治療薬完成・・・・・・なんだけどね
問題が起きないわけではない
SIDEリュー
・・・・・・ようやく大蛇化した者たちを治療できる解毒剤が精製完了した。
【ふぅ、思った以上に手間がかかったカナ】
『細かな調整もありましたが、何とか出来ましたネ』
息を吐き、汗をぬぐうファイに、疲れているようにはまったく見えないワゼ。
この解毒剤の精製にはほぼ不眠不休で行う必要があったために徹夜したのだが、同に完成にこぎつけたのである。
「さてと、これがその解毒剤で大蛇化を治せるようだけど……本当にこれで大丈夫なのか?」
【間違いないはずカナ。細かな毒の組み合わせがあるから、それらを打ち消し合うようにして順番もしっかりと定め、これを摂取させればたちどころに元に戻るはずカナ】
『人体への影響を計算しましたが、おおよそ大丈夫なようデス。ただ、予想される副作用がありマス』
「副作用って・・・・・本当に大丈夫なのかそれ?」
『問題ありまセン。精々、大蛇化していた影響でしばらくの間歩く際に違和感を覚える程度だと思われます』
・・・・・・ああ、確かに蛇行して進んで居たら、元に戻った時に足の感覚とかおかしくなっていそうだしね。
とにもかくにも、あとはこの都市中の大蛇たちに打ち込み、クラウディア森林へ戻ってエルフの長に摂取させれば物事は全て丸く収まるはずである。
【って、どうやって摂取させるんですか?】
ふと、ハクロがその疑問を口にした。
確かに、大蛇の鱗とかは厚そうだし、そうやすやすと‥‥‥あ。
そこでリューたちは思い出した。
ここに来る前、大蛇化していたエルフの長の血液検査事を。
そこで使用した、ワゼの巨大な注射器の存在を…‥‥
その日、都市内ではあちこちの大蛇たちが次々と刺されていき、すごい悲鳴が響き渡った。
けれども、摂取させた途端に大蛇の身体が縮み、元に戻っていく。
とはいえ、全員があぶくを拭いて気絶したが…‥‥まぁ、とんでもない痛さなのは間違い様だし、これもすべてこの毒を作りだした奴を恨んでほしい。
『まぁ、そもそもこの注射って他の皆さんの健康状態を調べるために利用する予定もあったんですけどネ』
【【【【!?】】】】
ぽつりと漏らしたワゼの言葉に、思わずハクロたちは遠ざかった。
いや、皆にそこまで巨大な注射いらないよね?普通サイズで腕にチクリ程度で済むと思うのだが・・・・・・
そうこうしているうちに、この都市内の人々は見る見るうちに大蛇化から解放され、人間へ戻り、治療が完了した。
こうなると、誰かが気が付いたときに面倒ごとになりそうなのでリューたちは即刻その場から逃げた。
都市の人達を救ったということで感謝されるかもしれないが、よくよく考えればこの事態は他の広まるとまずい。
大蛇化できる毒・・・・・・つまり、兵器としても有効そうな毒として目を付けられ、その解毒剤を知っているリューたちが狙われる可能性があったからだ。
いや、そんな輩は普通にもみじおろしにしたりして対処できるのだが‥‥‥それでも、極力変な面倒事には関わりたくないものである。
あと、この大蛇化を解毒する薬には一つ問題点が。
「‥‥‥あれの掃除は嫌だしな」
【ええ、流石に嫌ですよね】
大蛇化、つまり元の人から細胞が毒によって変化し、大蛇となり果てることである。
そこでこの解毒剤は大蛇化した細胞を捨て、元の人としての細胞を生み出させるのだが‥‥‥その捨てた細胞が問題だった。
何しろ、元の何倍もの大きな大蛇であったから、出てくる細胞も大量にある。
そして、まるでさなぎから出るかのように人が出てくるのだが、その周囲には捨てられた大蛇時の細部の山があった。
しかも、捨てられてすぐにどうやら腐るようで、すっごい腐臭が漂うのである。
まぁ、何とか元に戻しただけでもういいだろう。
でも、流石に最後まで面倒は見たくなかった…‥‥本気で臭いもん。
「というかこれをさ、エルフの長に投与したら同じことになるんじゃ?」
【そのあたりはどうなるカナ?】
『あくまで「人間」に対してのものですし、完全に同じになるとは限りませんネ】
・・・・・・え?そんなものを使用して良いの?
