面倒ごとはやってくる
主人公って、何かしらに巻き込まれやすいけどどうしてなのだろうか。
と考えるときがある。のんびりでもいいじゃない。
SIDEハクロ
(今日は綺麗な晴天ですね)
日光が降り注ぐ中、木陰に入って座りながらハクロはそう思った。
その蜘蛛の部分の背中には、ちょうど昼寝中の自身の愛しい主であるリューが寝ており、先ほど糸で作ったシーツをかけたばかりである。
今日はリューの発案により、外で適当な散歩をしようという事で一緒に屋敷から出て領内を歩き回っていたのだが、ぽかぽかしている陽気から眠気を感じたようで、こうして背中に乗って昼寝しちゃったのである。
魔法でとんでもないものを使用したり、剣術でも上の兄を模擬戦とはいえ勝利したりと、その能力の高さに目を見張るものがあっても、まだまだリューは幼い子供であることには間違いないように、ハクロは思えた。
強かろうと、愛しい主であることには変わりはない。
あの日、助けてくれたその時から仕えようかと思った相手であることには間違いないのだから。
【‥‥‥ん?】
微笑みながら、リューの寝顔を見ようかと体をひねった時、ハクロはふとある気配を感じた。
「おおお!!なんて美しいぃ美女がいるんだぁ!!」
【‥‥‥誰でしょうか?】
物凄いキラキラした目で見てきて、叫ぶ男性の姿をハクロは見た。
後方の方で、着ている物は普段編み物をして居たり服を作ったりすることがあるハクロから見ても分かるほど、上質な素材で作られた衣服を着ているようであり、年齢的には40代半ばのまだまだ現役と言ったところであろうか。
髪の色は青く、目は右が青色、左が赤色とオッドアイで、渋いおじさんと言った顔立ちである。
警戒しつつ、寝ているリューを起こさないようにそっと体の向きを変えて後方の方にリューを置きつつ、いつでも逃げられるようにハクロは構えた。
「あー、あー‥‥‥アナタ、何者、ナノデショウカ?」
一応まだ発音は不十分とはいえ、話せるようになて来た人語でハクロはその男性に話しかけた。
「おっと失礼、美しき貴女を見てつい興奮してしまったのでね」
こほんと襟を正し、その男性が近づいてきた。
「我が名はアレン・フォン・ザウターである!!このザウター王国の国王なのだぁぁぁぁぁ!!」
【リュー様がうるさがって起きてしまいますから静かにお願いします!!】
ぱしぃぃぃぃん!!
っと、ハクロはつい糸でハリセンのような物を作り上げて、大声で堂々と自己紹介した国王と名乗る人物にツッコミを入れるのであった。
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SIDEリュー
「‥‥‥で、おっさん‥、じゃなくて国王陛下が何でここにいるんですか?」
「今本音が漏れていたよね!?」
何やらうるさい声が聞こえたので起きてみれば、ハクロがいつの間にか持っていたハリセンのようなものでたたきつけられたのか、地面に頭からめり込んでいたおっさんを掘り起こし、事情を俺はハクロから聞いた。
どうやらこの国の国王らしいのだが、ついついツッコミを入れたくなったらしい。
おっさん、じゃなくてアレン国王は笑って許してくれたけど、これって公の場だったら問題になっていた可能性があるんだよね。
あ、本物なのは着ている物で判断しました。上質すぎる服なので、一般向けではなく王族向けな可能性が高いとハクロが言ったからです。
「まぁそれはそうと、今日我がここに来た目的は!!」
「目的は?」
「サボ、げふんげふん、臣下もの者達の様子をこの目で見るためにきたのだぁぁぁぁ!!」
「【今サボりって言おうとしましたよね!?】」
思わず俺とハクロはそこにツッコミを入れてしまった。
こんな国王で、この国大丈夫か?
