こんにちわオーク。さようなら人生。
※作者の趣味が如実に現れています。ご注意ください。
俺は呆けたように空を眺めていた。
雲の下を迂回する名も知らぬ鳥を眺めていた。
ようく考えたら俺を捕まえるメリットなんて無いはずだ。他人にとってニートという名分を持った俺は、石ころのような存在のはず。だとしたら犯人は身内? ニートを荒療治するために俺の愛する家族がこんなことするわけが……いや、するかもしれないな。昨日母さんが生命保険の加入を俺に勧めていたし。そういうのだけは敏感な俺はもちろん断ったけど。もしそうだとしたら……父さん、母さん、地獄でお前らを待ってるぞ。
沸き上がる悲しみや寂しさに耐えながら、ひたすら時に身を任せる。
そして何時間ほど経ったのだろうか? 森の中腹から、何十羽と鳥たちが唐突に飛び立つ光景を目にした。
ボーッと、バサバサバサと不可解な羽音を奏でる鳥達を見据えていると……
遠くから足音が聞こえてきた。
『ズーン……ズーン……』
と、何メートルも距離があるはずなのに、地を這ったその轟音が、俺の尻元まで伝わってくるのを感じた。
「何か……来る……?」
口角を引きつらせながら、轟音のする方向に目を向ける。
よし、もし俺を捕まえた野郎だったら、焼き土下座でも何でもかまして何とか命だけは助けてもらおう。「性奴隷でも何でもやりますからあああああ!!」 とテンプレみたいな泣き声を上げれば、「堕ちたな……」と察してくれて枷を外すはずだ。その隙に逃げ出して警察署に駆け込んでやる。エロ同人を読み漁っておいて正解だったな……我ながら完璧な計画だ。
足音の持ち主の姿は、森の影に遮られてよく見えない。俺は手錠を掛けられながらも正座の格好になり、土下座の練習をしながら彼の姿が明らかになるのを待った。
待ったと言っても幾秒である。
繁った木々を抜けて現れた彼の姿に目を向けると──
オークがいた。
最初は「世界屈指のボディービルダーかな?」と首を傾げたが、それは違った。
普通の人間の二倍はあるような巨体を持ち、肌の色は薄緑色で森と同化している。首がどこから生えてるのか分からない程に筋肉が膨張していて、上半身は当然のように裸だ。腰には土で汚れた布を纏っていて、ポケットがある。あの中には人間の顔の皮とかがコレクションとして収められているのだろう。
そして、これで何人もの人間の頭蓋骨をかち割ってきたのだろうと予想できる巨大な薪割り斧を背中に担ぎ、右手には藁で編まれたような、彼には似合わない箱を持っている。人から奪い取ってきたのだろうか? あの中には人間の臓物とかがコレクションとして収められているのだろう。
俺は二度見三度見を繰り返しながら「ちょっとゴツいボディービルダーであってほしい」と願ったが、どこの世界に緑色でボディペイントしたほぼ全裸推定身長3メートルの恵まれた巨体を持つボディービルダーがいるのだろうか。いるとしたらそれは幻想世界に登場するオークそのものだ。つまりオークだ。
俺は顔面蒼白になり、口が半開きのまま、三秒ほど硬直した。
変態カニバリズムおじさんの方が数百倍もマシだと思われるオークおじさんは、こちらにゆっくりと近付いてきている。まずい、まずいと口走りながら手枷を引っ張るが動くはずもない。あんな巨漢の性奴隷になってしまったら、逃げるどころか堕ちるところまで堕ちるんじゃないか?
俺は白昼夢で想起する。女騎士がオークから性欲の限りメチャクチャにされ、オークの腰の上でアヘ顔ダブルピースという醜態を晒す1コマを──
「いやじゃああああああああ!!!!」
突発的に、泣きじゃくった喘ぎを上げた。
すると、俯きながら歩いていたオークさんは俺の存在に気付き、こちらを見て不気味な笑みを浮かべた。
「しまった!」と思った時にはすでに遅し。
オークは踵を切って走り出した。俺という餌を見て、それはそれは嬉しそうに猛烈ダッシュで距離を詰めてきている。
恐怖で奥歯がカタカタと揺れて、顔が青くなる。彼が地を踏むたびに振動し、俺の身体全体が宙に浮いたり落ちたりした。
想像してほしい。
拘束された状態で、目前から超巨大なオークが襲いかかってきているのだ。
失神するに決まっている。
ふらりと頭が揺れて、姿勢が崩れる。
迫り来るオークを捉えた視界が、暗闇に包まれていく。
花のささやきや
川のせせらぎや
木々のざわめきが
三半規管からゆっくりと距離を取っていき
やがて、俺の意識は完全にシャットダウンし、気を失うのだった。
そして、やっと、走馬灯となって己の脳内に思い出される。
──封印されし魔王(女)に転生したという事実を
罵詈雑言でもよろしいのでコメントや評価をしていただければ、作者が路上でバク転するレベルで喜び踊り狂います。