何はともあれ、クラウディア森林へとリューたちは戻り、アルべリアに帰還を伝えた後、再度エルフの長がいる洞窟へ向かった。
中に入れば、そこには当初のままの大蛇姿の長が縛られており、今すぐにでも知用出来るであろう。
「なぁ、それ本当に効くのじゃろうか?」
不安になったアルべリアが尋ねてきたが、既に都市にいた住人たちで臨床実験終了済みである。
ワゼが巨大注射を持ち出し、それに気が付いたエルフの長が抵抗を試みる前に、間髪入れず容赦なく打ち込んだ。
ドスッツ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫するエルフの長。
先日も血液検査で受けたばかりだというのに、2度目の巨大注射は何処か同情してしまう。
「というかワゼ、痛くない注射とかできないのか?」
『そんな夢のような注射器はありまセン。まぁ、注射器というくくりで考えなければあるのですが‥‥‥これが手っ取り早いのデス』
【その痛くないほうが良いのだと思いますが・・・・・】
と、無駄話をしえいるうちに、気が付けばエルフの長の身体に変化が表れ始めた。
体が縮み、大蛇のような部分がボロボロと崩れ落ちていく。
徐々に中身が出てきて、元のエルフの長へと・・・・ならなかった。
「あ、あれ?」
確かに、大蛇化は治った。
縮小し、上半身が元のエルフの・・・・・長と呼ばれている割にはかなり綺麗な人であり、まだ20歳と言われても通用するほど美人である。
だがしかし、腰回りを過ぎたあたりで‥‥‥変化が止まってしまったのである。
上半身だけエルフ、下半身が蛇のまま…‥‥
くしくも、大蛇化の毒を作製した人物が望んでいたラミアへと、エルフの長は変貌してしまったのであった。
「な、な、なんでこうなるんだぁぁぁぁぁ!?」
思わず、エルフの長は絶叫した。
全部が治るかと思っていたのに、中途半端に止まってしまえばそりゃ叫びたくもなるよな‥‥
「というか、これ一体どういうことだよ?」
【ううむ?人間には効果はあったけど、エルフは少々遺伝的な面からでも異なるから、そのあたりで解毒剤の作用が中途半端に止まってしまったのかもしれないカナ?】
『原因としては他に、毒に対しての耐性でしょうかネ?あの大蛇化の毒は相当強く、体が自然とあらゆる毒に対抗する造りとなり、解毒剤の投与も毒同様に扱われ、結果として二次応答のような事が起こり、解毒剤が駆逐されたのでしょウ』
ファイとワゼの推測だが、どうもそのようである。
・・・・・・哀れエルフの長。
エルフ改め、大蛇改め、ラミアへと種族が変化してしまったのであった。
「・・・・・こりゃ依頼失敗か?」
「それよりも責任を取ってくれぇぇぇぇ!!」
・・・・依頼失敗。
というか、さらにややこしい事態にしてしまったのかもしれない。
次回に続く!
【薬の作成者は馬鹿でもあったが、毒薬づくりには天才的な面があったからカナ?】
『何万分の一の確率で成功する毒のようで、解毒剤も同様だったようですネ。それをこの長は引き当ててしまったと・・・・』
「なぁ、これ治るのか?」
【無理カナ。完全に耐性が付いているようだし、変えようが無いカナ】
『そもそも種族そのものを変質させる毒というのはリスクが高いデス。再び違う毒を投与したら、今度は死ぬかと』
・・・・・・救いようはなかったようだ。とんだ置き土産をあの馬鹿は残してくれたなぁ。




