遠距離が卑怯?差があり過ぎるからいいんだよ。
本日2話目!!
力技かな?
…‥‥ケルベロス、キマイラ、テュポーン、サイクロプス、クラーケン、グラーキたちの戦場からかなり離れてはいるが、その場所にリューたちは馬車を止めた。
本当は、もう少し限界まで接近してほぼ確実に仕留めたかったのだが、周囲の汚染がすさまじ過ぎたのである。
「うわ、かなり地面が毒々しいことになっているな‥‥‥」
ぼこっつ、ぼこっつとまるで溶岩のように気泡が上がっているが、その色は濃すぎる紫色に少々黒色が混じったかのような、毒々しいどころかまがまがしい状態へ変貌した大地。
その健全な部分とのギリギリのラインに、リューたちはその光景を目にした。
【全部でかいもの同士のせいか、距離があるけど見えますね…‥‥】
【あれ?クラーケンだけ見当たらないカナ?】
ふと、ファイの発したその言葉で目を凝らしてよく見てみれば、確かに巨大なイカのような外見というクラーケンだけが、その戦場にいない。
【早期離脱でもしたのかなのだよ?】
『そうではないようですネ。地面がズブズブの毒になったことをいいことに、その中に入って海の中のように暴れているようデス。ほら、触手が出てきたでしょウ?』
海の怪物クラーケン、この場では毒の怪物になったようである。
「ファイ、魔法でこの汚染地域ごとあいつらを凍らせることができないか?このままだと辺り一帯がどう考えてもまずいからな」
【見立てだと…‥‥うん、私の魔力量では無理カナ。主殿の魔力を分けてもらわねば、不可能カナ】
最適な魔法を考えつつ、ファイの出した結論はそうなった。
魔法発動の際に、一気に魔力が消費されるようなので、そこにランへの魔力の補給をするようにリューの魔力を一気に流し込めば、なんとかなるようでその準備に移る。
【ファイ、主様の魔力が一気に流し込まれるだろうけど、油断せずに体にしっかり力を入れるのだよ。少量であればまだいいけど、大量に来るとなれば‥‥‥】
【以前のランのように、私も気絶するのカナ?】
【‥‥‥あー、あのかい、コホン、感覚がおそらく一番危険だから、絶対に身構えておくのだよ】
何やら顔を赤くして言いなおし、釘を刺すラン。
何が言いたいのかはわかりにくいけど、それほど魔力が流されるのは衝撃的なのだろうか?
「準備はいいかファイ?」
【いつでも大丈夫カナ。広範囲にめがけて、地中の奥深くまで凍らせられる魔法は発動可能カナ!】
ぐっと指を立て、準備万端というファイ。
一応、万が一という事も無いように、完全に全力でやり切るようである。
念のために、彼女が最も力を出しやすいようにワゼが素早く木々を切り倒し、簡易的な巨大な風呂桶のようなものを作製して、その中に水を満たしてファイがその水面に立つ。
スピリット・スキュラなファイが全力を出せるのは、水面か水中。
出来るだけ最高の状態にして、やってもらうほうが良いのだ。
なお、リューは彼女の魔法で出来た氷の足場に乗って同じく水面に浮かぶ。
その背に手を当て、いつでも魔力を供給できるようにする。
「じゃ、魔法の発動と同時にこちらも魔力を流すよ!」
【了解!!それじゃ、景気よく‥‥‥‥】
しっかりと遠目で見ても分かるほど暴れているモンスターたちに狙いを定めるファイ。
全力を出すのか、徐々に体中に青白い光が集中し、スピリットの‥‥‥精霊に近い部分の片鱗も見せつける。
【下は岩盤、上は雲の高さまで、全てカチコチになるカナ!『絶対零度』!!】
単純明快な、それでいてその寒さを表現するような魔法をファイが唱える。
それと同時に体中の魔力が一気に消費されるので、それに負けないようにリューは己の魔力をファイに流す。
「『魔力譲渡』!!」
【っ!?】
流し込んだ瞬間、ファイがびくっと体を震わせた。
だがしかし、そこはあらかじめ身構えていたのですぐに気絶することなく、そのまま魔法が行使された。
…‥‥一気にファイの前方から氷結が始まる。
毒々しくなっていた大地が氷漬けとなり、徐々にその氷の範囲が広がっていく。
そして、遠くの方で争っていたモンスターたちもその事に気が付いたが、時すでに遅し。
一気に足元から凍り付いていき、空に浮いていたキマイラやテュポーンと思わしきモンスターまでもが空中で氷漬けとなり落下していく。
見る見る間に空気中の水分も凝固したようで、氷柱が幾重にも立ち上がり、大雪、大吹雪がその地に吹き荒れたのであった…‥
‥‥‥やり過ぎたレベルで。
加減というか、どうやったのかはいま一つわからないが、ファイの手前の方は大吹雪と化しているが、リューたちの居る位置にはまったく変化はない。
「‥‥‥うわっ!?ファイなんかすごい色々出ているんだけど!?」
