泉川リコ 1話
まさか女子校に行くなんて思わなかったから。
私がここにきた理由はいくつかあって、結果からいえば、家が近いということ、そして姉に猛プッシュされたこと、この2点が主なものとなっている。
とくに希望も目的もなかった。
回りに流されるまま高校生になって、きっとこのまま過ごすのだろうな、と思っていた。実際に、最初のうちはそうだった。
だけど。
最初から話そう。だいたい私は教室で一人で机に頬づえをついてぼーっとしていることが多かったけれど、何人か話せる友達はいた。
なんというか、女子校独特の雰囲気になじめなかったのだ。
うちの学校は、なんというか本当にどこにでもある女子校というか、すっごくお嬢さま学校というわけでもなければ、かといってヤンキーがいっぱいいるような荒れたところでもなかったから、そういう意味での不満はなかった。
でも、毎日がなんとなく退屈だった。
勉強の先に何があるかわからなくて。友達と話すのは楽しいけれど、中学の時と何がちがうかわからなかった。端的にいえば、刺激がなかった。
そんな毎日。
「リコってクールだよね」
前の席に座るユウが軽い調子で言った。
「いきなり、何?」
私は前髪を軽く払いつつ、少しはにかんだ。
「言われない?」
「言われない、って何が?」
「クール、って」
「まあ、何度かは言われたことあるけど……」
そうなのだ。自分では普通にしているつもりだけど、他人から見たらそう映るらしい。なかなかどうして、自己と他者では違いがあるらしい。
「なんか、お面かぶってるみたいに、表情変わらないし」
「……ひどい言いよう」
私は目を細め、
「つか、いま、変わってるじゃん」
「まあ、そうだけどさ。あんま変わってないってこと」
ユウは軽く笑う。
「クールねえ」
私は机に頬づえをつき、窓の外を見る。もう桜は散っている。まだ高校生になったばかりだというのに、もうこの景色に新鮮さがなくなっている。もう少しでゴールデンウィークだ。
「彼氏とか、作らないの?」
ユウがいたずらっぽい表情を作った。
「は? 突然ね」
私は目を大きくさせ、
「あのね、ない」
「ふうん」
「ふうんて。それ、なんのふーん?」
「いや、リコ、かわいいからモテるかな、って」
「言ってろ」
「かわいいっていうより、どっちかっていうときれい系だよね」
「はいはい」
ユウはよく私をこうしておだててくる。ぜんぜん、そんなことないっつの。
にしても。
高校生になったら、女子校に入ったら、何かが劇的に変わると思っていた。
もっと大人になるんじゃないか、とか。
楽しい人生が送れるんじゃないか、とか。
けれど、やっぱりそんな簡単にはいかなくて。
待っていたのは、いままでどおりのレールと電車。
私の終着駅はどこで、通過駅を通るのはいつで、そして私は誰なのか。
思春期っぽい? そうだよね。
なんてことを考えながら、ユウと話しつつ、景色を見ながら私はどこか退屈していた。 ……まあ、人生なんてこんなものだろう、とこの年で何かを悟り始めていたとき。
私は、『あの人』と出会った。




