卒業試験
新章かな?
SIDEリュー
‥‥‥開戦し、かなりあっさりと崩壊した神聖国跡地を各国が分け合ってから1年。
リューは16歳となり、いよいよ夢追い人育成学園の卒業式が間近に迫っていた。
ただ、この卒業式を迎えるためには「卒業試験」というものを受けなければいけないそうだ。
その内容は年ごとによって毎回変えられ、その内容をこなすことによって本当に夢追い人としてふさわしいのかを見定めるための試験なのだ。
一応、この卒業試験は皆がきちんと卒業できるようにするために、ある程度楽なものに設定されるそうである。
弱めのモンスター討伐や、鉱石などの素材採取、授業で習った簡易的な回復薬作製などとあるそうなので、その程度ならいいだろう。
‥‥‥だがしかし、現実は非常である。
確かに、全員が無事に卒業するために、卒業試験が皆きちんとできるようなものになればいいだろう。
けれどもやはり、個人によっては差が明らかにあるので、追加の形で出される場合があるようだ。
そしてその追加の形というのが、かなり難しい物になることもあったようだ。
リューたちに宛てられた、学園から出される卒業試験内容。
皆はその内容を見て、こなすために動き出すのだが…‥‥リューはその内容を見て固まった。
「‥‥‥ド、『ドラゴンからとれる素材1種類(種族としては何でもあり)の採取』ってなんだよこれ!?」
【なんでこんなのが来るんですか!?】
【なんでもって、鱗とか血とか爪とかかなピキッツ】
【いやはや、よりによって何でこんなものが来るのだろうカナ】
【うわぁ…‥‥めんどくさいのが来たのだよ】
『まぁ、このメンバーを考えますと適当なものではいかないと考えられたんでしょうかネ』
…‥‥まさかのとんでもない卒業試験内容であった。
しかも、店などで買うのは禁止で、きちんと生きたやつから自力で取って来いという内容である。
他の同級生たちの方では、適当な薬草採取などに対して、こちらは圧倒的にやばい奴からの採取である。
何をどうしてそう考えたんだ、この試験を作った人は。
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『ドラゴン』
「火炎龍」や「水龍」など「龍」というタイプや、「海竜」などという体が蛇みたいに長細い「竜」といったタイプなど、かなり細かく分類されることがあるモンスター。
総じてどれもかなり強大な力を持ち、国をたった1頭で滅ぼしたとされるものまでいる。
彼らからとれる素材は、並のモンスターなんぞ比較にならないほどの価値があり、超・高値で取引される。
だがしかし、彼らは人前に姿を現すことが滅多になく、素材を採取するのは非常に困難を極める。
また、知性が高い者も多く、中には人の姿になる物もいる。
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改めてワゼのデータからその情報を得たが…‥‥本当に卒業させる気があるのかこの試験内容を考えた人は!?