だがしかし、魔法が終了し、魔力の供給を止めたところで、リューはファイの異変に気が付いた。
なんというか、全身が一気になにやらヌルヌルしたもので覆われ、そのまま彼女はぐったりとその場にぶっ倒れた。
【ふ、ふにゃぁぁぁぁ‥‥‥】
【あ、やっぱり耐え切れなかったのだよ】
なにやら腰が砕けたようで、ファイはそのままぴくぴくとした状態で動けなくなっていた。
「耐え切れなかったって…‥」
【根性で魔法はやり切ったけど、主様の魔力の供給の‥‥‥まぁ、以前のうちにやったのと同じ状態になったのだよ】
同じ経験を味わっているからか、ファイの状態を同情した目で見るラン。
とにもかくにも、先ほどまで毒々しかった地域は猛吹雪に見舞われ、立ち入ることができない状態と化していた。
【と、とりあえず、全部は凍らせきったし、吹雪もついでに出来て誰もうかつに立ち入れなくなったカナ‥‥‥おおぅ、こ、腰が砕けてというか、動けないカナ…‥‥】
立ち上がろうとしているが、力が抜けているのか全く起き上がれないファイ。
ヌルヌルの粘液まみれとなっており、つかもうにもつかめぬ状態である。
「なんでそこまで粘液まみれになっているんだよ‥‥‥」
『元々粘液で覆う事で、ある程度の乾燥から守っているのがスキュラデス。日常生活では不快感を与えないように魔法で自らを制御していたのでしょうけど、今の大規模かつ自分の限界量を超えるような魔法の行使によって、一時的にバランスが崩れ、制御できず駄々洩れになったのでしょウ。…‥‥それだけではないようですがネ』
とりあえず、このままの状態にしておくわけにもいかない。
「ハクロ、ファイを網に入れて運べるか?」
【できますけど、あのヌルヌルはちょっと‥‥‥隙間から抜け出されそうです】
網の隙間を極力迄小さくして、底引き網漁の要領でファイをその中に入れる。
【ふ、ふにゅ…‥体に力が入らないカナ】
ぴくぴくと、力なさげに動くファイ。
「魔力を与えたけど、相当な無理をさせたようでごめんな、ファイ」
【い、いや主殿は無いカナ…‥‥というか、あの感覚、ラン、お主も大変だったのカナ・・・・・・】
【分かってくれるのだよかファイ。流石にあれはキッツいのだよ…‥】
なにやらファイとランの友情が深まったようである。
というか本当に、魔力が流れて何を感じるのだろうか?
とにもかくにも、全てを氷漬けにすることで災害危険指定種クラスのモンスターの騒動は何とか収まったのかもしれない。
だがしかし、こうやって問題を先送りにしたのはいいが、この後どうすればいいのかはわからない。
とにもかくにも、報告するためにザウター王国へ、リューたちは進路を決めるのであった…‥‥
【あぅぅぅぅ…‥‥これってどれだけ体に余韻が残るのカナ?】
【少なくとも一晩は‥‥‥そのヌルヌルが網からものすごい出ているのだよ】
【まるで何かを網でこしているような気がしてくるのですが…‥‥】
【ヌルヌル―、投げつけて相手の足を滑らせられそうピキッツ!】
『天然の‥‥‥成分調査次第では、美肌効果があっても良さそうですけどネ』
「すごい量ですわね‥‥‥水分不足で干からびはしませんよね?」
「‥‥‥なんというか、ここまでの魔法を扱うそのモンスターがすごいのか、それともそれを可能にさせる魔力量を持つ者がすごいのか。とにもかくにも、切り札とでもいうべき魔封印石を失った神聖国は、これで何もできなくなったのも同然かな」
魔封印石に封じられていたモンスターたちを、吹雪と氷で封じ込めたリューたち。
当分はそれでなんとかなるとして、その後をどうすればいいのか事後処理に困る。
ついでに、ファイがだらだら流す粘液にも困ったものであった。
次回に続く!
‥‥‥というか、腰砕けってどれだけだろうか。
「魔力の譲渡で何でそんな状態になるんだよ?」
【…‥‥さすがに答えるのははばかられるカナ】
【主様は大人になったら分かるのだよ。いや、分かってもこれをやられるのは嫌なのだよ‥‥‥】
【いや、ラン、お主一応サキュバス。こういったことに関してはむしろ歓迎すべきことじゃないカナ?】
【私はその亜種で幻獣種だから根本的に少々違うのだよ!!色欲とかは割と薄い方なのだよ!!】
【でもその割には、必要最低限分だけをもらう際にちょっと頬を赤らめているのはなぜカナ?】
【ぐっ‥‥‥‥いやまぁ、そりゃ、その…‥‥ファイの方こそまたやってもらえたら嬉しいに決まっているカナ!!】
【なっ、なっ、なっ、そ、そんなわけは無いカナ!!今回のような大魔法を使う以外はできればお断りカナ!!‥‥‥そういうのは、もっと主殿が成長し、夜に相手でもしてくれれば…‥】
「何を話しているんだよお前ら…‥‥」
【【それは知らなくてもいいお話なのだよ(カナ)】】




