利害が一致すれば
安眠を求める今日この頃。
モフモフに包まれて寝てみたいなぁ。
SIDE新宰相
…‥‥ザウター王国の王城内、執務室にてアレン国王は山のような書類に、文字通り埋もれていた。
「へ、へ、陛下ぁぁぁぁ!?」
その惨状を目にした、宰相カクスケの後任、新宰相マルノスケは叫び、慌てて埋もれた国王を引っ張り出した。
「ふぅ、危うく死ぬところであった‥‥‥」
「あれだけの量の書類に埋もれたら窒息しますからね!?」
額の汗をぬぐうアレン国王に対して、マルノスケはツッコミを入れる。
新たにこの地位についたマルノスケだが、まだそう月日が経っていないとはいえ、いかにこの宰相という地位がどれだけ大変なのか、もう身に染みて十分理解していた。
ふと目を話せばどこかへ出かけるわ、そのせいでたまった書類が崩れて国王が埋もれるわ、そしてなによりも、もうそろそろ開戦するであろう神聖国エルモディアへの戦準備が慌しいのだが、その中で兵士の訓練に自ら出て無双する国王を止めるなど、もう本当に苦労しているのである。
前任者であった元宰相カクスケにお勧めの胃薬やストレスによる禿げを防止するための毛生え薬の区乳などが、ここ最近の彼の日課でもあった。
「だいたい、陛下がいろいろやるからこそ、それだけの書類が出来ているので自業自得なのですが…‥‥それでも『書類に埋もれて窒息死』なんておマヌケ死因ランキング上位に躍り出そうなものでこの国の王がなってしまうのはシャレにならないんですぞ!!」
「甘いわマルノスケ!!我が将来の死因と決めているのは、寿命までまっとうする大往生か、(自主規制)に決まっておるのだ!!」
「後者が圧倒的にやばかった!?」
思いがけないアレン国王が決めていた死因に、マルノスケはツッコミを入れたのであった。
言い争いをしつつ、何とか落ち着いたところで、マルノスケはアレン国王の執務室に来た目的を思い出した。
「ああ、そういえば陛下。陛下のお気に入りとでもいうべきか、娘の第2王女様の婚約者様から手紙が届いていますぞ。どうやら、この間出した手紙への返答のようですぞ」
「ほう」
懐からマルノスケが出した手紙を受け取り、その内容をアレン国王は一瞥した。
「‥‥‥やはり、受けてくれるか」
(あ、これ確実にものすごく悪いことを企んでいらっしゃる顔だぞ)
内容に目を通し、アレン国王が浮かべた黒い笑みに対してマルノスケは、短い期間でありながら濃密な経験を受けたことから、なんとなくその心を察することが出来た。
「つかぬ事をお聞きいたしますが陛下、貴方様が出した手紙の内容は何だったのでしょうか?」
何を企んでいるのかはともかく、何かろくでもないことではありませんようにと祈りながら、マルノスケはアレン国王に尋ねた。
「内容か?簡単なことであり、この王位についてからその存在をすっかりと忘れていたが‥‥‥使える物は使えという事で、利用して出したのだ」
「いや、ですからその存在とやらで内容が分かるわけが‥‥‥んん?」
その回答は意味不明だなと思っていたマルノスケであったが、ふと気が付いた。
アレン国王が忘れていたというものを含めた内容とやらには、おそらくだが‥‥‥
「まさかとは思いますが陛下、『王命』として出したのでは…‥‥‥」
「そのとおりだ」
――――――
『王命』
読んで字のごとく、王族、それも国の国王だけが国民向けに出すことが許された命令。
断ることも条件次第では可能なのだが、ほぼ断るのは不可能なほど強い効力を持つ。夢追い人はギルドと呼ばれる独立機関に近いところに所属しているので従うことはないが、それでもそこそこ効いてしまう人は効いてしまう。
ザウター王国では、滅多に出されることはない。
――――――
その王命で、何かを命じたであろうという事に、マルノスケは気が付き、尋ねるとアレン国王は肯定した。
「いや、でも何を王命として‥‥‥待てよ?第2王女様の婚約者に向けて‥‥‥確か‥‥‥‥っつ!?」
その内容がまだ不明であったが、冷静になって考え、その答えをマルノスケは自ら導き出した。
「まさか陛下っ!今まさに開戦しようとしている神聖国へ向けての先手必勝を撃つつもりでしょうか!?」
「半分正解で半分不正解だ。だがしかし、やはりこの地位につくだけあって、お前はなかなか頭が切れるなぁ、こんなに早く理解するとは」
「いや理解したくありませんでしたけど!?それにこの宰相の地位は前任者に押し付けられたようなもので、他の人に渡したくとも逃げられるんですがぁぁぁぁぁ!!」
マルノスケの、その心からの声は城内に響き渡った。
…‥‥マルノスケは知っている。
第2王女の婚約者とやらがどの様な人物なのか。