「まぁ、リューたちの場合、他者から見たらとんでもない実力者が多いからなのではないでしょうか?」
ヴィクトリアがリューに課せられた試験内容に頬を引きつらせつつ、そう予測を述べた。
考えてみれば、膨大な魔力や力魔法を操るリューに、癒しの力を持ちつつ強靭な糸を操るハクロ、巷では「爆炎スライム」の異名を持ち始めたというピポ、進化して精霊のような力も操りよりパワーアップしたファイ、敵を問答無用で眠りにいざなったり電撃で攻撃できるラン、そして極めつけは機械魔王の作品でもあるワゼと、考えてみたらとんでもない面子である。
でも、そんな面子だからドラゴンぐらい楽勝とか思われても困るんですが。
割と切実な問題というべきか、実力はあれども相手が悪すぎることが多いんだよ。
ちなみに、卒業後はヴィクトリアも一緒に組む予定なのだが、あくまでこれは生徒たちに課せられる試験なせいか、彼女はまだ加わっていないという事で別の卒業試験内容のようである。
つまり今回は、ヴィクトリア抜きのメンバーでの、ドラゴン素材採取という事になるのであった。
「期限は3ヶ月以内、でどの部位の採取でもいいし、店とかで買うような手段をやらなければ、相手の生死は問わないということか…‥‥」
【それ以前の問題に、私たちの生死が心配されていないような気がするんですが。ドラゴンって明らかに相手にしたら分が悪すぎますよ!】
【水上や水中であれば、私が全力を出して互角にできそうだけど…‥‥‥そもそもそんな都合よく相手もしてくれなさそうカナ】
前途多難というべきか、とんでもない内容にリューたちは頭を抱えた。
『滅多に人前に姿を現すこともないですからね…‥‥情報を収集しても、そううまい事で会えませんカネ』
この超人メイドが言うのであれば、かなり難しい試験であるのは間違いない。
ちなみに、採取した後の素材は自分たちで好きにできるようだけど、まずはその素材を持つドラゴンを見つけなければ話にならないのである。
「とりあえずワゼ、情報収集を頼む。めったに出ないとはいえ、ドラゴンだってモンスターで生き物だ。どこかで食糧確保のために動いていたりして、目撃情報ぐらいはあるだろうからな」
『了解。ですが、なかなか難しいですし‥‥‥‥少なくとも三ヶ月の期間のうち、1ヶ月はほぼ情報収集になると思われマス』
ワゼの情報収集能力をもってしても、なかなか目撃情報がないって・・・・本当に何でこんな卒業試験が下されたのやら。
とにもかくにも、なんとか試験をクリアするために、リューたちは情報収集を始めるのであった。
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SIDEワゼ
深夜、誰もが寝静まるころ、ワゼは王国内のとある一軒家にいた。
一見ただの民家に見えるが、実は地下の方に広い地下室が作られており、そこに降りると大勢の者たちがいた。
『‥‥‥では、これよりご主人様のために、あなたたちの訓練の成果を確かめましょウ』
ワゼがそう告げるとともに、皆に素早く書類が渡されていき、その内容を読み終えた者たちは一人、また一人と音もなくその場を去った。
…‥‥彼らは様々な組織や国についていた、間者とかいわゆるスパイとも言われていた者たちである。
実は密かにワゼは己の情報収集能力の限界も悟り、こうしてたまにどこからスカウトしてきて、己の配下にしていたのだ。
いくらミニワゼと言う物があっても、その情報収集能力には限度がある。
ならば配下を増やし、その分他のところの依頼などを受け持ってもらい、隠密行動などで自力で稼がせつつ、能力向上を目指せばいいのではないかという結論にいたり、アレン国王の方にも許可をもらって、秘密裏に私兵ともいえる者たちを育てたのであった。
徹底的に皆を訓練し、己の手足として情報を収集させたり、各地でのミニワゼではやりにくいようなハニートラップをかけさせたり、もしくはどこかの機関に潜り込ませたりして、徐々にその情報網を拡大していたのである。
ちなみに、最近つぶれた神聖国からの間者たちの中でも使える者たちを惹き抜き、利用していることからその手腕は優れていた。
なお、まだリューたちには秘密にしている。
なぜなら、これはワゼの独断で行っている行為であり、このことに関してリューの心の負担とかにならないようにと思ったからである。
それでも、いつかは話そうかとも考えているのであった。
…‥徐々に勢力を伸ばしていく己の育て上げた者を見つつ、ワゼはドラゴンの情報を己なりに集めていく。
メイドの領域を超えているような気もするが、これもご主人様のためだと彼女は思うのであった。
ワゼの秘密裏に進めた情報収集により、ドラゴンについての情報が集まってく。
卒業試験の期間は残り3ヶ月。
果たして、その期間の間にリューたちはドラゴンの素材を手に入れることが出来るだろうか?
次回に続く!
…‥‥というか、明らかにメイド以上の働きをワゼはしているよね?彼女は何を目指しているのだと、いいたくなった。
ちなみに、平時にワゼの配下たちは各所で普通に生活しているそうです。命令が下った時にだけ集まり、任務を遂行するのだ。