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魔法世界のウイッチーズ  作者: イツキロッカ
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第8話「亡霊」

 ゲームセンターを出ると、快晴だった空は一変して雨が降りそうな程黒々としていた。

 その所為なのか、商店街に居た人達は姿が見えずガランしている。

 環薙は、この奇妙なまでの静けさに心当たりがあった。


(きっと、また彼奴が来たんだわ……)


 彼奴とは魔族党が一人ファティル・ヴィタァである。

 周囲を見渡すがそれらしい影は無い。

 今の内に凛恵を帰さなくては……と、そこでふと気付く。

 凛恵が人払いの効果を受けていない事に……。


「環薙、怪しい気配を感じる。気を付けろ……」

「へ? あ、うんっ」


 一瞬彼女の事を疑ってしまった自分が情けない。

 被りを振ってもう一度周囲い気を配った。


「む、何奴……ッ!」


 凛恵が一瞬、何かの動作をすると空気が破裂した様な音がした。

 見ると、黒い靄みたいな物が蠢いている。

 その靄は、一度気付くと降り出した雨の様にそこら中に湧き始めた。


「……今までと、違う……?」


 今までは黒いローブを羽織ったファティルが荒々しい声をわざわざ掛けて襲って来たのだが、環薙は初めての現象に戸惑っていた。


「来るぞ……!」


 凛恵の言葉にはっと顔を上げる。

 黒い靄は渦巻く様な動作で迫って来る。

 天照を……そこで、凛恵という存在を思い出す。

 そんな事したら、友達では居られなくなってしまうのでは無いか?

 そんな一瞬の躊躇が環薙の動きを止める。


「環薙? ……ハァッ!」


 横目で様子を見た姝刄が環薙を護るように立ちはだかる。


「私の魔法は少々鋭いぞ?」


 姝刄は居合いの構えを取りながら黒い靄へと鋭い視線を送った。




 凛恵は視線を動かし、実態の無い黒い靄の数を数える。


(ざっと20くらい……か。どの様な魔法かは分からないが私が環薙を護らなくてはな……)


 恐怖で体が動かないのかもしれない。姝刄はそう考え、出来るだけ安心出来る様に環薙を背中へ隠した。


 ヒュン。ヒュン。と黒い靄が近付く旅に心地よい風切り音が響く。


 それは、凛恵の魔法ーー動作最適化(オプタマイズ・パフォーマンス)

 この魔法は、ある動作を記憶させそれと同じ動きが出来るというものだ。

 凛恵の動作最適化には、凛恵の父から教わった居合いの型が記憶されている。

 魔法で極限まで高めた居合いは、空を裂き、衝撃を放つ。

 惜しむらくは、彼女の愛刀を今出す訳には行かない事か。


 だが、いつまでもこうして居るわけには行かない。


 凛恵の魔力にも限界があるのだ。

 凛恵は自分の魔力限界を危惧すると環薙の手を引いて走り出した。


「行くぞ環薙。此処では分が悪い!」


 如何にかして護らねば、例え醜悪な姿を友に見せる事になっても。




「くふふ、愉しいわぁ……」


 魔族党が一人リリィ・リヴィディネムは愉快に笑った。

 彼女は遥か上空で環薙達の様子を観察していた。

 あの黒い靄、それは彼女のマレフィキウムの能力の一部だった。


 悪霊。


 彼女の能力は幾らでも黒い靄、悪霊を産み出す事が出来るという能力で、今は様子見……というか遊んでいるだけなので浮遊させているだけだが、真の能力は……呪い。

 触れた相手を一時的に硬直させる。


「でも、追いかけっこも飽きて来ちゃったわね……そろそろ、行こうかしら?」


 豊満な体を揺らすと、彼女は二人に目掛けて降下した。



「はぁ……はぁ……」


 環薙は手を引かれて走っていた。

 そして、その手を見て悔しさが滲む。


(何で、こんな時ばっか襲って来るのよ……)


