泉川リコ 8話
よく眠れたのかと聞かれれば、思いのほかよく眠れた。
だからこうして、授業中も眠ることなく、教師の話をしっかりと聞くことができていた。……気になって、私は少しだけ首を斜め後ろに傾ける。
あたりまえだけど、モエは変わらず同じ位置で授業を受けていた。
私は視線を前に戻す。この席の位置からだと、モエとの距離はいちばん遠い。なんだか、その事実だけでもの悲しい。まあでも、同じ部屋というだけで、どこか放課後が楽しくなっている自分がいた。
……私はモエのどこにひかれているのだろう。
顔? ふんいき? 話し方? それとも全部? はたまた理由なんてない?
全部ほんとうのような気がしてきた。
こんなこと考えてるから、授業なんてろくに耳に入ってこない。はたして、私は高校生としてうまくやっていけるのだろうか。
女子校というやつは、本当に噂話が絶えないし、休み時間中の教室ときたらそりゃやたらめったら騒がしい。まあ、驚愕も騒がしいだろうけど。
私は、いままでの友達グループと窓際で話しつつ、モエのほうへと視線をやる。
彼女を中心として、花ののように人の輪ができている。人気者だ。
そして、その光景に、どことなく自分の中にある、悪い気持ちが刺激されているのが手に取るようにわかる。
なんだろう、私は独占欲というものが強いのだろうか。
「リコがなんか、微妙な顔してる」
机を挟んで、横に立つユウがふざけた調子で言った。
「は?」
私は頬づえをついたまま、顔をそっちに向けた。
「なんか……、形容しがたい感じ?」
ユウはこめかみに人さし指を当て、首をかしげた。
「言っとけ」
するとそのまた隣にいるメグミが、
「そういや、春日さんと同じ部屋なんでしょ? リコ」
「え? まあ」
と私。
「どう?」
「どう? って……。アバウトすぎでしょ、質問」
「でもさ」とユウが言って「春日さん、いっしょにいると楽しそうだよねー。話、途切れなさそうっていうか」
「ああ、そんな感じするね」
メグミが同意する。
「まあ……、そうだね。確かに、しゃべってばっかりだったな。それに、べつに、会話、途切れても気まずくなかったし」
私は窓の外を見ながら言った。べつに景色を見たかったわけではなく、単に何かを思い出す癖というだけだ。
「リコと正反対のタイプ、って感じ」
ユウが軽く言って笑う。
「はいはい」
私は目を細める。
「へー、気が合う人でよかったじゃん。私のとこなんてさぁ」
メグミの愚痴が、えんえんと続いていく。いつも聞かされてる身としては、もう耳にタコができるって感じだけど。
正反対のタイプかぁ。……そうかもしれない。だから、意識しているのだろうか。
もっとほかに、理由がある気がする。
その日、五時間目が体育だった。
私は体育館の隅で体育座りしながら、自分の番を待っていた。すぐ隣にはモエがいて……制服も似合っていたけど、体操着姿もこれまた似合っていた。なんというか、さまになっているというか。妙にセクシーというか。
……私はいったいどんな目でモエを見ているのか。
なんか、自分に自分であきれてきたぞ? 思わず額を押さえる。重症だ。何がとは言わないが。
「モエちゃん、具合わるいの?」
隣からモエの声。
「いや。ぜんぜんそんなんじゃない。むしろ元気」
私は顔を上げ、できるだけほほえみを意識した(実際には無表情のままだったけど)。頭を振って、目にかかった前髪をどける。
「あー、わかった。バレー苦手なんでしょー」
くすくすとモエが笑う。
「違うったらもう」
私は軽く目を細める。きょうの体育の授業は体育だった。
「B組の林さん、伊中と付き合ってるんだって?
隣にいるユウとメグミの噂話が私の耳に入ってきた。




