閑話 オーラ辺境伯爵家の祝い事
本日2話目
ちょっと予定を変えて、この話を入れました。
・・・・・本日、リューは従魔たちを連れて実家のオーラ辺境伯爵家へと里帰りをしていた。
夢追い人として活動していたから、たまには実家に顔を出そうという理由ではなく、伯爵家であることが行われるため、そのために帰郷したのだ。
「ついに、父さんが引退してドスパラ兄上が新たな当主へ、エレクト兄上はその補佐になるのかぁ」
「ああそうだとも!!ついにこの兄が当主となるんだ!!」
「でも、引退のきっかけは父さんのぎっくり腰が原因だけどね」
「ああ、そういえばそうだったな」
久し振りの兄弟でそろっての話の中で、エレクトが発した言葉を聞き、皆少し情けなくなった。
ぎっくり腰。それはある日突然起こる腰痛であり、大半のきっかけは重い物を持ったこ都である。
だがしかし、今回このリューたちの父親でもあり、オーラ辺境伯爵家の当主であったディビットがぎっくり腰になった原因は、ある意味レアケースであった。
「落ちていた羽ペンを拾おうとして、かがんだ瞬間に腰が逝くとはなぁ」
「今、ファイたちに診察してもらったけど、完全に癖になるやつのようで、治療しても再発の可能性が高いそうだよ」
「人生って本当に何が起こるのかわからないということを、父上は身をもって証明してくれたんだよ」
「証明したくない方法で証明したとはこれいかに・・・・・」
何にせよ、これで文句とかがない限りドスパラが当主の座を継ぎ、オーラ辺境伯爵家は代替わりをするのだ。
「ワゼ、この当主交代に文句を言うような奴はいないよな?」
こういう時に限って、どこかの貴族がちょっかいをかけてきたり、自分の方にその相続権があるのだとかいう文句をいうやつがいたりするので、念のためにリューはワゼに確認してもらったが・・・・・
『ほぼ大丈夫なようデス。血縁関係を洗い出してみましたが、おそらくそんな事をするような輩はい兄でしょウ。・・・・・というか、当主交代予定の方の婦人、ご主人様の母親であるミストラル様の実家の方で少々もめごとの気配がありましたが、どうやら無事に粛清されたようデス』
「粛清って何があった?」
『まぁ、気にも留めることではありません。ご主人様の母親は・・・・・まぁ、うん、そのある意味私のような方ですし、そんじょそこいらの方々は手を出そうとも考えないでしょうネ』
ワゼが言いよどむって、うちの母親が何をしたんだよ。
そういえば、昔の話で父が母と結婚する際に何か言いがかりをつけてきたやつがいて、それを黙らせたとか言う話があったような‥‥‥考えないほうが幸せそうだ。
とにもかくにも、明日当主交代の式を行い、正式にドスパラが当主となるだけである。
ハクロたちはリューの従魔だが、今回はその式の護衛に当たり、ヴィクトリアはリューの横でファーストレディーとしているようだ。
ついでにだが‥‥‥
「で、その式のついでとしてドスパラ兄上は結婚するんでしたっけ?」
「ああそうだとも弟よ!!」
「まぁ、こういう時はめでたいことを重ねたほうが縁起が良さそうだしね」
当主交代の式に合わせて、ドスパラはなんと婚約者がいたのでその相手とゴールインするのだとか。
・・・・・・というか、このドスパラに婚約者が出来ていたというのは十分驚くことだけどね。
ちなみに、エレクトは既に婚姻しており、こちらはこちらでおしどり夫婦として有名なのだとか。
そして、リュー同様夢追い人としてデビューしているコングマンは面白いことになっているのだとか。
「夢追い人として活動をしているけど、どうにもこうにもよく女性が多いパーティに誘われそうになってさ、何度襲われかけたことやら・・・・・」
「・・・・・苦労しているねコングマン兄上」
意外というべきか、どうもコングマンはモテるらしい。
ややのんびりしたところがあるのだが、顔はまあまあ良く、性格も悪くないため草食系男子としてかなりの女性たちに狙われているのだとか。
「しかもここに来る1ヶ月ほど前には、依頼でとある部族の下に行ったんだけど・・・・・それが罠でさ、アマゾネスたちに襲われかけたんだよね・・・・・」
「男子を求め、ラミアやハーピーといった似たような目的があるモンスターとも手を組み、集団で性的に襲撃をかけるという一族だっけ」