 折角の友達との1日だったのに水を刺されてしまった。

 この間もそうだ。折角の真中とのデートは半日しか出来なかった。


 だが、いつまでも悔しがっている訳には行かない。

 何故か黒い靄は店の入り口を漂っていて横への移動は許してくれなさそうだ。

 寧ろ、何処かへ誘っているかのようだ……。


「む、入り口に来てしまった……」


 凛恵の言う通り、とうとう商店街の入り口まで来てしまった。

 すると、ゲートの上にはためく黒いドレス姿の女性が声を上げた。


「くふ、くふふ……ごきげんよう環薙ちゃん。私は魔族党(アスモディアン・パーティ)が一人リリィ・リヴィディネムですわぁ。お見知り置きを……」

「やっぱり、あいつの仲間だったのね……っ!」

「知ってるのか環薙?」

「う、うん……私を狙ってくる変態集団よっ」


 環薙がそう叫ぶと、リリィは手を口に当てて目を丸くする。


「あら心外ですわぁ……変態はファティルだけでしてよ? くふふ」

「皆同じよ! 何で……何で私を襲うのよ……」

「特別な力を自覚しながら使わないというのは、罪というものですわよ? まあ今日私は遊びに来たのですけど……」


 リリィが言い終わると、黒い靄が集結しリリィの周りを徘徊し始める。


悪霊顕現(マレフィキウム)ッ!」


 彼女の美声と共に空から一段と質量を持った靄が降って来る。

 その靄はその場でコイルの如く螺旋すると、中央からリリィに良く似た美少女が現れた。

 紫の揺らめく長髪に、肉感的な足には蛇が絡み付いているのが特徴だ。


「さぁ、遊びましょう? このリリスと共に……」


 リリィはそう言って口角を吊り上げるのだった。


 環薙はすぅと息を吐いて、ゆっくりと息を漏らす。

 マレフィキウムを出されたらもう対抗出来るのはマレフィキウムだけだ。

 環薙は凛恵に嫌われる覚悟でその一言を発する。


化身顕現(マレフィキウム)!」


 環薙の呼び声に応じた太陽の神、天照が曇天の空を割って登場する。


「ごめんね、凛恵。私……魔女なの。騙してて、ごめんなさい……」


 環薙は懺悔する。

 自分が魔女という化け物だと、そして、それを隠しながら(おこ)がましくも友達になろうとしたことを……。


「何を謝る必要が有るのだ?」

「…………え?」


 だが、返って来た言葉は凛とした凛恵の言葉だった。


「隠し事など誰にでもある。それに、寧ろ私は嬉しいぞ。環薙も魔女(ウィッチ)だったのだな」

「……も、って……ええ!?」


 環薙の狼狽の声に凛恵は何も返さない。

 ただ、彼女は隣で戦う為の力を示すだけだ。


魔装着装(マレフィキウム)!」


 凛恵の弾ける声に空間が振動する。

 輝く白い光が彼女を覆い、白銀の胸当て、籠手そして草摺の順番に顕現して行く。

 そして、空を両手で掴む様なポーズを取ると、そこへ一本の大太刀が現れる。


「……私こそ黙っていた。この西洋に身を包みながら獲物は東洋の刀という……どっち付かずのマレフィキウムは余り好きでは無いのだが……友を助ける為ならば、最初から出すべきであった。そうだろ、村正?」


 凛恵の言葉に呼応するかのように、村正から紫電のオーラが吹き出る。


「凛恵も私と一緒だったのね……私もそう。貴方に嫌われたくなくて今まで出せなかった……そんな弱い自分が恥ずかしい」

「ふふ、なら私達は似た物同士だな。共にあやつを倒すぞ、環薙!」

「うんっ!」


 元気を取り戻した環薙と凛恵はリリィに相対する。

 最初に動き出したのはリリィだった。


「くふふ、魔装ごときじゃ顕現に勝てない事、教えて上げるっ……リリス、招霊誘縛(ゴースト・ストラッピング)!」


 リリスが黒い靄を二人に向かって誘導した。

 黒い靄、亡霊達は雄叫びを上げ肉薄する。


「私が切る。環薙は本体を撃て」


 勢い良く飛び出した凛恵は正宗を構え見えない程速い斬撃を繰り出し、亡霊を切り裂いた。


「今だ、環薙!」

「うん! 天照ーー日輪!」


 凛恵が作ってくれた隙に輝く光の輪から光の砲撃を放つ環薙。

 収縮された光は一直線にリリスに向かう。


「くふふ、瘴壁(ミアスマ・ウォール)


 しかし、塊となった亡霊が受け止めてしまう。


「くっ、動けん……」


 そして、隙を作ってくれた凛恵もリリスの技、招霊誘縛(ゴースト・ストラッピング)により体の自由を奪われてしまっていたのだ。


「二体一は疲れちゃうし、ご退場願おうかしら? 収悪霊砲(コントラクション・イビル・スピリット)!」

「ーー凛恵!!」


 集った漆黒の悪霊達が砲撃となって空を飛んだ。

 未だ動けない凛恵は、全魔力で障壁を作り防御に回す……が、圧倒的な力の前に為す術なく障壁は散った。


(すまない、環薙……)


 闇に呑まれるその中で、護りきれ無かった友へ凛恵は謝った。

忙しくて更新忘れそうになります(>_<)

来週から土日に一気更新スタイルにするか悩み中です。

明日も午後17時更新予定です!

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