閑話 冬の健康診断
ちょっとだけ小話
…‥‥夢追い人にとって大事なことは何か?
そういう質問は、たまに出てくるであろう。
資金?力?交渉の腕前?
いや、まず第一に出てくるのは「健康であること」なのだという。
そもそも、病気であればあまり受けさせたくもないし、休ませたい。
不健康という事は、それだけ忙しいか、最悪の場合は無頓着か。
前者であればまだいい。
だがしかし、後者…‥‥無頓着という場合、自身の健康管理すらも満足にできておらず、ずさんだというのが分かるのだが、そんな人に誰が依頼とかを出すのであろうか。
そう言うわけで、夢追い人たちはできるだけ健康であるのが望ましいとされており、その健康に関して夢追い人育成学園は重要視しているのである。
そんな理由で、年に数回ほど、特に季節の変わり目や長期休暇がある際に、学園では健康診断が行われるのであった。
「そして今回は、冬休み前の事だから健康診断があるのか‥‥‥」
「こういう基準って、誰が考えていますの?」
食堂にて、全員が目にするのはでかでかと貼られた健康診断開始のお知らせ。
人間、獣人等亜人問わず、従魔たちでさえも受けられる健康診断である。
‥‥‥しかし、体の構造とかモンスターとかは違うはずだけど、どうやって健康の判断を行うのだろうか?
『その基準となるのは、どうやら機械魔王様より前の時代に出た魔王‥‥‥善か悪かで言われれば、悪として記録されている「健康魔王メディエーター」という方のようですネ』
ヴィクトリアがつぶやいたその疑問に、ワゼが答えた。
「‥‥‥善か悪かで、何で悪の方?」
魔王には主に、人々を導き、繁栄させる良い魔王か、破壊等に呑まれ悪という魔王がある。
様々な魔王が様々な時代に誕生することがあるのだが、その魔王の名前的に…‥悪になるのか?
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「健康魔王メディエーター」
機械魔王よりも前の時代に出現した魔王。元は人間。
とある医者の家系に生まれ、人々を救うために諸国を旅して膨大な医学の知識を得たとされる。
今もなお、彼が得た膨大な医学知識が現在の医療の基礎となっており、多大な貢献をしたとされる。
‥‥‥しかしその反面、それだけの医学に関する知識のために犠牲になった者の数は多かったようであり、中には生きたまま人体実験をされるなど悲惨な目に遭った人もいたそうである。
そのうえ、ある一国を狙って、3日も絶たぬうちにその国の国民全員が急激なメタボリックシンドロームなど、重度の健康被害をもたらして観察するなど、様々な迷惑行為を行った。
救った数よりも、医学の基礎とするために犠牲者が多かったようで、倫理上の問題点から悪とされた。
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…‥‥微妙なラインである。
でも、どうやら犠牲者の中には妊婦だったり、生後間もない赤子などもいて、その構造を知るために生きたまま解剖など‥‥‥‥うぇっぷ。
「確かにこれはいい魔王と呼べないな‥‥‥というか、最悪すぎるだろ」
何にせよ、その健康魔王は晩年、自らも実験台にして何かをしようとしたそうなのだが、その彼の住みかが木っ端みじんに爆発し、死亡扱いとなったようだ。
いわゆるマッドサイエンティスト‥‥‥いや、マッドドクターってやつだったのかもしれない。
そんな話は置いておいて、健康診断当日である。
生徒たちと、魔物使いたちの従魔たちもまとめてやり、きちんと男女を分けて行われるのである。
なので、リューとハクロたちは別れて健康診断を受けるのだが、こういう時に限って、普段はなりを潜めている阿呆な人たちが出たりするのだ。
「よし!!女子組の覗きに行こうぜ!!」
「「「「「おおおおおおおお!!」」」」」
…‥‥うん、そりゃ覗きは出るよね。
最低、最悪、変態と言われようとも、彼らは止まらない。
目指すべき目的地には桃源郷というべきか、彼女達の健康診断のための下着須賀などがあるのだから、見たい人は見たいのであろう。
ただし、リューは止めはしない。
ハクロたちがそんなやましい目で見られるのは嫌だが、そんなことになるのはわかっている事。
そう、「わかっている事」ゆえに、対策が既に建てられているのだ。
主に、完璧すぎるメイドの手によって、罠が張り巡らされているのである。
「ここを超えていけばたど、」
カチッツ
ドッカァァァァン!!
