閑話 とあるギルド受付嬢の語り
ネタに走りたくなった。
これは、リューたちが夢追い人になってからしばらく経った、ある都市でのの話である…‥‥
…‥本日もこのギルドは平和であると、私、ウサギ耳が特徴の獣人テッツェは思っていました。
ここは様々な国々の国境境に面する都市ハブリタイン。
この都市を訪れる方々は他国へ向かうための中継地点として利用し、そして宿泊したり、ここで何かと用を足してから国外へ向かうのです。
「あーーーーーーーーーーー!!貢いでいた夢追い人が去りやがってぇぇぇむ!!」
と、早朝、まだ開店前のギルド内にて何やら叫び声が。
見てみれば、同僚のギルドの受付嬢の先輩であるガッデェイムさんがあれています。
‥‥‥私たち受付嬢はギルドの花形ともされており、運が良ければ高収入の高ランク冒険者と寿退職にて結ばれることがあるのです。
よりい男で、高収入の方と巡り合える可能性が高い職場だけに求められる能力はかなり高めにされているのですが、これでも私は何とか入社できたのです。
で、あのガッデェイムさんは夢追い人のアフターケアなどをしてくれて、たいそう人気があり、一応そこそこの容姿をしているのですが‥‥‥どういうわけか、男運がなさすぎるのです。
気に入った夢追い人を見つけてもすぐに他国へ移ってしまったり、貢ぐだけ貢いで、結局去られたり、たまに死んでしまいあえなくなってしまうなど、このハブリタインギルドでの悲劇と喜劇の受付嬢として密かに噂されているのです。
聞いている分には面白いのですが、そんなガッデェイムさんもそろそろ適齢期を過ぎます。
その後は結婚の可能性が狭まってしまうために何としてもいい夢追い人を捕まえたいのでしょうが…‥‥今回も、失敗したようですね。
「ガッデェイム先輩、またですか?」
「そうなのよテッツェちゃ~~~んむ!!また逃げられたし、しかもその人は別の受付嬢と国外へいっちゃったのよぉぉぉぉぉぉむ!!」
話しかけると、物凄い号泣しながらそう話してくれました。
なんでも、ガッデェイム先輩と同期の受付嬢に、その件の夢追い人が惚れちゃったようで、良い金づるにしか見られていなかったようです。
うん、相手の方は屑ですね。まぁ、その方はランクがBだったようですが…‥‥大方、天狗鼻となって調子をこいている野郎だったのでしょう。
そんな方は、おそらくそろそろ確実に絶望に遭います。
何しろ夢追い人というのは、油断すれば死と巡り合わせになってしまうのは少なくありません。
調子に乗らず、きちんと身を引き締めればAランクへ行けるのでしょうけど‥‥‥おそらく、そう遠くない未来にその方は壮絶な死にざまを遂げるでしょう。
受付嬢としてやってきて、そのぐらいは理解できていますからね。
「でもガッデェイム先輩、もうそろそろギルドの営業が始まりますし、落ち着いて仕事をしましょうよ。先輩は綺麗ですし(絶壁で悲しいけど)、またいい人に会えます!」
「‥‥‥テッツェちゃん、いまさりげなくひどいことを思わなかった?」
「いいえ、なにも?」
ええ、口が裂けてもその事は言いませんとも。
このガッデェイム先輩、受付嬢なのか怪しいぐらい怪力でもあって、前に夢追い人の方でその身体的特徴を馬鹿にした人が、そりゃもうお見せできないぐらい徹底的になぶられましたからね。
裏では先輩の事を「鬼殺しのガッデェイム」と呼ばれているようですし、M気質の方々には人気があるようです。
ちなみに、私はそんな先輩を更にいじりたくなるようなS気質です。サイズはDですしね!
ギルドが営業を始め、大勢の夢追い人達が、まずは今日の依頼を探しに、依頼がある掲示板へ群がります。
その様子はさながらエサに群がるコイのようですが…‥‥言わないでおきましょう。
そんなこんなで、今日も相変わらず普通のギルドの営業が行えると思っていたその時でした。
ピクピクッツ!
「…‥?」
ふと、何というのでしょうか‥‥‥耳が勝手に動いたというか、獣人的勘で何かが近づいているのが分かりました。
ギィッツ‥‥‥
ギルドの扉が開き、そこからここ最近では見たことが無い人たちが入ってきました。
男女の二人組‥‥‥いいえ、その背後には従魔と思われるモンスターを引き連れておりましたので、どちらかが、もしくは両方が魔物使いの夢追い人でしょうか?
