どういう惨状というべきだろうか
内容が薄くなってきたような・・・・・どうしよう。
・・・・・・都市アールバスは、都市というには小さめのところであり、余り外部から人が入ってくることはないらしい。
ゆえに、何か異常が都市内で起きたとしても、その連絡が外部に行きにくい。
いや、その連絡をする人自体に何かあった場合、孤立するであろう。
そして、その孤立は時として厄介事を引き寄せたとき、更に重症化させることがあるのだ‥‥‥
「でも、この状況はひどすぎるだろ・・・・・」
都市アールバスの上空から、空飛ぶ気球馬車に乗って見下ろし、その惨状を目にしたリューは思わずそうつぶやいた。
「しゃげぇぇぇぇらぁぁぁあぁ!!」
「げじゅらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「獲物はどこじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
【なんといいますか、理性を無くした大蛇の群れがすごいですね】
【普通、あれだけのだと共食いをしそうだけどそれをしていないのは奇跡に近そうカナ?】
眼下では今まさに、蛇の洪水に呑まれた都市とでもいうべき光景が広がっていた。
道という道がみっちりと巨大な大蛇たちによって占領され、すでに理性を失っているのか暴れまくり、もはや蛇地獄としか言いようのないような状態になっているのだ。
というか、叫び声におかしいのが混じっているような。やっぱり理性は失われていないやつもいるのか?
都市内に入ろうとしたら封鎖されており、内部からのようであると思えるような事から、都市内で理性が残っていた人たちが、自分たちのこの醜態をさらけ出させないように、そして理性を失った大蛇たちが野に放たれないようにされているのだと推測できたのである。
「大蛇化する毒とやらがあったらしい店にほとんどの人達が被害を受けたようだな‥‥‥」
この状況では、もはやどこに何があったのかすらよくわからない。
上から見る限り、もうぎっちぎちに詰まりまくっていて、本当に何から手を付けて良いのやら…
と、ここでふとこの大蛇たちの流れの法則性にリューは気が付いた。
「ん?あのあたりの動きだけ変じゃないか?」
上空から見ないとわからなかったかもしれないけど、どうも大蛇たちの流れの一部に、誰もより浮いていないエリアがあるのだ。
それは何処かの店の前で・・・・・ん?
【・・・・・店名「クーレス」・・・・・件の店でござるよ!】
目を細め、看板に書かれていた店名を口に出すルピナス。
どうもあの大蛇たちがよりついていないエリアにある店こそ、この現象の原因とも言える店のようであった。
店前にゆっくりと降り立ち、大蛇たちが迫ってくる前に素早くファイの魔法で氷壁を張り、ハクロの糸で粘着質のトラップを仕掛け、さらにランの催眠系統の魔法を仕掛けて侵入できないようにして、店の中へリューたちは入った。
中に入ると誰もいない。
とはいえ、あの大蛇化の原因の店でもあるので、毒がまかれていないのかセンサーをフル稼働させたワゼを先頭にしつつ、リューたちは奥へ入る。
「お、こんなところに隠し扉発見」」
店の奥、厨房にて冷蔵庫の足元に妙な痕があったので動かしてみると、その下には隠し扉のような者が設置されており、開けると地下へ続く階段のようなものがあった。
・・・・・・とはいえ、降りようとしたら少々問題が。
【このサイズだと私たちは入れませんね‥‥】
【成人男性一人分のスペースしかないカナ】
蜘蛛の下半身やタコの足のせいでハクロとファイは入れなかった。
この中に入れるのはリューとピポ、ワゼ、ラン、ルピナスだけだったので、とりあえず何物も侵入できないように待機してもらい、リューたちは地下の方へ降りていった。
「・・・・・これは」
ピポが発火し、周囲を照らすと何やら難しい薬剤の調合台などが置かれており、ただの地下室ではなく、毒薬の精製を行っていた場所だと推測できた。
そしてその奥の方へ進むと‥‥‥そこには、一人の男性が横たわっていた。
全身ひげもじゃで、おそらくここに逃げ込んだ人物でもあり・・・・・大蛇化の元凶だ。
でも、ワゼが見たところ、どうやらすでに死亡してしまったようだ。
『死後経過およそ1週間前後デスネ』
「ここに籠城でもしていたようだけど、食料も水もなさそうだし、既にこと切れていたか・・・・・」
こうなってしまえば、一体何をどうしてこうなったのかという大蛇化の原因を知ることはできない。
だが、幸いというべきか、なにやらその死体の手記のようなものをピポが見つけた。
【主―、これ、日記じゃない?】
「え?」
見てみれば、日付が1週間ほど前に止まっているが、どうにも几帳面な性格だったようで、細かい状況が掛かれていた。
「‥‥‥読んでみるか」
恐る恐る開き、リューたちはその内容に目を通し始めた。
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『謎の男の日記』
2カ月前:
やった!!やったぞ!!俺はついに完成させたんだ!!
