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これでよく成り立っているな‥‥‥

予想を裏切られたような気もしなくはない。

SIDEリュー


「…‥‥なんだろう、もうすでに重々しい雰囲気しかないな」

「ええ、活気がないというか、皆沈んでいますわね」


 翌朝、神聖国エルモディアにリューたちは変装して入国した。


 評判がものすごく悪い国ゆえに、どのぐらいなのかと思っていたのだが、この方向性は予想だにしなかった。


 道行く人たちの活気はなく、まるで死んだ魚のような光の無い目をしており、治安は別に悪くないようだが、むしろ犯罪を起こす活力自体が無いように思えたのである。


『‥‥‥先行していたミニワゼたちから、この国の状況を少し入手しましタ』

「わかっている範囲で話してくれ」


 ミニワゼたちを夜中のうちに、先に潜入させて事前調査を行ったのだが、どうやらこの国は既に滅亡に入り始めたようである。


 ここ数年のうちに税金が上がり、周辺諸国との貿易が滞って物価が高騰し、訴えようにもどこに訴えればいいのか誰もわからず、上層部の方では腐敗が深刻化していて、戦争の可能性を理解しているはずなのに、国の現状を全く見ていないのだとか。


 

 その為、国内では未来が明るいように思えず、希望も夢の無くなり、人々は活気を失っているのだとか。


『戦争が起きたときに、国民を総動員して戦う気のようですが、その肝心の国民全体の活気が失われていますネ。士気の低下もありますし、最近では夜逃げして他国へ向かう者たちも出ているそうデス』

「‥‥‥なぁ、ここってザウター王国や、他の国々が責めようとしているんだよね?もうこれ戦争前に既に末期状態になっていないか?」

「末期ですわね‥‥‥」


 ワゼの報告を聞き、皆の意見は一致した。


『この国、既に終わっていないか』と。




「なんだろう、戦争前に早くも勝負がつきそうだなぁ‥‥‥」

【‥‥‥サキュバス・ファントムゆえに、人々の願望とかを読めるけど、ここにいる人たち誰もどの願望がないのだよ。もう、希望も何もない悲しいことになっているのだよ…‥】


 ランのそのつぶやきは、哀れみを含んだものであった。



 例外はあるのだが、人というのは本来何かしらの願望を持っている。


 その願望を、サキュバス関連の種族は読み取ることが出来るそうだ。


 だがしかし、ランの目で見る限り、どうやらこの国の人達には願望がなく、既に衰退へと辿っているそうである。


…‥‥いや本当に、これってある意味悲惨すぎる。





 とりあえず、一旦話し合う場を作るためにリューたちは適当な宿屋をとった。


 大きめの宿屋で、馬車も中に収納できるところであり、貸し切りに近い状態にして、ハクロたちも部屋に交えて話し合うのだが…‥


「‥‥‥この国、本当にもう終わっていないか?」

「末端からダメになっていますし、その上層部がダメダメすぎるようですし‥‥」

【というか、これまでよく国として成り立っていましたね。そのことに驚愕しましたよ】

【元気のなさは、国の衰退になるっピキッツ】

【いや、もう完全なる末期カナ】

【あまりにも夢も希望もなさ過ぎて、不気味に感じたのだよ】


 それぞれの意見は、この国はもはや何もしなくとも滅びるだろうという事で一致していた。


 ザウター王国内で過ごしていたリューたちにとって、ここまで活気のなさすぎる国は驚愕に値するのである。


『一応、ミニワゼたちを分散させて調査させましたが‥‥‥見てくださいコレ』


 ワゼが懐から、ついさっき調査し終えたらしいミニワゼたちによる情報をまとめた報告書を取り出し、皆に見せた。


「活気のなさとは反対に、この国の腐敗している根源たちは甘い汁を吸うために躍起になっているのかよ」

「呆れるというか、現実を見ることが出来なさすぎですわね」

【重税を課して、逃亡する住民の数も相当出ているのですか‥‥‥中には、赤子を置いていくものまでありますよ】

【孤児院とかはまだまともに機能しているけど、もうそろそろ限度に近いピキッツ】

【腐敗しているものの中には、活気がないのをいいことに若い娘を夜な夜な攫っているようだし‥‥‥クズ過ぎるカナ。反抗されないからって、これは流石にひどいカナ】

【あ、娼館情報も‥‥‥って、これおかんが前に言っていた店の名前なのだよ!?】

「なにっつ!?」


 まさかのというか、予想はある程度付いていたのだが、どうやらランのお母さんが務めていたという召喚御情報までワゼは集めていたようであった。


『ちなみにですが、過去にさかのぼって調べてみたところ‥‥‥ラン、貴女の母がいた記録が確かにあり、その後に病死扱いで消された記録があるようデス』


 サキュバスを色々と踏みにじって捨てたことは体面が悪いようで、隠ぺいしていたようである。



『ただし、当時の娼館の経営者ですが…‥‥3年前に死亡したようですネ』

【え!?】


 そしてすでに、その当時のランの親の仇とも言えるような輩は、この世からいなくなっていたのであった。


 原因は痴情のもつれなのだとか。


『その経営者ですが、ランのお母さんの人気が無くなっていたことを疎ましく思ってたそうですよネ?』

【そう言っていたのだよ】

『ですが、それはどうやら間違いのようデス。むしろ隠れファンが多くなっていたようで、表立ってやることの方を控えていたそうですヨ。そのため、客が減ったとその馬鹿屑野郎(経営者)は勘違いしたようで、その後、ランのお母さんがいなくなると同時に、娼館の儲けも減ったようデス』