ですが、明らかに普通の夢追い人とは様子が違いました。
まず、女性の方は良いのですが、その男性の方が‥‥‥黒目黒髪であり、黒い衣を羽織っているようですが‥‥‥ここで受付嬢をして多くの夢追い人たちを見てきた私には分かります。
あれは、とんでもない実力者であり、迂闊に手出しをしてはいけない存在だと。
そして、その一緒にいる従魔たちもとんでもなかったのです。
私だって、先輩に比べればそれなりに容姿には自信がありました。
ですが、あの従魔たち…‥‥どれもが圧倒的な美女ばかりです。
特に、あの白色に見えるアラクネ‥‥‥完全に女として負けたような気がします。
と、ここでふと私はその者たちが何者か理解しました。
先日、各ギルドに配られて職員たち向けに知らされたある報告。
黒色の衣をまとい、大勢の決闘者を圧倒し、その上グレイモ王国の第2王女を婚約者にして連れている…‥‥魔王が現れたという事を。
「『黒曜魔王』…‥‥」
その魔王の衣と呼ばれるものはありとあらゆる攻撃から身を守り、また、その周囲を従魔たちが固め、まさに鉄壁難攻不落の魔王。
また、その攻撃力も圧倒的であり、あらゆる者たちをひれ伏させるほどの圧力をかけることが出来る強大な力魔法の持ち主でもある魔王。
ゆえに、硬さと攻撃力、そしてさらにはその黒色の美しさから黒曜石と呼ばれる鉱物から名称を取り、「黒曜魔王」と呼ばれるのだとか。
その黒曜魔王はギルド内のざわめきを気にせずに、掲示板へ向かう。
そして、その魔王はEXランク保持者でもあると職員たちはその場で思い出し、何事も無いように心から平穏を願った。
なぜなら、夢追い人のEXランクは本当にシャレにならない力の持ち主であるという事を示し、災害が過ぎ去るのを待つように、機嫌を損ねないように注意しなければいけない対象でもあるのだから…‥‥
だがしかし、ここで実力の差もわからない馬鹿が出るのはもはや定番なのだろうか。
かの魔王が引き連れている者たちは、かなりの美女が多い。
それ故に、狙ってくる馬鹿が出るのは当たり前だったはずである。
…‥けれども、その馬鹿たちは出なかった。
いや、出ることが出来なかったといった方が正しいのであろう。
そろそろギルドカードを剥奪かとされるような奴らとか、素行がここ最近思わしくなかった奴らが全員、なぜか急にその場から消えたのである。
正しくは、地面に速攻でめり込んだのだ!!
どうやらあの黒曜魔王、そういうよからぬ輩の気配を察知したようで、目にもとまらぬ速さでその場に潰したようである。
ギルドの床の修理費がかかるのだが‥‥‥それはまぁ、あの潰された輩たちに払わせればいいだろう。
それなりに迷惑というか、魔王に対してやらかそうとしたのは確定なので、その責任を取ってもらうのが妥当である。
と、そうテッツェが考えていると、どうやら掲示板から良い依頼を見つけたようで、魔王たちがその依頼を持ってやってくるのが見えた。
‥‥‥どうやら、彼女が受付を担当しなければいけないようだ。
それも、シャレにならない相手…‥‥助けを求めて同僚を見たが、皆目をそらした。
「ど、どうぞこちらへ」
出来るだけ慌てず、訂正にテッツェは受付をこなす。
周囲で見守る同僚たちに、後で仕返しをしようと企みつつも、なんとか依頼の受注手続きを始めた。
今回、黒曜魔王たちが受注した依頼は‥‥‥
―――――――――――――
『鉄橋の怪物』
この都市の外の方にある川に架けられた鋼鉄製の橋。
強度を高め、さび付きにくいように改造されており、この橋が特定年月の間耐久できれば他の皮でも同様の工事を行う予定であった。
だがしかし、ここ最近何かが住み着いたようであり、夜な夜な人々を襲っては、その手持ちの武器を奪い取ってしまう。
実力はおそらくA~Sランク夢追い人相当のようだが、襲われた人々はなぜかその相手の姿を覚えておらず、皆血の気が引いたような真っ白さになって戻ってくるか遺棄事件である。
――――――――――――――
…‥その事件の解決をお願いした依頼だったのだが、どうやらこの黒曜魔王たちが引き受けるようである。
手続きを終え、魔王たちがギルドを去った後、明らかにほっと皆が息を吐いた。
「はぁぁぁぁ…‥いやぁ、生きた心地がしなかったわぁむ」
「本当ですよ…‥というか皆さん!!なぜ私を助けなかったのですか!!」
テッツェの叫びに対して、同僚たちは目をそらした。
「いやだってさ…‥悪い人ではなさそうだけど、実力が違い過ぎて」
「威圧感というか、楽しげな雰囲気なのになんだろうかあの圧力は‥‥」
それぞれ理由を述べたが、テッツェはこめかみに青筋を浮かべた。
「‥‥‥ふぅ、ならばちょっとお話しましょう?」
「「「「ひっつ!?」」」」
テッツェのその言葉に、全員悪寒がした。
…‥‥テッツェ、このギルドの受付嬢だが、その実力はランクA以上であった。
なぜ彼女が受付嬢なのか尋ねれば、「戦うよりも受付の方が平和」と答える。
そんな彼女を怒らせてしまったのだと皆は気が付き、この日、ギルドの地下の方に作られていた夢追い人用の修練場で、大勢の悲鳴が上がったのだという…‥‥
「あははははあ!!さぁもっともっと楽しませてぇぇぇ!!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「やめてぇぇぇ!!いっそ楽にさせてくれぇぇぇぇ!!」
「何で彼女が受付嬢をやっているんだよぉぉぉぉ!!」
「だからついたあだ名が『鮮血のウサギ』なって呼ばれぐぼぁぁぁぁぁぁ!!」
さてと、次回はきちんと主人公視点でこの依頼に入ります。
にしても、何でこんなのが受付嬢をしているんだろうか‥‥‥いや本当に。
次回に続く!!
「鮮血のウサギ」
テッツェについている異名でもあり、恐れられる象徴。
きっかけはギルド内での喧嘩を止める際に彼女が出て、その時に喧嘩していた一人が勢いで彼女の胸を揉んで怒らせたことから始まった。
当時の事をここのギルドマスターが語るには、「あのせいでたまにその時の悪夢を見るようになって、不毛地帯になってしまった」だそうな。




