出撃!内閣府直轄対超常現象対策特別実働部隊第一班スイーツ隊 第二話 相手はサキュバス!? Aパート
お久しぶりです。
筆が乗ったので書きました。
このまま、いけるところまで書きたいと思います。
部屋の中にサイレンが鳴り響く。
「日ノ出町3丁目29-8にて能力者による立てこもり事件が発生。スイーツ隊は直ちに出動せよ」
いつの間にか部屋についてたスピーカーから、私たちの出動を命じる放送が入る。この放送が入るということは結構な緊急事態なので、これを聞くと大体のメンバーはすぐに動く。え、すぐに動かないメンバー? 私の膝の上で寝てるアズキくらいかな・・・。
「ほらアズキ、起きなさい」
ユサユサとゆすると、迷惑そうな声を出して目を開ける。
「・・・何?」
いや何じゃない。サイレンで起きんかこの寝坊助。
「出動だよ」
「ふぁ~い」
あくびをするアズキを膝から降ろすと、のそのそと動きながら部屋に行く。それを見送りつつ、アズキが寝てる間に垂らした涎でしみがついた服を着替え、装備を整えて部屋を出る。
駐車場に出ると、既にアズキ以外のメンバーはそろって、MX-001デザートに乗り込んで私とアズキを待っていた。
MX-001デザートは見た目は普通の2tトラックだが、中身は5人分の座席や電子機器が備え付けられ、移動や現地での指揮に用いられる。運転するのは乗り物ならなんでもござれのプリン。
「いつでもでられますよー」
「じゃ、アズキが来ればすぐ出動で」
指示を出しつつ、荷台に乗り込み座席につく。
「・・・お待たせ」
銃器を持ってきたアズキが乗り込み、荷台を絞めるとすぐに発信する。
「状況は?」
上から現場の資料なんかを取り寄せてるムースに状況を確認する。
ふむ、現場はマンションの一室。高層階。部屋の構造は、玄関から手前の海側まで部屋がみっつ繋がってる。犯人は複数名で、地元のチンピラっぽい。人質はお留守番してた娘が一人。現在のとこ目的など不明、要求もなし、か。
能力もわからないのはつらいけど、チンピラ程度ならまあ凄い能力持ちってことはないだろうし、なんとかなる、多分。
「現場からの追加情報だと、なんか、海の方に逃げようとしてたらしい」
ムースが無線で聞いた追加情報を教えてくれる。確かにここ、市道?だかの大きな道超えれば港あるけど・・・? あ、警察に追われてなすすべなくマンションに立てこもったパターン?
「なんか、警察が追って立てこもられるってパターン、最近多くない?」
私の問いにうなづくムース。職務怠慢というか、警察の質が落ちたというべきか。まあそんな感想はさておき。
「海で待っているであろう人たちの処理は私たちの仕事じゃないとして。立てこもり犯をきっちり捕まえましょう」
とりあえず、今は言ってる状況から作戦を立てる。
「アズキ、大通り反対側の家電量販店の屋上駐車場に行って狙撃準備ののち待機」
「・・・わかった」
「アイス、目標の屋上に行ってラペリング。ベランダ側から突入」
「了解ですっ」
「ムースはここから指示で、プリンはデザートの警護」
「ああ、わかった」
「はーいー」
「私は玄関側から突入するわね。銃器はアズキ以外サブマシンガンまでで実弾可ね。アズキはバレットなんかオーバーキルすぎるから417で実弾は禁止」
7.62mm弾だと、ある程度の距離の狙撃には向いてるけど、命中したときに肉片にしやすいのが難点だよね。
とかなんとかそうこうしているうちに現場の前の規制線まで到着する。
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「・・・配置、着いたよ。ゴム弾装填完了」
「こちらプリンですよー。ムースと共に配置完了ー」
「私の方もオーケーですっ」
アズキはHK417をバイポッドで固定し、ベランダから部屋をのぞく。ムースはデザートの中でコンソールに向かい、ムースはMP7のストックとグリップを展開し、周りに目を光らせている。アイスは屋上の壁にアンカーを突き刺し、目標がいる階の一つ上の階の壁に張り付いて突入に備えている。
みんな配置についたようだ。では、行こうか。
「じゃあ行くよ。スリーカウント。さん、にぃ、いち、GO!」
サイコキネシスをマスターキー替わりにして扉のノブ、蝶番を叩き壊し、扉を外して中に飛び込む。
中には拳銃を持った賊が三人いて、二人が発砲、一人は能力か手のひらに火の玉を出して投げつけてくる。熱くないのかな、あれ。
「せいっ!!」
掛け声と同時に空気を圧縮した壁を作り、拳銃弾と火の玉を止める。あの銃は、確か黒星だっけ。トカレフのコピー品でヤのつく自由業の人御用達のあれ。・・・横須賀に拳銃調達できる組織ってあったっけ?