【あれ?でも確か‥‥‥】
「どうしたハクロ?」
ふと、ハクロが何かに気が付いたかのように首を傾げたので、尋ねてみた。
【地理的な関係上、国王が住まう首都から、この辺境の方にあるオーラ地方魔では結構時間がかかるはずですよね?計算上、馬車で1週間はかかる道のりなのですが‥‥‥】
この世界には馬車があれども、自動車はない。
スプリングやゴムタイヤってものはできているらしいけどさ、まだまだ自動化はできていないようで、未だに移動手段で馬車が主流なのである。
それだけかかる距離なのに、国王が不在の主都って良いのだろうか?
「大丈夫大丈夫!!我が王家には代々受け継がれている長距離移動用の魔道具があるし、政務なら宰相のカクスケだけがいればいいだろうしね!」
ぐっと指を立て、きらりと白い歯を見せて笑うアレン国王。
なんとなく俺は、その宰相になぜか物凄く同情したくなった。絶対苦労していそうだなぁ‥‥‥
とりあえず、国王をこんなところに置いておくのも何なので、ここは立場上対応可能な‥‥‥
「これはこれは国王陛下、お久し振りでございます」
「おお、硬くならなくてもいいぞディビット辺境伯。今日の我はお忍びのようなものでもあり、うかつに歓迎されてはあの口うるさいジジイコホン、宰相に見つかるからな」
対応可能な我が家である辺境伯爵家に国王を連れてきました。ここはお父さんに丸投げである。
しかし良いのか宰相の扱いがそんなんで。
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SIDEディビット・フォン・オーラ辺境伯爵
「しかし‥‥‥まさか適当に歩いて、我が息子に会うとは思いませんでした」
「あっはっはっは!!来訪は手紙で知らせていたと思うがな」
手紙で知らされても、来訪場所や時間まで正確に書いていなかっただろうが。
そう叫びたかったが、ディビットはこらえた。
目の前にいる相手は、この国の国王でもあるアレンである。
騎士だった時の癖もあり、逆らいにくいのだが、ツッコミを入れたくなるような相手でもあった。
そして、ついでに今頃必死に国王を連れ戻そうかと画策しているであろう宰相のカクスケの事を思うと、物凄い同情したのであった。
「にしても、今回はただのサボりではありませんよね?」
「ああ、その嘘は見抜いたか」
ふとディビットが尋ねてみると、案外あっさりとこの国王は答えた。
「なぁに、オーラ辺境伯爵のところに珍しいモンスターが住み着いたという話を聞いてな、わざわざ見に来たんだ!!」
胸を張り、堂々と答えるアレン国王。
間違いなく、そのモンスターと言うのはリューの従魔となったハクロの事であろう。
「幻獣種のホーリアラクネ‥‥‥どうやらディビット辺境伯、貴方の息子の従魔になっているようだな」
きらりと目を光らせるアレン国王を見て、なんとなくディビットは身構える。
この国王、破天荒な事は破天荒なのだが、一応有能でもあり、とんでもないことをしでかす人でもあるのだ。
そんな人物に、どうやら目を付けられたようだし‥‥‥
「身のこなしや動き方だけで、相当な実力を持つ従魔なのはわかるし、それを従えているというのもすごいことだ。それに、その息子自身、実は相当な実力を持っているだろう?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、鋭く言い当ててくるアレン国王に、ディビットは冷や汗を流す。
「そ、そうかもしれませんが、まだまだ成長途中ですしね」
動揺を隠すように、出来るだけ平静にディビットは答えた。
「だが、将来的に大きな力になることは間違いないだろう。とすれば、出来るだけこの国の残ってほしいと考えられるからなぁ‥‥‥うむ、我が娘と婚約させても面白いかもしれんぞ!!」
「‥‥‥はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
その国王の発言に、ディビットは今後何回も叫ぶかもしれないような驚愕の声を発したのであった‥‥‥
‥‥‥この国王、有能だけどやることが滅茶苦茶な事でも有名である。
ふざけて言っているのかもしれないし、本気で言っているかもしれない。
つかみようの無いいい意味での腹黒さを兼ね備えているんですよ。