


 スパルタでもいいから何とか周囲がまともに矯正するか、もしくはこうなる前に廃嫡等の処置ができたはずなのに、この場でやらかしたのだ。


 すなわち、この国はそんな屑を育てた国としてしっかり魔王に認識され、ついでにそんな屑をそそのかした上に、自分だけは助かろうとしたチール令嬢の事もあり、処分はしっかりと行われた。


 とはいえ、別に国を直接力を振るって滅ぼしたのではない。





「国の主要鉱山や資源を得られる領地の譲渡、あといくつかの各国との条約の破棄で、きちんと新たに結びなおすようにしただけでもいいか」

「お爺ちゃん、それって直接じゃなくて間接的にあの国を滅ぼそうとしていないかな?」


 魔王の言葉に、ミリーは顔を引きつらせて尋ねる。


「当り前だ。まぁ、すぐさまやらないのは罪もない人たちが国を逃げ出す時間を持たせているだけだし、もうひと月もしない間に確実にダメになるだろうな」


 何しろ魔王の怒りを買った国だ。


 当然、そんな国とは付き合いたくない国々は破棄された条約を結び直したくもないし、結ぶとしても有利になるようなものにするであろう。


 この件でこの国の王族の信用もがた落ちし、その信用を取り戻すには長い時間がかかるであろう。


 そのうえ、主要な産物なども差し押さえに近いので、もはやボロボロになること間違いなし。



「王子、取りまき、そのそそのかした人だけが悪いと主張する輩もいるだろうけど、全く止めなかった周りも同罪だからね。ここで徹底的に叩いたほうが良いんだよ」

「なかなか腹黒い算段を立てていたんだねお爺ちゃん・・・・・」


 改めて、自身の祖父もとい魔王の怒りに触れるのは危険だと認識したミリー。



 何にせよ、今回の件で彼女はしっかりと教訓を得た。


「悪い人は悪いけど、止めなかった周囲も悪いってことだよねお爺ちゃん」

「ああ、そういうことだ」



・・・・・この後、彼女は国へ戻った後、ある人物と恋に落ち、結婚することになった。


 それは、別の国の王子であったが、魔王いわく信頼はできるとして許可をもらい、彼を支えることを決意し、結ばれた。


 その後、王妃となり、その国は繁栄したという。


 一方、屑王子がいた国は次第に財政が傾き、最後には国民がいなくなり、周辺諸国が切り分けて行き、最終的にはその国自体が消えうせたそうな。




次回は新章・・・・・ではなく、最終章。

もう間もなくこの物語も終わりに近づいてきましたが、どうぞ最後までお楽しみいただけますよう願っています。

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