 人気のあった人がいなくなれば、当然客は減る。


 ここで新たに人を呼ぶか、他にも工夫すればよかったのだろうけど、生憎その経営者は無能だったようで‥‥‥


『他の娼婦たちに強制的に労働させ、しかも自分もやるだけやって欲望を満たしていたようですネ。人間の屑とも言うべきというか、そんな輩に抱かれるのを嫌がった娼婦たちは、客にその事を話して、そのあまりのひどさに、特定の娼婦たちを好んでいた客たちは大激怒し、その屑な経営者を集団でリンチしたようなのデス』

「まさに女で身を滅ぼしたのか‥‥‥というか、殺すまでリンチするって、それはそれで酷いような」


 いやでも、クズ過ぎる輩だったようだしそのあたりはどうなのだろうか。


『そしてこの一件で、隷属の首輪が娼婦たちにつけられていたことが表立ったようでして…‥‥ここで、不自然居間で情報が揉み消され、あとの情報は不明になっていましタ。この神聖国の介入があったことならはっきりしましたけどネ。消すなら消すで丁寧にやればいいのに、杜撰ゆえにそう苦労せずにその手の情報も仕入れれましたヨ』


 そう言いながらランが渡してきたのは、この神聖国が思いっきり隷属の首輪や、それ以外の国家間で禁止されているような違法なものを取り扱っている情報であった。


「流石にこれはひどすぎだろ…‥‥」



 本気でこの国、いつ滅亡してもおかしくはなかった。



 そんな時であった。



「ぎにゃぁぁぁぁぁぁ!!」


「ん?」

「今、何か外が騒がしかったですわね?」



 活気がない国にしては、珍しいような悲鳴。


 何事かと、野次馬なノリでリューたちが変装して出てみると、なにやらもめごとが起きていた。


「待てぇぇぇぇ!!よくもイソベリアン団長の足の爪の隙間に針を刺してくれたなぁ!!」

「嫌じゃと言っておるのに無理やり強要してくるからじゃろ!!お主にはこれじゃ!!」



 どうやら鎧を着た衛兵らしき3人組‥‥‥一人が足を抑えて悶絶しており、残る二人がある少女を捕らえようとしているのか必死になっていた。


 その少女は、少々幼いようにも見えるが、どこか意志の強そうな茶色の目と髪をしていた。



「くそうぅ!!団長の仇をこのて、」


 そう衛兵の一人が、その少女に手を伸ばしながら言おうとした時であった。



ドスッツ!!

「‥‥‥あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 突如として地面から先のとがった大きなくいが飛び出し、そのまま鎧を貫通し、その衛兵の決に刺さった。


「『大地の槍(アーススピアー)』の威力を思い知ったか!!」


 どやぁっと、正面から見ればそういう顔になっているであろう声でその少女は得意げに言った。


 ふと、周囲を見渡してみたが、活気のないというか、関係ないと考えているのか、騒いでいるのがその少女と衛兵たちだけで、増援は見込めないようである。



「くっつ!!二人の仇はこのお、」

「えいっ☆」


どごぼぅっつ!!

「ぐばぁぁぁぁぁっつ!?」


「うわっつ!?あれは痛いぞ!!」



 最後の一人が、言い切る前に、その少女は容赦なく地面から拳のようなものを創り出し…‥‥鎧を砕いて、男にとって守るべきところに非情なる一撃をヒットさせた。


 その音と、衛兵の顔から同じ男として思わずリューも同情してしまったほどである。



 あっという間に衛兵3人組は無力化され、その場に転がされた。


 皆悶絶し、そのうち少女が容赦なくとどめを刺して、動かなくなったのであった。



「ふぅ、やっとこれで静かになったのじゃ」


 汗をぬぐうような動作をする少女。


 よく見てみれば、その衣服は何処かボロボロであり、手足には枷のような腕輪・足輪が付いていた。



「さてと、腹も減ったし、にゅわぁぁあぁあ・・・・・・・」


 ッと、と当然その少女はその場に倒れた。


「お、おい大丈夫かよ!!」


 思わずリューたちは見捨てておけず、その少女のもとに駆け寄ったのであった。


 衛兵3人組?放置でいいだろ。



「でも一応、急所を攻撃されたやつだけは薬を置いておくか‥‥‥」

「物凄い同情していますわねリュー‥‥‥」

謎の少女と遭遇し、介抱するリューたち。

親切心というか、見捨てておけなかったからというのが理由だが、実はこの少女とんでもないわけありだった。

どうやら自ら厄介事をリューは招き入れてしまったようで…‥‥

次回に続く!


‥‥‥ちなみに、周囲の人たちが何もしないのは希望も夢もなく、興味関心もない廃人のような状態だからです。まともに生活はしているようだけど、一体どれだけの事があればそうなるのだろうか?


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