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宅配ピザには毒が有る

※作者の趣味が如実に現れています。ご注意ください。


予想以上のブックマークを頂き、久しぶりに自分以外の人間との繋がりを感じられました。これが人の温もりなんだなって……。

「うひょーキタキタキター!」


俺は玄関で宅配ピザを受け取って、子供のように飛び跳ねた。

今日は母さんがパート、父さんはいつも通りハローワークへ職探し、妹は友人と遊びに行っているので、今、実家には俺しかいない。こういう日でなければ、ニートは出前を頼むどころか部屋から出ることさえ如何ともし難い。


俺は小さい頃から父母にジャンクフードの類を禁止され、国産の野菜と肉、そして健康に害は無いと親が判断した食材だけ食べることを許されていた。おかげで過度に太ったり痩せたりするようなことは無かったが(運動しなかったせいか身長は女性並であるが)、ジャンクフードへの憧れは日々増していった。そしてニートになった今、ジャンクフード熱が爆発し、家族に内緒でピザやハンバーガーを口にしているというわけで……


俺は満面の笑みでニートスキップをかましながら階段を上がった。伸びきった髪の毛を左右に揺らしながら二階の自室に舞い戻る。

熱々のピザを部屋の中央にあるテーブルに置き、「よいしょっと……」と座布団の上であぐらをかく。すると、尻の下で何か厚紙のようなものを踏んだ感触を感じた。腰を上げてその厚紙らしきものを拾い上げると『ソ●ー生命保険会社』という文字が目に入った。その書類には既に俺の名前が記入されており、後は本人の朱印を押すだけだった。


「あのババア! 俺を殺すつもりでいやがる!!」


俺は書類をクシャクシャに丸めてゴミ箱に放り込んだ。息子の部屋に侵入してまでこんな書類を残すとは……近頃あからさまな態度ばかりだ母さんは。これからは家族が淹れたお茶にも注意していかないとな。毒とか入ってるかも。


「全く……」


俺は一息ついてから、足元にあったペットボトルに口をつけた。喉をゴクゴク鳴らしながら、清涼飲料水を胃に流し込む。



ゴクゴクゴクゴk………………ん?



「ぶほっ!!!!」



俺はジュースと思しき液体を豪快に噴き出した。

「ぼえっ……ごほっ……ごほっ……」と呻きながら拭くものを探す。


あのクソババア! が●飲みメロンに毒入れやがったな!!腐ったタクシーみたいな味した!!!

手元にあったティッシュでテーブルを拭く。ありゃ、ピザの上にも被っちゃってるじゃないか……。


おそらくだが農薬の類か何かを仕込んでいたのだろう。全く、ニートを何だと思ってるんだ。虫じゃないぞ。親の遺産を食い散らかす意味では虫なのかもしれないけど……うん……。

母さんはこの書類を俺にサインさせた後、毒で意識不明にさせるつもりだったのだろうけど、残念だったね。この通りピンピンしてるぜ。……家族から殺意の対象にされて号泣しそうだけど。


とにかく、家族が殺害者になることを防いだ俺は人間的に満足し、気を取り直してからピザへ向かって手を合わせた。


このピザに辿り着くまでに自分を支えてくれたみんなを思い返す。


中学時代後ろから消しカスを投げてきた郷田くん

高校時代ニヤけながら尻を撫でてきた担任のホモ岡先生

高卒で就職した会社で女性社員からパワハラとして訴えられた課長

痴漢冤罪でリストラされた父さん

息子の命を狙う母さん

俺のオナニーを見た翌日から一切顔を合わせてくれない妹


全てに感謝して、噛みしめるように言うのだった。


「いただきます!」


ピザボックスの蓋を勢いよく開ける。

ご開帳されたピザくんは恥ずかしそうに汗をかいて、とても美味しそうだ。チーズの匂いとトマトの香ばしさが鼻腔をくすぐり、食欲を加速させる。


「ふひひ……美味しそうじゃないかピザちゃあん……」



涎を垂らしながら一切れのピザを持ち上げて、口の中に入れる――



直前に、恐ろしい仮定が俺の頭を過ぎった。




いや




ちょっと待て




このピザにも




毒が入ってるんじゃないか?





『自分の母親がピザの配達人に扮し毒を混入する』というあり得ない仮定を、明確に否定できないのがもの悲しい。


俺は右手に持ったピザをじっとりと観察した。


人肌のように滑らかな裏生地

焦げ目のついたカリカリの耳

トマトの上に乗っているトロトロの北海道産チーズ


……何もおかしいところは無い。しかし、おかしいところが無いのがおかしい。決定的におかしいところがあれば考察の材料になり得るのだが、こうおかしいところが無いと逆におかしいというものである。そもそもこれがおかしい場合、おかしいおかしさとはおかしいとは一線を超えるおかしさなのだから、やはりおかしいと考えること自体おかしなおかしさを含んでいるのだろう。



うーむ……



顎に手を当てて目を瞑る。



まぶたの裏側で思考が一巡した後、俺はゆっくりと目を開いた。そして、辿り着いた真理を誰に言うでもなく言霊で表す。



「おかしいって何だ……?」


ゲシュタルト崩壊した「おかしい」について独り感傷に浸っていると、どこからともなく、おかしい女性の声が聞こえてきた。



「アンタのことを言うのよ、ヒキニート」


罵詈雑言でもよろしいのでコメントや評価をしていただければ、作者が公園で1人シーソーするレベルで喜び狂います。

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