泉川リコ 4話
春日モエの適応力はすごかった。
休み時間中たるや、彼女の周りに人だかりができるわ、笑顔がうまいわ、やけに話が盛り上がっているわ、女子校という難しい環境にもかかわらず、すでに人気者になる匂いがぷんぷんしていた。
「春日さん、人気だねー」
私のすぐ斜め前に立つユウが、そっちを見たまま感想をもらした。
「ねー」
私は机に頬づえをついたまま、ユウに相づちを打ちつつ、その様子を見守る。周りに生徒がいすぎて、春日モエの姿がまったく見えない。
しかし、うらやましい才能だった。私は人見知りが激しく、笑顔を急に作ることなんてできない。自覚はしているが、私は常に無表情ばかりという、他人からしたらなんともとっつきづらいふんいきだろうことは容易に予測できた。
さて、結局
私は授業がすべて終わるまで、春日モエと話さなかった。
その日の放課後、私は寮に帰って、またしてもテーブルに頬づえをついていた。
少し時間は前後するが、きょうの昼休み、担任教師にこう言われたのである。
「泉川さん、春日さんと同室だから」
予感的中とはこのことだった。
やはりというかなんというか、ルームメイト制だから当たり前ではあるのだけど、順番的に、春日モエは私の部屋でこれから生活するようだった。
……正直いって、うまくやっていく自信がなかった。
人見知りの私がうまく話せるだろうか。会話が続かなくなって、ずっと無表情でいるのがオチって気もするけれど。
座ったまま、ドアを見つめつつ、私はなんとなくもう冷めてしまったコーヒーを飲んで一息つく。この寮は、学校から徒歩1分のところにあって、立地的には申し分ない。しかも、建てられたばかりなのにもかかわらず、家賃も格安だ。まあ、入居する時期がよかったのだろう。
そうやって、何も手につかずそわそわすること、20分はたったか。
インターホンが鳴って、私は見ていたスマホから顔を上げた。
「はーい」
相手が誰だかなんとなくわかっていたが、そのままドアへと向かう。
「春日でーす」
声が聞こえた。ドア越しだから、教室で聞いたときとは印象が異なる。
少し緊張しつつ、私はゆっくりとドアを開けた。
「こんにちはー」
……当たり前だけど、本当に当たり前だけど、春日モエは、教室で見たときとまったく同じ印象で、姿形も変わらなかった(この短時間で変わるわけないんだけどさ)。ただ、近くで見ているからか、そのオーラというか華やかさに、少し私は萎縮してしまった。
「えっと、転校生の、春日さんだよね?」
私はドアに手をかけたまま言った。
「うん。これから、ルームメイトとしてお世話になります」
春日モエはほがらかにほほえみ、
「ご迷惑おかけすると思いますが、これからよろしくお願いいたします」
「いえいえ、こちらこそ」
相手が実に礼儀正しいお辞儀をしたので、私も軽く会釈し返す。
「まあ、どうぞ」
私は彼女を部屋に招き入れた。すでに廊下にはダンボールがたくさんあって、少し通る道が狭くなっていた。
「泉川……、リコちゃんだよね?」
歩いている途中、後ろから話題を振られた。
「うん。先生から聞いたの?」
そのあとも、とりとめのない世間話が続く。
だけど、なんとなくぎくしゃく。
転機が訪れたのは、荷ほどきが終わって、夕飯を食べ終わって、さて大浴場に行こうかというときだった。