歓喜のあまり、私はつい某ピンク玉のように3日3番踊り狂い、熱を出して倒れ込んでしまった。
うむ、我ながらものすごい馬鹿な事であったと思うが、それでもうれしすぎたのだからしょうがない。
・・・・・昔から、私には何やら異世界の記憶のようなものがあり、そこでは大地をかける鉄の馬車や、遠くの人とも普通に話せるような道具があった。
その中で、私はRPGゲームというものにはまっていたようで、その中でも特に育成系の、ラミアやナーガと呼ばれる蛇モンスターが大好きであったと思う。
そして、その記憶を元にこの世界にも同様のモンスターがいるはずなので、彼女らと仲良くなってウハウハのハーレムを築き上げたかったが・・・・・現実というのは甘くねぇんだよこんちくしょうが!!
なんだよ、もう・・・・・魔物使いの才能がないと従魔とかに出来ないとか、奴隷も違法のような形でしかできないし、早々にして挫折したよ!!
だがしかーし!!この私は異世界の記憶の中ではどうやら薬剤師という者であったようであり、しかもその中でも毒薬に関して物凄く豊富な知識を持っていたのだ!!
そして、それを利用してついに私は人を無理やりラミアやナーガと言った種族に変換させる毒を創り出したのであーる!!
さぁ、これを利用してウハウハハーレムを目指すぜ!!
1カ月前:
ちくしょう!!そもそもよく考えたらこんな怪しい薬を誰が飲んでくれるんだよ馬鹿野郎!!
街中でこれ飲んでみませんかといったら、危うく不審人物として没収されるところだったぞ!!
・・・・・そうだ!!飲食店でも開き、そのメニューにこいつを混ぜてしまえばいいじゃん!!
ここの人達は外に出ていくような人も、入ってくるような人もほとんどいないし、何をやらかそうがバイオハザードのような危機はないだろう!!
魔法とかもある世界だし、誰か何とかしてくれるはずだぜぇい!!
2週間前:
・・・・・・うん、1カ月前の自分を本気で殴り倒したい。
ラミア?ナーガ?それとも他のモンスター娘?そんなものでねぇぇぇよ!!
というか、人を襲う化け物のような大蛇になっていくじゃねぇか!!しかも逃げたいのに封鎖されたし、これもう完全に籠城して生き延びるしかないじゃん!!
ああ、こうなるのだったらせめて俺がこの薬を飲んで混ざってしまえば‥‥‥あれ?材料切れでないやん。
最後の日付:
神よ、本気で土下座するのでどうにか助けてくれ。
もはや水も食料もなく、あとは死を待つのみである。何でこんな馬鹿な事をしてしまったのかなぁ。
そうだ、せめてこの記録を見つけた者に、思いついた解毒剤の調合方法を乗せておいてやろう。
いまやもう、作りたくても食料代わりに食べちゃったし、材料ないけどね。
ま、頑張って集めてちょんまげ☆
―――――――――
・・・・・・最後のそのあまりのもアホナふざけで、その記録は終わっていた。
「‥‥‥うん、何だろうこのとてつもない馬鹿は」
【・・・・・呆れるピキッツ】
【何やら才能を無駄づかいしているのだよ‥‥】
【伝説の馬鹿として名を残しそうでござるな】
『というか、何ですかこの阿保らしい記録ハ・・・・・』
呆れてものも言えないとはまさにこのことなのだろうか。
というか、こいつ前世の記憶持ちかよ。しかも、こうなった理由が自分がハーレムを作って、しかも蛇系の美女に囲まれたかったからって・・・・・・底抜けのバカかよ!!
「あ、でも真面目に解毒剤の調合方法は残しているのか」
天才と馬鹿は紙一重というが、毒薬づくりに関しては天才だったようで……しっかり解毒剤の精製方法が残されていた。
『・・・・・ふむ、嘘ではなさそうですし、シュミレーション上おそらくこれが正しい解毒剤となるでしょウ』
ワゼがその内容を確認し、きちんとした解毒剤になる事を確認する。
地下室から出て、ファイにもこの解毒方法を見せてお墨付きをもらい、その場で解毒剤精製をリューたちは開始した。
材料はあらかじめ持ってきていたものにあったし、まずはこの都市にいる大蛇たちを人に戻すのが先決だからである。
とはいえ‥‥‥
「精製に1日、熟成して3日掛かるってどれだけ手間がかかるんだよ・・・・・」
【天才的な内容だけど、この状況を創り出したことを考えると恐るべき馬鹿カナ】
精製方法はしっかりしていたとはいえ、ここまでの惨事を引き起こした馬鹿は本当に馬鹿である。
語彙がもっとあればもう少し罵倒できたのだろうかとリューたちは思うのであった…‥‥
・・・・・解毒剤が出来たとしても、投与するまでは効果はわからない。
果たして、無事にきちんとできるのだろうか。
しかし、馬鹿のしりぬぐいのような形だし不満はあるんだよなぁ‥‥‥
次回に続く!
・・・・・R18ノクターン行き魔物使いの話構想中。もうそろそろそれに移したいけど、まだまだこの話は続くカナ。




