いつの間にかってことはよくあるのだろうか?
サブタイトルのようなことはあるかな。
いつの間にか勉強を終えていたり、いつの間にか食べ終わっていたり‥‥‥「いつの間にか」と言うのはありふれているような気がする。
「ふわぁあ~~~~っつ。なかなか釣れないあぁ」
【まぁ、釣りはのんびりしたものですからね】
あのめんどくさそうな国王の来襲からしばらく経ち、リューは今日釣りをしていた。
本当なら家庭教師とかもそろそろつくはずらしいのだが、この間兄上たちのやっていた課題をすらすら解いちゃったのでしばらくはある程度の教科分免除になったようである。
前世の知識が、まさかこんな形で生かせるとは‥‥‥まぁ、歴史など一部この世界についてまだ知らないことがあるので、そのあたりの勉強までは免除にならなかったのだけどね。
なので、そのあたりの勉強を除いて今日は自由に過ごせるようだったので、せっかくなので釣りをしてみようと思ったのである。
場所は、領内に流れる小川であり釣竿は適当に作ったものである。
小枝をつなぎ合わせて、ハクロの糸を釣り糸にしているからそう簡単に千切れることのない頑丈なものになっているはずだけど……
「まったく釣れないのが辛いなぁ」
【うーん、私の方は結構釣れているんですけどね】
見てみれば、ハクロはすでに20匹以上の小魚をつっていた。
なぜそこまで釣れるのか‥‥‥数十年近く森での野生生活を送っていた時に何かしらのコツでもつかんでいるのだろうか?
あ、キャッチアンドリリースの方針なので、やめる時に全部放流予定である。
「ハクロが何でそれだけ釣れるのかが気になるよ」
【私でも謎ですよ】
首をかしげるハクロだが、ふとそこで俺は気が付いた。
もしかして‥‥‥生物として上位の存在にしたがっているだけではなかろうか。
モンスターだけど、その強さは折り紙付き。
その圧倒的な格とかが自然と魚を惹きつけているのではなかろうかと。
【と言うか、連れているのがオスの魚ばかりのようなんですよね‥‥‥】
前言撤回。
これはあれか、魅力の差か。魚の煩悩が、思った以上にあって引き寄せられていただけか。
なんというか、この世界の生き物の煩悩の裏側を見たような気がして、思わず全部の魚を叩きつけたくなった。
【‥‥‥結局リュー様は余り釣れませんでしたよね】
「知りたくないことを知ってしまった感はあるけどな」
結局のところ、本日の俺の成果は3匹程度、ハクロは最終的に数えて100匹ほど釣れた。
全部リリースしたけど、ちょっとイラっとしたのでこっそり全部に『重量増加』という、重さを倍増する魔法をかけてやった。
効果時間は5分程度の魔法だが、消費する魔力も少なく全部にかけることぐらい楽勝である。
短くても物凄い負荷を味わうがいいさ。
「でもまぁ、のんびりとできたのは良かったかもなぁ」
【リュー様はいつもんのんびりしていると思うのですが】
「いやそりゃ言っちゃいけないような気がする。学校行くまでまだまだあるけど、それまでに楽しんでおきたいんだよ」
【そういうもんですかね?】
【ピキ―ッツ?】
「そう言うもんだよ・・・・・・ん?」
今何か、変な声が混じったような。
ふと思て見てみれば、ハクロとの間には何もおら、
【ピキ―ッツ!】
「下の方に何かいた!?」
【『スライム』ですよ!!】
よく見たら、小さなスライムがそこに居ました。
某RPGのような水滴の様な感じじゃなくて、丸っこいピンポン玉ぐらいのサイズの球体状だった。
何やら泥まみれのようだけど、元気いっぱいのようだ。
よく見ればつぶらな瞳をしていて、ちょっと可愛い。
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『スライム』
モンスターの中でも一番種類も数も多いとされる、どんな環境でもあっという間に適応してしまうモンスターの一種。
基本的な形態としては球状だが、進化すれば液体状やブロック状、円錐状など様々な形になることもある。
魔物使いが従魔にするモンスターの中では最もオーソドックスなものでもあり、最弱でもなく鍛えようによっては頼りになる従魔になる。
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【ピキ―ッツ!ピキキッツ!!】
一生懸命何かを訴えているようだけど、言葉を話せるほどの知能がないのか、鳴き声しかわからない。
ぴょんぴょん跳ねて可愛いかも。
【生まれてまだ数日ほどの幼体でしょうかね‥‥‥もしかして、リュー様についていきたいのでしょうか】
【ピキッツ!】
ハクロの問いかけに、そうだと答えるかのような返事をスライムがした。
泥まみれなので色はわからないけど、なんとなく一生懸命だという感じはわかる。
「うーん、このスライムって従魔にしてほしいという事を訴えているのか?」
モンスターが自ら訴えに来るってどんなんやねん。
【そうそう珍しいことではありませんよ。己の主となるべき方を直感で見つければ私達、モンスターは自ら志願することがあるようですから】
「そうなのか‥‥‥でも、現段階だと仮契約しかできないぞ?」
本契約には互いの血を混ぜる必要性があるのだが‥‥‥このスライム、まだ小さいのでうかつに傷を付けて血を出させにくい。
と言うか、スライムに血液ってあるのか?ほぼ液体の塊のようなものなのだが‥‥‥体液かな?