そんなことを考えつつ、サイコキネシスで三人の体を操り、床に伏せさせる。そのまま手錠をかけて制圧。
「こちらモナカ、三人制圧。全員黒星を所持。ムース、警察を玄関から入れさせて」
「了解だ」
連行は警察の仕事なのでそちらに任せる。
「アイス、そっちは?」
「こちらは犯人一名拘束、人質はいませんっ」
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※アイス視点
「じゃあ行くよ。スリーカウント。さん、にぃ、いち、GO!」
通信機から聞こえるモナカさんのカウントに合わせて、アンカーを解除、それから私は能力で身体能力を向上させ、体全身をばねのようにしてベランダのガラスを蹴りでぶち破り、中に突入した。入りつつ中を見ると拳銃を持った犯人が一人。黒い拳銃ですね。
「っ!!」
慌てた犯人がこちらに向けて拳銃を撃ってくる。けど、そんなの身体能力を強化した私に通用するもんですか。
「はっ!」
気合を入れつつ、あるラノベで読んだ動きを参考にする。全身を使って早く動き、弾頭をそっと掴んで減速。それを繰り返す!!
「ば、ばけものめ」
カチッとスライドが後ろに動いたままで止まり、弾切れであることを伝える。
両手に犯人が発砲した弾頭を全部つかみ、手を開いてぱらぱらと落とすと犯人がそんなことを言ってくる。こんないたいけな娘にそんなこと言うとは、酷いです!
ちょーっとだけむかーっっときた私はそのままとびかかり、犯人の顔に飛び膝蹴りをくらわす。
「あがっ・・・」
鼻血を出し、前歯を数本折られた犯人はそのまま倒れこんで昏倒。
「女の子に化物なんて言った罰ですっ! しっかり反省してください!」
私は犯人に手錠をかけ、そのまま次の部屋へと向かう扉の前で待機する。
「アイス、そっちは?」
「こちらは犯人一名拘束、人質はいませんっ」
アイスさんからの通信に答え、身体能力をあげたまま待機する。さぁ、次に行きましょうか。
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※モナカ視点
アイスのいた部屋に人質はいなかった。
ってことは、後は私とアイスの真ん中の部屋に少なくとも人質がいるってことね。私はそのままベランダ側にある部屋に向かい、ドアの前で待機する。
「アイス、次の部屋に人質がいる。合わせていくよ。さん、にぃ、いち!」
アイスと同時に扉を開けて中に入ると、部屋の中に最後の犯人と人質がいた。
「おら動くなぁ! こいつがどうなってもいいのかぁ!?」
テンプレっぽいセリフを吐く犯人の手に握られた黒星の先に女の子の頭。非道な。
だが、そういうことをされると私もアイスも動けない。能力で犯人を抑えるより、下手すると拳銃が発砲されるほうが早い。
どうにか状況を打開しようと、目だけを動かして周りを見ると、ぎりぎりベランダから部屋の中の犯人のとこまで、一本のラインができてる。ここなら、通せる・・・?