「その通り。しかも、100人ほどで追いかけられてさ、あの時は3日3晩闘争を繰り広げ、何とか振り切った時には生きていることを実感できたよ・・・・・」
遠い目をして語るコングマンに、リューたちは同情した。
女好きな人ならばそれはうれしい事なのではというだろうけど、そう甘いものではない。
永遠の囚われの地獄と化し、二度と日の目を見れなくなると言う話もあるそうだ。
国によっては犯罪者たちをそこへ送り込み、永遠に出てこれないようにする刑もあるそうで、死刑よりも重い罰だというが…‥‥考えないでおこう。
ともかく、そんな気が重くなるような雰囲気を変え、リューたちは一晩兄弟そろっての会話に楽しんだ。
こういう何気ない会話ができるのも、次期当主争いを特にせず、それぞれが目標もあり、自分を確立しているからであろう。
他の貴族家とかで、次期当主争いを兄弟間で行うところもあるそうだが、この辺境伯爵家では怒らなかったことは幸いである。
・・・・・・まぁ、誰も次期当主にさほど魅力を感じなかったというのもあるだろうけどね。
ドスパラは長男だからなるのは別に良いとして、エレクトは当主ってガラではないと自分で割り切り、コングマンは夢追い人として活動したくて出ていく予定もあったし、リューの場合はヴィクトリアとの婚姻によって王家の血筋がある一族の公爵家としても黒曜魔王としてもあるので、誰もが当主にさほど執着しなかったからであろう。
そう考えると、この家ってそこそこ特殊な事情が入り混じっているよな。
翌日、そこまで派手ではないけれど、無事にドスパラへ当主の座が渡され、オーラ辺境伯爵家は新当主誕生となった。
「にしても、本当に文句を言うような輩っていなかったのかな?」
当主として、この式に招かれた領民たちに祝福されているドスパラを見ながら、リューはつぶやく。
『・・・・・実は、いたことにはいたようなんデス』
リューのつぶやきに対して、ワゼがそう答える。
どうやら、父の親戚のいとこの兄弟の・・・・・その先はもうほぼ他人じゃないかというような人のバカ息子が、自分にこそその党首の座がふさわしいとでもいうような事を吹聴していたらしい。
なんでもその人物は元々素行がものすごく悪く、いや本当になんというか近年まれにみる妄想癖の激しい究極の馬鹿だったそうだ。
ただ、この当主交代の数時間ほど前に突然何者かに襲撃をかけられ、現在行方不明になっているそうなのだ。
『で、その行方不明前に何者かが、ご主人様の兄弟を狙ってやってきていたアマゾネスたちに接触して、狙うならその馬鹿が良いとおすすめしていたそうだという情報がありマス』
「・・・・・・ちょっと待て、その勧めた人物は分かるか?」
『今のところ詳細が不明ですが……ご主人様の母が連絡柄劣っていた人物のようで、どうもあらかじめそのことを知っていたかのような形跡がありマス』
・・・・・・母上、マジで何をやっているんだろうか。
考えてみれば、父は元々騎士であったために辺境伯爵家の政事を行えるのかと思ったのだが、母がその手助けをしていたはずである。
つまり、それだけの能力はあったし、この当主交代式に物言いが来ないように、そして母として最期の面倒を見ることとしての邪魔者を排除することが出来たのではないだろうか。
ミストラル・フォン・オーラ。後世、黒曜魔王の母親であり、オーラ辺境伯爵家の裏の権力者として働き、そして息子たちのために障害物をできるだけ排除していた功績者として記録に残ることなど、この時のリューたちは知る由もないのであった。
・・・・・そもそも、辺境伯爵家ってそれ相応の実力がないと率いることができない役職でもあるんだよね。
その裏の権力者としてリューの母親が動いていたのだが、それを息子たちが知るのはもう少し後のことである。
『ちなみに、私的には人間の中で尊敬できる人物に値しますネ。ご主人様はご主人様で別の枠組みですが、影の権力者としての功績を考えるとまだまだ自信を精進することができるのだと思い知らされますヨ。世が世なら、国そのものを率いていたのかもしれませんネ・・・・・』
「以前の毒馬鹿と比べると?」
『比べようがないデス。というか、その毒馬鹿野郎は薬に関してはまぁ良いのですが、人間性を考慮しますと‥‥‥屑ですネ』




