泉川リコ 7話
「片付けはやっぱりあしただねー」
おふろ上がりのモエが、中途半端に開けられたダンボールの類を見ながら言った。
そっちを見ると、ドライヤーで乾かしたにもかかわらず、まだモエの髪は少し濡れている。しかし、線が細い髪だなーと思う。私のごわごわとは大違い。
「ん? どうしたの? リコちゃん」
モエがこっちを見て首をかしげる。
「んー、なんでも。それより、モエ、あっちでいいの?」
私は二段ベッドの上を顎で指す。
「うんっ。私、二段ベッド、憧れだったし。それに、リコちゃんも下が慣れてるでしょ?」
「まあ」
「私、ルームメイト、憧れだったんだ。リコちゃんが同じ部屋でよかったなー、って思うよ」
えへへーとモエは簡単に言って笑ってくれる。
「モエって、あれだよね。そういうの、簡単に言うよね」
私は思わず目を細めた。ほかの表情なんてできるわけがない。
「ん? 何が?」
「べつに。いつも、何時くらいに寝てる?」
「そうだなぁ……」
そんな話をしつつ、まだ就寝時間まで余裕があったので、2人でテレビを見ることに。
体育座りをして、なんだか姉妹っていうか、私には新鮮な感覚だった。姉はいるけど少し年が離れているし、近い年代の子とこうして遅くまでいるなんてまれだったからだ。
ちらり、と隣を見てみる。モエがいる。
制服姿とは、また違ったおもむきだった。そういえば、ちょっと大げさな物言いになるけれど、このパジャマ姿のモエを見ることができるのはは私だけなのだ。
もちろん、通路だったり脱衣場で、ほかの生徒も見ることはできるけど。でも、私がいちばん目に入れられるのは間違いない。
なんというか、独り占めというか。
……そう考えると、どこか優越感のようなものが湧いてくる。なんとなく意味のない胸騒ぎがして、そしてわくわくしてくる。
耳の外を、観客の笑い声が通り過ぎていく。どこか、テレビの中の出来事が、架空の現象みたいだ。
そんな私は、また隣を見やる。
当たり前ではあるけれど、2人の距離が少し空いている。ちょうど、人ひとり分くらいか。
……どうにかして、あの肩に頭を寄せたりできないだろうか。
なんて。
ってちょっと待て。
私は何を考えているのだろう。
「……なんか、リコちゃんから、ちょくちょく視線を感じるのですが」
モエが言って、ゆっくりとこっちを振り向いた。ぱちくり。まばたきしながらこっちを凝視。
……そりゃそうだ。だって見てるし。いやそうじゃない。
「そ、そう?」
知らないふりをしてみる。
「うん」
「んー……、ほら、モエ、きれいだし」
私は天井を見上げたり視線をあっちこっちにやりつつ、どこか挙動不審な様子で言葉をつむいだ。なにこれ。わたしゃナンパ中か。
「えー、そんなことないって。リコちゃんのほうがきれいだよ?」
モエが膝の上にほっぺたをつけて、こっちに上目遣いを向けてくる。
正直、盛大に照れた。
きれいとか。マジそんなんじゃないし。
頬の熱さが、触っていないのにわかってしまう。テレビの音が聞こえなくなってくる。
結局、私は前を向いて話題を変えた。だって、直視できなかったから。
……私はモエに何を感じて、何を求めているのだろう。
それは、この私の肌の温度がいちばん知っているかもしれなかった。




