帰還と報告
‥‥‥奴はどこからでもやってくる。
コメントで、奴は北海道では出没数が余り無いというけど、それはつまりそれ以外ではどこでも見かけるのだろうか。
くそぅ、本当にどの世界でも厄介な奴としか言いようがない‥‥
SIDEリュー
ザウター王国の王城にて、ようやく帰還したリューたちは今、アレン国王に謁見していた。
「で、そちらの方がその預言者殿か。ようこそ、このザウター王国へ。我が名はアレン・フォン・ザウターだ」
「こちらこそ、お邪魔するのじゃアレン国王殿。妾の名はアルべリア・ウィンなのじゃ」
アレン国王とアルべリアが互いに改めて名乗り合う。
その後、リューたちは神聖国での報告と、魔封印石で出てきたモンスターたちをファイの魔法で吹雪の中に氷漬けでおいてきたことに関しての事後処理の方法を尋ねた。
「ふむ‥‥‥災害危険指定種クラスを、それも6体を同時にやってしまうとはな‥‥‥だから、彼女がそんな姿になったのか?」
「多分、そうだと思います」
アレン国王の目線の先には、ファイの姿があった。
以前見たときの、国王の印象として簡単に言うとすれば、サファイヤのような、青いスキュラだった。
けれども今の姿は、その姿とは各所が異なっていた。
まず、特徴的な下半身の方にあった青いタコ足だが、より一層スマートな形となり、より細かい動きが出来るように変化していた。
また、手も少々細長くなっており、質量保存の法則故かその脂肪がどこがとは言わないが、そちらに寄港したようである。
そして、両目とも緑色だった目は、右目は緑のままだが、左目がサファイヤのように青色へと変化し、オッドアイとなっていた。
長かった翡翠色の髪は、どこか水のような青色の透明感を持ち、そして極めつけは全身がどこか、以前よりも洗練されたような気を感じさせることであろう。
「…‥‥『スピリット・スキュラ』からさらに進化したのか?」
「そのようですが‥‥‥ワゼ、何になったのか分かるか?」
『‥‥‥データ該当無し。接触記録不明。スキュラ系統の最終進化系とも言える「クイーンスキュラ」ともまた違っており、どちらかと言えば全体的に、より水の力を高めた精霊のような反応を示していマス』
スピリット・スキュラは元々精霊に近いとされるモンスター。
どうやら今回の一件で進化したファイは、よりその精霊に近い存在へと進化してしまったようなのだ。
『名付けるならば…‥‥水の精霊と考えて「ウンディーネ・スキュラ」ですかネ』
風も操れていたのだが、その能力はそのままで、より水に関しての力を高めたモンスターのようである。
ワゼのデータにもないことから、おそらく新発見のモンスターでもあり、その名前がしっくりくるような気がした。
【まぁ、せいぜい以前の3倍程度強くなったカナ】
「いや3倍でも大きいし、というかそれ以上だろ」
ファイがそう自己申告してきたが、どう考えてもそれ以上の能力になっているような気がする。
というか、3倍になるんだったら角生やして赤くなって欲しいかも。いや、ソレジャぁ別の何かになりそうだが。
あとハクロにピポ、お前らもちょっとうらやましそうな目で見てこないで。
…‥‥原因として考えられるのは、おそらくランの時同様、リューの魔力を受け取ったことであろう。
わずかな量ではなく、かなり莫大な量の魔力を受け取ったがゆえに、進化を促されたのではないだろうかというのが、ワゼの仮定であった。
だがしかし、もちろんそれだけで進化するとは限らない。
もともと積み重ねていた経験などもおそらく必要であり、魔力譲渡はきっかけに過ぎないかもしれないのだ。
つまり、ただ魔力を渡されたとしても、それだけで進化するとが一概に言えないのである。
【でも、進化してみたいですよね‥‥‥なんというか、本能的に上を目指してみたいんですよ】
【ピキッツ、ピポはまだまだ進化してみたーい!!】
【‥‥‥いや、止めておいたほうが良いカナ?あの感覚は…‥‥少々きついカナ】
【わずかづつならまだしも、一気に来られると多分ぐふっと来ると思うのだよ。うちやファイは‥‥‥まぁ、そのあたりの知識もあったというか、純粋なハクロたちだと昇天すると思うのだよ】
