表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

泉川リコ 3話

 私は転校したことがないからわからないけど、これってすごいシチュエーションだよな、と思った。


 担任の先生が、転校生がきますと紹介している。教室は静まりかえっている。……この中に入って、自己紹介するのか。なかなかどうして、緊張するってレベルじゃない。


 中途半端な時期の転校生だな、なんて思いつつ。窓側の列、いちばん前の席にいる私は、思いのほかドアから入ってくる転校生を早く見られる位置にいた。

 まあ、だからといって、何がどうなるわけでもないけど。


「それでは、春日かすがさん」


 教師が言った。ドアのほうに歩いていく。

 開けた。聞き慣れた音が鳴った。


 私は肩が強張り、大きく目が見開いた。


 とんでもなく美人だった。なんていうか……、そう、テレビの中にいるアイドルみたいな。

 ぜったいに誰しもが緊張するであろう場面なのに、その子――転校生は長い巻き毛を揺らして、教師とともに、教壇の前へと移動していく。


 ――そしてこれはあとになって気づくのだけど、このときの私は、その転校生の子をガン見していた。なぜだろう。理由は自分でもわからない。たぶん、何か直感的にひかれるものがあったんだと思う。


「えーと」


 全員に背を向けた教師が、場つなぎの言葉を発しながら、『春日 萌』と黒板にやけに達筆な字を書いた。


やがて振り返ってから、隣の転校生に手を向け、


「こちら春日モエさん。ご両親の都合で転勤――」


 と現在進行形で紹介しているけれど、対する私はなぜか気が気じゃなかった。どうしても、その春日モエとやらが気になって、教師の言葉が耳に入らなくなっていたのだ。

 やがて。


「春日モエです、よろしくお願いします」


 転校生があいさつをして、一礼をする。

 が、ふと。


 私がずっと見ていたからだろう、モエがこっちを向いた。


 目が合った。


 私は知らず知らずのうちに、頬づえをついている手に力が入り、そしてまばたきを失っていた。

 視界が、彼女の姿だけを映し出して。

 私の網膜が、すべて彼女色に塗り替えられて。


 そして。


 緩やかな茶色に巻き毛を揺らしながら、モエはこれ以上ないほど優雅にほほえんだ。


 そのときの私の感情といったら、なんだろうね、きっと君にはうまく伝わらないというか、恥ずかしくて言語化できないっていうか。

 なんにしろ。



 これが私と春日モエの、ファーストコンタクトだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