【ピキ―ッツ!ピキピッピ!!】
それでもいいのだと、言いたげな感じで訴えてくるスライム。
「なんとなく何が言いたいのかよくわかりやすいな」
【まぁ、従魔が増えることに私は反対しませんよ。リュー様にとって害をなすような相手でなければ大丈夫です】
ハクロの方としても、後輩が増えるようなものだからスライムを従魔にしても問題はないようである。
「それじゃぁ従魔にするけど、もうちょっと成長してから本契約で、今は仮契約でいいか?」
【ピキッツ!】
尋ねてみると、それでもいいという感じに鳴き声を上げるスライム。
「ならば名前をつけるか。小さなスライムで、泥まみれだし‥‥‥ピンポン玉のような感じだから『ピポ』だ!!」
【それ安直なような気がするのですが‥‥‥】
【ピー‥‥‥ピキッツ!】
ハクロが呆れたように言ったが、このスライムにとっては問題ないようで、受け入れたようである。
契約の魔法陣が浮かび上がり、仮契約が完了した。
もう少ししたら本契約を結ぶことを約束し、この日新たな従魔としてスライムのピポが従魔に加わったのであった。
「にしてもすごい泥だらけだな‥‥‥」
【ピキッ、ピキ―ッツキッキッキ!】
「え?すっころんで泥に突っ込んだだけか?」
【ピキキピーピッピッキ】
「なるほど、でもなんか惹かれて俺のところに来たのか」
【ピキ!】
【リュー様、物凄く自然に会話が成立していますけど‥‥‥】
従魔ができると、互いになにかしらの影響が出ることがあるそうで、どうやらスライム語を俺はわかるようになったらしい。
‥‥‥誰得なんだろうかこの影響。コミュニケーションがとりやすくなるのは良いけどさ。
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SIDEディビット・フォン・オーラ辺境伯
おや?息子がまた何か従魔を手に入れたようである。
今回はなにやら小さなスライムのようで、なぜかほっとする自分がいる。
また規格外のようなモンスターを従魔にするかと思ったけど、あのぐらいの小さなスライムなら十分許容範囲だから良いな。
と言うか、普通はああいう物から始めるような気がするのだが‥‥‥流石にホーリアラクネが規格外すぎたのであろう。
まともな普通のが来てくれてよかったよ。スライムなら安心だ。
‥‥‥そう油断していたのがいけなかったのだろうか。
見た目が小さく、その時は泥で汚れていたがゆえに普通のスライムとわたしは判断していた。
なぜ、亜種や希少種であるスライムの可能性を考えなかったのだろうか。見た目が泥まみれで、体も小さくてその可能性を候補から外していたから。
なぜ、そもそも普通ではないモンスターを従魔にするような愛しの息子に進んでくるようなモンスターがいたのか。ホーリアラクネを従魔にするレベルの愛しの息子に自ら来ている時点で考えるべきだった。
なぜ、スライムの環境適応能力とその多様性を考慮していたかったのだろうか。スライムは環境によって適応した姿に進化するし、愛しの息子を包み込む環境はとんでもないものだったはずなのに‥‥‥
考えるだけでもいくつもの「なぜ」が出るのだが、後悔しても遅い。
いや、不利益にはならないのだが‥‥‥後に、そのスライムもわたしの心労を重ねる羽目になるとは、この時はまだ知る由もないのであった‥‥‥
リューの父であるディビット‥‥‥彼にお勧めの薬はあるだろうか?
このスライム「ピポ」だけど、なんとなく可愛い感じで考えていたらこうなった。
‥‥‥リューの周辺環境としては、幻獣種の従魔(美女)、異質な魔法、成長する実力、従魔との絆の深さ‥‥‥そんな環境に適応したスライムが進化するとどうなるだろうか?