ハクロとピポの言葉に対して、ファイとランはそっとやめておくように促す。
『今はまだその時ではないでしょウ。それに、膨大な魔力を一気に受けるということはそれだけ体に負担がかかるのであり、当分動けなくなってしまう可能性も考えるのであれば、もう少し鍛錬をしたほうが良いと思われマス。…‥‥私も少々気になりますケド』
ワゼがそう言って、二人を諫めたが‥‥‥‥やはり諦めきれないような感じなのであろう。
というか、最後らへん少し願望が漏れていなかった?ワゼって進化するのだろうか。
したらしたらで、今以上の超人メイドになってしまうのだろうか。ちょっと怖い。
とにもかくにも、報告をし終え、神聖国はこれで完全に手詰まりになったことを改めて認識した。
預言者がいなくなったから、その預言を利用することができない。
魔封印石がないから、万が一の時の切り札が無くなった。
上層部無能、国民たちも希望も夢もないやる気なし状態。
汚職、賄賂、色欲なんでもござれのその上層部たちに戦争の指揮とかが取れるわけもない。
さらに、未だに猛吹雪によって閉ざされた地もあるため、国の領地は減少しているも同然。
ついでにミニワゼたちもなにかしらの細工をしたらしく、有能な人材とかが流失しているのだとか。
「…‥‥まぁ、何と言いますかやり過ぎましたかね?」
「楽が出来ればいいのだが、ある意味神聖国が哀れになるな」
リューの言葉に、アレン国王は同意を示した。
これから戦争が始まるのに既にぼろぼろの神聖国。
戦争を開始する前に、すでに敗北の道へ突き進んでいないかと、その場にいた全員はそう思ったのであった。
「なんにせよ、よく働いてくれた。我が王命を見事に果たしてくれたことには非常に嬉しいぞ。…‥‥本当は自分が前に出て、あのバカ国をフルボッコにしたかったがな」
「いやそれでしたら本当に自分で出ればよかったでしょうに」
国王の本音に対して、リューはツッコミを入れた。
「王という者は、何かしらの面倒事もあり、そう動けないこともあるのだ。まことに残念な事だがな‥‥‥」
アレン国王は、本当に残念そうな顔でそうつぶやく。
だがしかし、リューたちは見逃さなかった。
アレン国王の隣にいる、新たな宰相というマルノスケ。
「しょっちゅうあなた動いていますよね!?」と、いう文句が顔にでかでかと書かれていたことを。
…‥‥すでにだいぶ疲れているようで、数年もすれば前宰相と同じような感じになるに違いない。
心の中で、マルノスケの苦労に対して、皆は合掌をしたのであった。
報告も終えたが、ここで一つあることをはっきりさせないといけなかった。
「そういえば預言者殿、あなたはこの先どうするつもりですか」
アレン国王は、そうはっきりと預言者アルべリアに対して、尋ねた。
神聖国から抜け出してきたのはいい。
だがしかし、彼女はこの先どうするべきなのかははっきりしていないのである。
亡命という形だが、預言者というのはこのザウター王国では別に必要としていない。
神聖国は、その預言を利用して自らの私腹を肥やしていたのであり、預言者の価値はその国にしかないのである。
いや、神からの預言という事で、価値がある処はあるんだろうけど…‥‥アルべリアは、その事から解放されたいようであった。
「妾はもはや神聖国の者ではない。そもそも、かの国に滅ぼされたエルフの一族の一つの者であり、もとから民ですらないのじゃ。かつておった一族の者たちは今はどこにおるのかもわからぬし、今はただ、どうすればいいのか決まっておらぬのじゃよ」
どことなく悲しそうな表情で、そう言ったアルべリア。
神聖国から抜け出すという目的は達成出来た物の、彼女の行く先はわからない。
いまだに宛もないので、国に入った後は適当な職に手を付ける気だったようである。
ちなみに、手足にあった効力を失った隷属の腕輪などは既に解錠済み。
宣戦布告時の証拠見せつけとして利用するつもりのようである。
「そうか‥‥‥ならば、いっその事別のエルフの一族の者へゆかぬか?」
考えたアレン国王は、そう言葉を放った。
「え?」
「なに、預言者殿の一族以外にもエルフの者たちが暮らしておる場所もある。この国にも会ってな…‥‥そうだな、一番わかりやすい場所と言えば、クラウディア森林か」
