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泉川リコ 6話

 やはり気になる。


 何がって、いまとなりにいるモエの裸のことだ。


 ちら、ちら、とどうしても視線がいく。そしてハッとする。私はいったい何をしているんだと。

 シャンプーするふりをして(いや実際にしてるんだけど)、その空白時間で考える。つまるところの、自己分析だ。


 私はなぜ、モエの裸が気になっているのだろう。単純な好奇心? それとも、同い年として、スタイルとかの張り合い? もしくは、美肌の参考にしたいとか?


 ……どれも違う気がする。


 なんとなく、気になってしまうのだ。


 その答えは、いまは明文化できない。けれど、私の中にある辞書をパラパラとめくって、その中には載っていないような、どこか新しい気持ちであることは感覚としてわかった。


 音が聞こえて、すぐ右に振り向く。目をつぶりながら、座りつつシャワーで泡を流しているモエの姿。なんかこう、ステンレスの流し台のように、水が肌を気持ちよさそうにはじいている。


 よく、制服を脱いだら中にあざだったり擦り傷がある子っているけれど、モエはそんなことなくて。何かのCMのモデルように、写真にしたいぐらいの美しさだった。


 どうしても、私は髪を洗う手を止めてしまう。……客観的に見たら、いまの私の姿は、クラスメイト兼ルームメイトのシャワー姿をぽかんと口を開けて見える怪しいやつだよな、といま思った。自重せねば。


「……ん? リコちゃん?」


 気づけば、モエが髪をきゅっきゅとしぼりながらこっちを見つめていた。


「ん、いや、なんでも」


 私はもごもごと返しつつ、前を向いてシャンプーに戻る。


 それから、先に浴槽に入っていたモエの横へと、私はおずおずと向かった。まあしかし、もう慣れつつあるけれど、この大浴場というやつは、寮の設備削減にはなっているんだろうけど、なんか慣れないなぁ、という感じだ。個室にお風呂がほしかった感はある。


 足の指先で確認してから、やはりいつもどおり熱いなと思いつつ、そのままゆっくりと腰に湯船をつける。……体の中からじんじんとやってくるような温度。毎度思うけど、もうちょっと水温を低くしてほしい。


「私、こういうの小学生以来かもー」


 モエが両手でお湯をすくい、それを見つつ言った。


「こういうの?」


「ほら、銭湯? みんなで入るの」


「ああ」


 前を見つめる。名も知らない子が何人もやってくる。雰囲気からして、上級生っぽい感じがする。

 かくいう私は、実は寮のこのお風呂にくるまで、こういう大浴場なんてものは経験したことがなかった。近くに銭湯らしきものもなかったし。


「……ところで、リコちゃん、胸、きれいだよね」


「……はい?」


 ぼーっとしてたから、聞き間違えたかと思った。


 私はゆっくりとモエに振り向く。モエがすっごい私の一部分に注目している。あ、こっち見た。目が合う。私はそれから逃げるように、自らの胸をもう一度見やった。


 タオルを巻いてお風呂に入っていないわけで。丸見えだったわけで。


「……ちょっと、変態」


 私は顔を上げ、モエを見やりながらぼそりとつぶやいた。


「変態!? リコちゃんいきなりひどくない!?」


「そんなことないと思うけど。え? 胸がきれい?」


「うん。きれいだな、って思って。何か、お手入れとかしてるの?」


「いやべつに……」


 私は答えつつ、話の流れからか、ついモエの胸に目がいってしまう。

 なんというか、私より大きいことは明らかだったし、同年代としてもなかなかに大きい部類に入るサイズだった。


「リコちゃんのへんたーい」


 ふざけた調子でモエがいった。視線を戻すと、えへへとモエが軽く笑っていた。


「あのねぇ」


 気づけば熱かった湯船の温度に体が慣れていて。時間も心地よく過ぎ去っていた。ただ、どうにもわからないことがひとつある。


 きょう会ったばかりなのに、私の中で何か新しい気持ちが芽生えている気がした。

 本当に、かすかではあるのだけれども。

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