この国を治める王の片腕でもある宰相として働くがゆえに、注目されているような者たちは調査し、その情報を集めるのだ。
そして、その調査内容には当然第2王女の婚約者に対するものもあり、まだ技量不足ゆえかそれとも何者かの妨害を受けているせいか少ないが、どれだけとんでもない人物なのかは理解できた。
そう、理解できたがゆえに、何が起きる可能性があるのか彼は分かってしまったのだ。
就任早々、実家に帰って引きこもりたくなったマルノスケであったが、ようやく見つけた後任者を逃がすまいと、前宰相のカクスケが包囲網を敷いていたのであった‥‥‥
――――――――――――――――――――――――――
SIDEリュー
「王命として出されるとは、誰がそのパターンで予測できたんだろうなぁ‥‥‥」
「お父様も無茶苦茶な命令を出しますわねぇ‥‥‥まさか『直接神聖国に乗り込んで、魔封印石などを使われないように妨害工作をするように』なんてね」
「まぁ、リュー様たちの場合もう少しで卒業ですのである程度の期間であれば、学外で活動してもいいそうですし、まだよかったのではないでしょうかね?」
ぐでぇっと、めんどくさそうにしながらも動くリューとエルゼに対して、ハクロはエルゼにもわかるように人語でそう話した。
現在、リューたちは改良を重ねに重ねた空飛ぶ馬車で神聖国エルモディアを目指していた。
…‥‥ヴィクトリア経由で渡された手紙の内容は、まさに面倒事。
王命で命令されていることであり、まだ一介の学生に過ぎないリューでは逆らいにくいものもあり、渋々ながらも神聖国に対しては思うところがあるので、受理したのである。
その内容とは、神聖国内にあるとされる凶悪なモンスターが封印されている「魔封印石」。
あの大学園祭に出たモンスターや、調べてみれば数年前のサラマンダーの一件にもどうやら同様の者が使用されているらしく、戦争になった際に確実にあの国が持ち出して来そうな危険物なのだ。
そこで今回、万が一戦闘になっても何とか出来そうなメンバーだからという理由で、リューたちが魔封封印石の回収や破壊、ついでに戦争になった際に困ってくれるような妨害工作をする任務を、王命で出されたのであった。
「と言っても、別にヴィクトリアが来なくてもよかったんじゃ?」
あくまで今回の王命はリュー宛であり、ヴィクトリアに来たものではない。
そもそも、婚約者とはいえヴィクトリアはザウター王国の第2王女でもあるので、万が一のことでもあったら最悪であろう。
「いえ、こういう時にこそわたくしも付いていくのですわ。婚約者のそばにいて、守られながらも守り返すのが良いのだと、この間本でも読みましたわよ」
「あ、もしかして『燃えよ恋姫! ~波乱万丈の序章~』ってやつですか!!」
「あら?ハクロも読んでいたのですか!!」
「私も読んでいるんですよ!」
…‥‥どうやら本の影響を受けたようだが、なんだその本。
しかも、どうやら他の皆も読んでいるようで、聞いた話によると他の女性使徒たちの間でも今話題になっている作品なのだとか。
「著者がワーイルゼッテとかいう変わったペンネームの方で、その正体は不明だけど、話題の作品として盛り上がっているのですわ!」
「モンスター的にも心くすぐられる作品なのですよ!」
ワイワイと、その本について盛り上がる女性陣。
話についていけず、仲間外れになったような気がして、リューは少し寂しくなったのであった。
「‥‥‥今度読んでみようか」
ぽつりとつぶやいたリューの横で、ワゼが女性陣から少し離れて何か微妙な表情をしていたことに気が付いた者はいなかった…‥‥‥
『たまにはふざけてみたとはいえ、まさか話題になるとハ…‥‥』
「ん?ワゼ何か言ったか?」
『いいえ何モ』
『ワーイルゼッテ著書』
1年前に、突如としてザウター王国内に現れた謎の多き新人作家。その話題作は人々の心をつかみ、まるで本当にその光景を見ていたかのようなリアル感がウケて、絶賛大人気なのである。
作者については不明で、誰も口を割らないのだとか。
なお、現在の話題の作品は、本人は気が付いていないが、彼に惹かれる者たちが多くおり、そのうちの一人、清楚な白い美女を主人公にしているとされる。
『ええ、誰もその正体を知ることはできないのデス。決して編集部の皆さまの弱みをがっつり握ったり、情報提供等である程度の口封じなどはしていませんヨ』
「ワゼ、何必死になってつぶやいているんだ?」
『秘密ですご主人様(というか、口が裂けても命令されてもこればかりは話したくないのデス。これでばれたりしたら、勝手にモデルにしたことで私が袋叩きに合う可能性があるのデス)』
次回に続く!!