「ああなるほど、そういえば聞いたことがありますね」
【懐かしい場所を久し振りに聞いたカナ】
アレン国王のその言葉に、リューとファイはつぶやいた。
昔、学園での合宿の際に、その地にてファイは従魔になった。
その森の奥にはエルフがいると言う話が聞いたが、確かにそこでならばアルべリアは暮らせるかもしれない。
「でも、確か閉鎖的だと聞いたことがあるような‥‥‥」
「その心配はいらん。あそこの族長とは、互いに色々と馬が合ってな、友人なのだ。友としての頼みであれば、快く預言者殿を受け入れてくれるであろう」
「え?いつの間にでしょうか?」
「なぁに、1週間ほど前にこっそり城から抜け出し、そこで偶然出会ったのだよ。どうやらあの族長殿もたまに抜け出して暴れまわるのが趣味だったようでな、すっかり意気投合して‥‥‥」
「あ、あ、あ、あの時森の方へ抜け出していたのですか陛下ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
アレン国王の見事な自白に対して、宰相が絶叫した。
…‥‥やはり相当な苦労を宰相はしていたようである。改めて合掌しよう。
とにもかくにも、アルべリアの受け入れ先は決まったようである。
「ま、手紙で書こうにも、あの族長は本人同席でないとだめだ。だがしかし、しばらくは政務に追われるから‥‥‥2ヶ月ほど、この城で預言者殿が滞在してくれないだろうか。神聖国がいくらズタボロとはいえ、預言者殿狙いの刺客を差し向けてくる可能性もあり得ない話でもないし、整い次第、我が王族に伝わる魔道具で送り届けよう」
「‥‥‥ふむ、お気遣い感謝するのじゃよアレン国王陛下殿。では、その言葉に甘えて、妾はここに滞在しようかのぅ」
アレン国王の提案に、アルべリアは受け入れた。
とはいえ、リューたちはまだ学生でもあるのでずっと城に滞在するわけでもなく、ここで言ったんお別れともなる。
謁見室から出た後、城門にて別れの挨拶をリューたちは交わすことにした。
「それじゃ、本当に色々とお世話になったのぅ皆の者。妾は森のその一族の下に暮らすことになりそうじゃが、機会があれば顔を見せてくれなのじゃ。300年ぐらいまでなら生きているからのぅ」
「エルフってそこまで長寿だっけ?」
「かなり長生きと言う話は聞きますわね」
【というか、気が長すぎですよ】
それからしばしの間、別れを惜しみつつも、リューたちは学園へ向けて帰還するのであった…‥‥
―――――――――
SIDEアレン国王
「‥‥‥さてと、預言者殿。貴女は一つ、隠していることがありませんか?」
改めて謁見室にもどり、今後の在住中の説明などをしているときに、アレン国王は預言者アルべリアに、ふとそう尋ねた。
「‥‥‥なるほど、仮にも一国の国王じゃし、妾が何か隠していることを見ぬいておったのか」
やれやれというそぶりで、アルべリアはそう答えた。
アレン国王はこのザウター王国の国王。
人を見る目もあり、そしてある程度の予測を付けることもできたのだ。
‥‥‥宰相が己の行動で胃を痛めることは自覚しているのだが、そう改善することができない悪癖でもある。
「その隠し事、おそらく彼らには言いづらい事でしょう。と言っても、別に不幸に陥れるようなものではなく、かといって厄介事としか言いようがないような‥‥‥」
「いや本当にどこまで見抜けておるのじゃ?ちょっと怖いのじゃ」
アレン国王のその言葉に、顔を引きつらせるアルべリア。
「ま、別に良いかのぅ。あの者たちがいなくなったし、この場で話しても問題はないじゃろう」
ふぅ、と息を吐き、アルべリアはアレン国王にその内容を語り始める。
「これは預言じゃ。ここに来るまでの道中、受けた者じゃがその内容が話しがたいというか、面倒事の類にしかならなかったのじゃよ。それに、その預言が来る時までまだ時間はあったしのぅ」
「というと、一体どのような預言なのだ?」
「それはな‥‥‥‥」
アレン国王に、アルべリアはその内容をすべて話した。
リューたちがこの場にいないからこそ話せることであり、またアレン国王がそう外部に漏らさない人物であろうことはなんとなく感じ取れたからだ。