「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」」」」」
「…‥‥一応、死なない程度の地雷原とか、ハクロの糸でのトラップ、ファイお手製の超かゆみ増し薬噴霧などがあるというのに、なぜそこを目指すのだろうか」
罠に次々と掛かり、全滅していく者たちを見て、リューはそうつぶやくのであった。
ちなみに、他の罠としては槍の雨に、的確な急所への一撃ハンマー、デスソースを超える超激辛ソース投下、サキュバスの力で多少尊厳を失う程度の霧、爪の間に針をぶっ刺す装置など、多種多様な罠も備え付けられているので、見に行けるのは宝くじを当てるよりは難しいはず。
というか、健康かどうかのための健康診断なのに、自ら不健康の道へ辿るとはこれいかに。
関わらないように、リューは悲鳴を上げる彼らを後に、自身の健康診断のためにその場を去るのであった。
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SIDE女性陣
「‥‥‥にしても、ハクロたちがこっちで一緒に受けるのは少々抵抗がありますわね」
「何か、問題ありますかね?」
ヴィクトリアのつぶやきに、上着を脱いで下着姿になっていたハクロは、モンスター語から人後に切り替えて尋ねた。
「いえ、皆さんが人の姿に近いモンスターゆえに、一緒に受けるのは理解できますわ。ですが……」
ハクロの問いかけに、ヴィクトリアは言葉を濁す。
その目は、下着姿になったが故に、露出面で見える面積の増えた大きなものを見ていた。
‥‥‥ヴィクトリアも一応、まだまだ成長が見込めるのだが、やはり大人な体を持つハクロたちのスタイルには女として嫉妬をしてしまう。
まぁ、ピポは例外だが。彼女の場合、精神的な部分がまだ子供と変わらないからいいだろう。
だがしかし、ランはだめである。
「リューから聞くに、どうも進化前は絶壁だったのに、進化して大きくなるのはずるいですわね」
「に、人間も進化すればいけるのかもしれない‥‥‥のだよ」
人語を話しつつ、ヴィクトリアだけではなく、他の女子生徒たちに嫉妬の目線で睨まれ、ランは冷や汗をかき、後ずさりしながらそう答えた。
進化し、幻獣種のサキュバス・ファントムになったランだが、その進化前は色々足りないサキュバス・フラットである。
その話がどこから漏れたのかは定かではないが、進化によって肉体が妖艶となり、一気に成長した彼女を嫉妬の目で見ないものなど、この場にはいなかった。
例えで言うなれば、普段なんの特徴もない人が、突然イメチェンをして180度変化し、皆にうらやましがられるような存在になったようなものである。
ただし、うらやましがられるのではなく、嫉妬が来たが。
「というか、ワゼは脱がないのですの?ゴーレムであっても対象ですわ」
『できれば脱ぎたくないのが本音ダ』
ふと、ヴィクトリアはワゼがメイド服を脱いでいないことに気が付いた。
ワゼは機械魔王の作品であるが、一応ゴーレムの分類にあたり、健康診断の対象である。
いや、ゴーレムの場合メンテナンスと言った方が正しいのかもしれない。
ただ、ワゼは己のメイド服を脱ぐのを嫌う傾向にあった。
理由は簡単、「メイド服=戦闘服」思考なので、脱ぐと無防備になってしまうと心で思ってしまい、脱ぐのに抵抗してしまうのだ。
『とはいえ、こういうのも乗り越えるのもまたメイド。こらえつつ脱がねばならぬ、何事モ』
ぐっとメイド服に手をかけ、ワゼはメイド服を脱ぎ…‥‥一瞬でその場に残像を作り、すぐに着用した。
『健康診断すべて完了。これより逃亡いたしまス』
「早っつ!?」
「って、もう残像しか残っていないですよ!?」
目にもとまらぬ速さで消えたワゼに対して、その場にいた全員は驚くのであった。
「‥‥‥にしても、ほんの一瞬でしたけど、あれでもゴーレムなのですわよね」
ゴーレムは基本的にごつごつしたというか、大きくて頑丈なもののイメージが強い。
ただ、ワゼは見た目が人に近くされており、違うと擦れば関節のつなぎ目や、アンテナらしい耳ぐらいで、それ以外の個所は人間にしか見えないのである。
「‥‥‥というか、リューの従魔たちって皆‥‥‥ううっ」
ハクロたちのスタイルを改めて目にして、ヴィクトリアは少々、いやその他女子生徒たちも落ち込んだ。
まだまだ成長の余地が彼女達にあるのだが、やはりハクロたちのプロポーションを見せつけられれば、女心としては敗北を味わうのである。
健康診断、それは女子生徒たちが見事に己の自尊心を傷つけられ、それをいかに乗り越えて成長できるかという修行の場でもあった‥‥‥‥
‥‥‥スリーサイズなどは載せないよ?実は設定はしてあるけど、下半身が蜘蛛やタコ、身体が小さいなどの理由で乗せにくいというのもある。
ただ一つ言えるのは、皆方向性が違うとはいえ、リューの従魔たちは完成されたプロポーションを持つのである。
次回からは、ちょっとだけ年月が進むかな。ワゼ&国王の企みを実行予定。
準備期間が長くかかったが、いよいよかの国は、長年自分たちで積み重ねてしまった罪の清算を受ける羽目になるのです・・・・・・・
次回に続く!!
なお、ワゼは後日自分でオーバーホールを改めてした模様。一見バラバラ殺人のように見えるので、ちょっとした騒ぎになったとか。




