帰宅
そして、ロマンとレフはおじいさんからもらった銀貨を握り締めて、列車に乗りました。
「見なよ、レフ……。綺麗な大地だよ」
ロマンは雄大な大地を見つめて言いました。
「そうだね、ここには人間なんていないんだ。動物たちが好き勝手に暮らしているんだな」
レフは嬉しそうに尻尾を振りました。
そしてふたりは遠く遠く、遥か遠くの街までも旅をしました。ある時は南の国の砂漠の中のお城を見て、ある時は北の国の凍りつく氷河の中を探検しました。
お金が足りなくなれば、どこかの街で降りて、ふたりは皿洗いでも何でもしました。宿のないふたりを泊めてくれる家もありました。
優しかったのはヤギのおばさんで、ふたりを可愛がって、お菓子屋さんのお手伝いをさせてくれました。ケーキを焼いては、レフはこっそり食べてしまうのでした。ヤギのおばさんはそれに気づいても、
「あらあら……」
と微笑んで、決してレフのことを叱らないのでした。
ふたりが旅の中で一番楽しかったのは、やはりモグラの遺跡の発掘でした。貼り出しを見つけて、ふたりは発掘の仕事をしました。そして、ふたりは遺跡の中から出てきたお宝をちょっとだけこっそり持って帰ったのです。
それは黄金の時計でした。
ふたりは黄金の時計を売り払って、今度はオトナの街だと言われていたあの街へ出掛けて、カジノでたくさんお金を使いました。その夜に、ハイエナのギャングにからまれて、ふたりは命からがら逃げてきました。
「なあ、ロマン……」
「どうしたの、レフ……」
「僕たちをこれからもずっと一緒だよね……」
レフのそのさみしそうな声にロマンは笑顔で答えました。
「もちろんだよ。これからずっと一緒さ」
確かに、ふたりはどこへ行くにも一緒なのでした。
ふたりは不思議な国を旅している内に、このままこの世界にいて良いのか、少しずつ心配になってきました。
「ねえ、レフ……」
「どうしたの、ロマン」
「もう、お家に帰らなきゃ駄目かなぁ……」
「そんな、こんなに楽しいのに……」
「でもさ」
ロマンはちょっとだけ悲しそうな顔をしました。
「みんな悲しがってるんじゃないかな……」
「…………」
レフは自分の家の人間の女の子のことを思い出しました。あの女の子は、僕になついてるんだよなぁ。飼い主がさぞさみしがってるかと思うと、急にレフも悲しくなってきました。
「もう帰ろうか……」
「帰ろうね……」
ふたりはその不思議の国から帰ることにしました。
こうして、ロマンとレフは、列車であのおじいさんのいた洞穴の中へ戻ってきました。
ロマンは、そこでレフと別れて、お家に帰りました。みんなロマンのことを見て、泣いて喜びました。ロマンは家に帰ってきて良かったと心から思ったのでした。
ところが、その夜、悲しい遠吠えが聞こえてきました。ロマンが窓の外の見ていると、暗闇のなかにレフが座っているのでした。
ロマンは驚いて、窓から飛びだして、レフに会いに行きました。
レフは悲しそうに泣いているのでした。
「どうしたの? レフ……」
レフは涙を流しながら、小さな声でこう言うのでした。
「僕はもう家には帰れないよ……」
「どうして……?」
「家に帰って、窓から中を覗いてみたらね、僕の知らない小さな仔犬が飼われていたんだ……。それで、みんな僕のことなんかすっかり忘れちまって……ちっともさみしそうじゃないんだ……」
「レフ……」
「僕は家族じゃなかったんだなぁ……」
そう言って、レフは悲しげに笑いました。
「女の子もかい?」
「女の子もさ……」
ロマンは悲しくなって、何も言えませんでした。
「なぁ、ロマン……。僕の居場所はもうどこにもないんだよ……」
ロマンはじっと考えました。
「レフ……、また一緒に旅に出るかい?」
レフは目を輝かせてロマンを見つめました。
「……いいのかい? だってロマンは家族に愛されてるんだろ……?」
「そんなこと分からないよ! 人間って勝手なんだ……!」
ロマンはそう吠えました。
「そうだよ、人間って勝手なんだ……」
レフも吠えました。
それから、ふたりは泣きながら暗闇の丘を駆けていったのです……。