そして、全てを話し終えたとき、アレン国王の表情は驚愕の色に染まっていた‥‥‥が、ある程度の予想はついていたので、そこまででもなかった。
「…‥‥なるほど、預言でほぼ確定したようなものだし、驚きはしたがそこまででもないな」
「案外、お主図太い性格じゃのぅ」
アレン国王の言葉に、呆れるアルべリア。
「とにもかくにも、その預言が当たる可能性は高いだろう。神聖国の奴らのようにうのみはしないが、注意したほうが良さそうだな」
「それが良いじゃろう。預言はしょせん預言。神からの言葉とは言え、全て正確というわけでもないのじゃ。しかし、用心するに越したことはないのぅ」
「となると、これからもできるだけ彼らと友好関係を築いていくのが正しいか…‥‥うん、娘を婚約者に据えてよかったと、今一番思えるな」
そうアレン国王はつぶやき、これからどうすべきか素早く構想し始める。
預言がすべて当たるとは思いたくもないが、万が一という事も考え、様々な対応策を次々と考え、そして実行するか否かの判断をしていくのだ。
…‥‥できれば、世の中がいい方向へ動くように、彼らは思うのであった。
「そういえば、森林のエルフ族の長ってどんな人じゃ?」
「ん?そうだな…‥‥しいて言うなれば、この私並に素晴らしい人物だ」
(‥‥‥なんじゃろう、一気に不安になったのじゃが)
アレン国王のその言葉に、アルべリアは少し判断を誤ったのかもしれないと思った。
初めてこの国王に会ったとはいえ、この短い間と道中のリューたちの話から、どのような人物なのか、正確に分かっていたからであった‥‥‥‥
さてと、次回からはちょっと日常戻るか、それとも展開を進めていくべきか。
森林の方のエルフも気になるけど、これはまた別のお話。
‥‥‥というか、リューたち学業の方大丈夫かな。王命とかそう言う物があったとはいえ、結構いないことが多いし、そのあたりで厄介になりそう。
次回に続く!!
「おまけ話(ほぼ会話文)」
【私も進化したいですよねぇ。今以上にリュー様の役に立てそうな、そんな進化をしたいんですよ】
【ピポも進化したいピキッツ!一度進化してこの姿だけど、まだまだ小さいし、大きくなりたいよー!】
【【というわけで、魔力を流してください(土下座)】】
「いや、あくまできっかけみたいだし、そう都合よくいかないよな?」
「というかハクロ、貴女それ土下座なのですの?」
『というかデータ不足ゆえにそうとも言い切れないし、そもそも膨大な魔力を流されると、その分負荷がかかって逆に進化できないかもしれませんヨ?』
【‥‥‥少なくともお主らは本当にやめたほうが良いカナ。あれは昇天すること間違い無しカナ】
【あと、うちらはまだその手の知識があったからいいけど…‥‥魔力の放出とか感覚は二人ともびみょうなところなのだよな?】
「そういえばファイは水や氷や風魔法で、ランは幻術などで魔力の感覚がはっきりとつかめているんだっけか。ハクロは糸でも魔力とはまた別ものだし、ピポは大雑把だしなぁ」
【そうそう、そういう部分でうちらとは感じ方が異なると思うのだよ。‥‥‥だからその感覚に疎い分、相当やばいことになると思うのだよ】
【というわけで主殿、当分魔力譲渡は私が大魔法を使う際の補助目的か、ランの方で必要な分を与える目的以外は禁じておくべきカナ。‥‥少なくとも精神的に未熟な二人だと危ないカナ】
【ピキッツ‥‥‥そうだよね、ピピはまだ子供。大人になるまで我慢するピキッツ!】
【いやいやいや!?私は十分大人ですよね!?何で子ども扱いされるんですか!?】
【‥‥‥だったらハクロ、今晩うちが望む夢を見せてあげるからその誘惑に堪え切れたら大人とみなすのだよ】
【いいでしょう!!受けて立ちますよ!!】
‥‥‥翌日、ハクロがランに土下座していたのは言うまでもない。
【負けましたけど、出来れば最後まで見せてほしかったです】
【さすがにうちも恥ずかしくなったからダメなのだよ。本番は、主様がもうちょっと成長した時に頼むのだよ】
【りゅ、リュー様がもう少し成長したらですか‥‥‥‥】
「ハクロの顔が真っ赤になっているじゃん!!何の夢にしていたんだよ!?」
【【それは秘密です(なのだよ)】】