私は左手をゆっくりと後ろに回し、アズキが気づいていることにかけつつ、ハンドサインで射撃の指示を出す。
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※アズキ視点
作戦が始まってから、屋上駐車場の壁にHK417を備え付けて待っていた私は、スコープから中の様子を見ていた。狙撃に必要な情報はムースから随時飛び込んでくるから、それに合わせてスコープに微調整をかけ続ける。本当は試し撃ちしたいけど、そんな贅沢は言ってられない。
スコープからはぎりぎり犯人が見え、人質に拳銃を突き付けているのがなんとか見える。正確には、女の子と黒い拳銃の銃身の先っぽとモナカの背中が見えるだけだ。もう少し動けば犯人も見えるだろうけど、その間に状況が動いたら何もできないから、動くに動けない。これなら、中で解決してくれると嬉しいかな。
とか思っていても現実は厳しいもので、モナカが背中に左手を回し、射撃しろのハンドサインを出してきた。
いや無茶言わないでほしい。狙撃用のスナイパーライフルではなく、持ってきているのはバトルライフルのHK417だ。少しでも射程を伸ばすために20インチバレルと長いサプレッサーをつけて、銃身下部に安定させるためのバイポッドと、その手前にフォアグリップ。サイドマウントにレーザーサイトとフラッシュライト。上部には高倍率スコープと、予備のアイアンサイト。そんな、マークスマンライフルとしか言えないやつで、精密狙撃なんかやらせないでほしい。今回はモナカの指示でこれを持ってきたんだし。
まあ、いくら心の中でごねても仕方がない。きっちり仕上げて、お詫びがてら、モナカの膝の上でゆっくり眠らせてもらおう。ついでになでなでも要求する。
「・・・モナカ、いくよ。・・・拳銃狙うから、減装弾にするね」
指示が伝わったことをモナカに伝え、まず能力を使って、薬室にあるゴム弾をソフトポイントの減装弾に変える。これで拳銃を破壊しつつも、犯人にはダメージを極力与えないはず。モナカからも後ろに回した左手のオーケーサインが来たから、これでいい。
すぅ、はぁ。すぅ、はぁ。んっ。
呼吸を整え、息を止める。トリガーをぎりぎりまで引いて、銃のブレを抑まって照準が定まるのを待つ。
サプレッサーがついているとは言え、減音器と訳せるように、音を完全に消せるわけじゃない。ゴム弾とは言え、7.62mmNATO弾クラスのデカい弾の飛翔音なんか聞かれたら即座に警戒される、つまり、二度目のチャンスはない。
スコープから見えるクロスヘアのブレを見ると、だんだん動きがスローモーションのようにゆっくりとなっていく。そして引き金を引き切るタイミングを決める。
・・・・・・・・・。今!
カチリと引き金を引き切る。固定されていた撃鉄が解放され、撃針を通って雷管まで叩かれ中の火薬に火が付く。スローモーションのまま、そのまま弾頭が飛翔し、発射時のガスでガスピストンが動作し遊底まで動く。そこまでを感じつつも、スコープで弾頭のいく先を見守る。
やった!!! 弾頭は狙った通り、拳銃の銃口付近に命中、銃口だけを破壊して止まった。
あとはモナカ、任せたよ。ご褒美、期待してるからね。
弾倉に入れてあったゴム弾が薬室に装填され、そのまま何かあった時の次射に備えながら、難しい狙撃を成功させられた余韻に浸る私、アズキであった。
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※モナカ視点
・・・? なんであの子、銃口なんて狙いにくいところ撃ったんだろう? まあ拳銃さえ撃てなくしてくれればそれでいいんだけど、人質に当たったら危ないんだけども・・・。なんなら薬室のあたり破壊してくれたらきれいに収まるのに。
とか考えつつ、人質に危害はもう加えられないので、サイコキネシスで拳銃を犯人から取りあげ空中に放る。
「アイス!」
「はいっ!!」
呼びかけただけで意図を察してくれたアイスが、手首に着けているアンカーで拳銃をキャッチし、手元に手繰り寄せる。
「うらぁぁあ!!」
私は掛け声とともに犯人から人質を奪い取りつつ、犯人に蹴りを叩き込む。そして床に倒れこんだ犯人にアイスが手錠をかける。
「大丈夫?」
「うえぇぇぇぇん、怖かったよぉぉぉぉぉ」
人質となっていた子に話しかけると、緊張が途切れたのか一気に泣き出した。よしよし、もう大丈夫だからね。
頭をなでてあやしていると、警察が犯人を護送しにやってくる。そのまま女の子も引き渡してしまえ。
「みんな、作戦終了。お疲れさま」
無線で全員に言うと、安堵の声やら色々聞こえてくる。さて、それじゃあ帰りましょうか。
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マンションから出ると、現場指揮をしていた警察のお偉いさんっぽい人がこちらに向かって会釈してきたので、会釈で返す。すぐにお偉いさんは現場指揮に戻ってしまったが、まあ感謝されるのは気持ちがいい。
「・・・モナカ、あんな難しい狙撃のご褒美を要求する・・・」
戻って来たアズキや、アズキのスコープから送られてくる映像を見てたムース曰く、展開した場所が悪く、射界は10cm程度だったらしい。これは大変なことをさせてしまった。
「ん、ありがとうね、アズキ。アズキのおかげで無事に終えられたよ」
ねぎらいつつ頭を撫でまわすと、猫みたいに目を細めて気持ちよさそうにしている。
少し撫でて落ち着いた後、私たちはデザートに戻って帰路につく。今日はもう外に出たくないし、何も事件なんかないといいな。
作戦中は犯人逮捕と人質救出にだけ集中し、終わった後は油断しきっていた私は、幻術で今までの行動をすべて見られていたことにもきづかず、まさかそれを見ていた人ならざる者が恍惚とした表情で悶えていたことなど、知る由もなかった。