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魔法世界のウイッチーズ  作者: イツキロッカ
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第五話「日常」

 

「だぁああああ、くそ! 寿命が5年は縮んだぞ!」


  魔族党(アスモディアン・パーティ)の本拠地。ファティルは頭をぐしゃぐしゃに掻きながら叫んだ。


「あらあら、誰にやられちゃったのぉ? 坊ちゃんをやれるやつなんてそうは居ないと思けど……?」


 溢れんばかりの肉体を持つ女リリィ・リビディネムはファティルにそう尋ねた。

 そんなリリィにやりずらそうな顔を作ったファティルは舌打ちをして答える。


「一之瀬環薙。それと変な男だ」

「ああ、あの人の……まだやってたの? あの茶番劇」

「煩ぇ……」

「早くしないと魔女の夜会に間に合わないわよ?」


 ファティルは何も言い返さない。

 そこに、とある人物がやってきた。


「どうだね? その後の様子は?」

「一之瀬さん……すみません。連れて来れませんでした」


 荒っぽいファティルが恭しく挨拶をする。


「……今までご苦労ファティル。僕が人伝に入学させた学校、彼処ではもうすぐ〈魔道祭〉が始まるからね、実力を図るには打ってつけだ。……娘の運動会を楽しみにしない父親はいない、次は僕が迎えに行こう。リリィも行くかい?」


 リリィは暫く考えた後、口元を釣り上げて言った。


「ふふぅん。面白そっ……」


 ファティルはリリィに目を付けられた真中に「ざまぁみろ」とほくそ笑むのだった。






 五月も後半になり、じめっとした蒸し暑い日も増え梅雨の到来を示唆していた。

 ファティルとの戦いの後、ファティルは二度と目の前に現れる事は無かった。

 だが、困った事に、違うものと毎日顔を合わせる事になってしまったのだ。


 それはーー


「おはよう、真中っ」


 そう、一之瀬環薙(いちのせかんな)である。

 住む場所が決まって無かった環薙は、真中の立派なマンションに連れて行って貰った時、憧れの独り暮らし像とピッタリ当てはまっていて驚いたのだ。

 そして、真中との同棲暮らしを想像し、環薙は真中に説得を始めた。


 ファティルにまたいつ襲われるかコワイナー。

 住む場所決まって無くてフアンダナー。

 真中のお家ステキダネー。


 真中は演技が下手な環薙の必死のアピールに、最後は「空いてる部屋に住むか?」と聞いてしまったのだ。

 そして、二人は、いつファティルが攻めに来ても対処出来る「という名目で」同棲を始めたのであった。


「おはよう環薙。今日の朝飯は何だ?」

「ふふん、今日は目玉焼きでーす」

「今日も……か。はぁ……」

「なーに? 真中は目玉焼きやなの?」

「嫌じゃねぇけど……たまには違うのが食いたい時もあるっつーか」

「ま、まだ練習中だからもうちょっと待って! ……真中には、一番美味しく出来た奴食べて欲しいから」


 後半小さくて聴こえ無かったが要は、料理が苦手なのだ……。

 それでも毎日キッチンに立ち、新しい料理に挑戦する心掛けは良いが、今だ目玉焼き以外食べた事が無い。


「ま、いいや。頂きます」


 元々果物以外に苦手な食べ物が無い真中は、食えれば良いや精神で目玉焼きを頬張る。


(お……半熟になってる)


 日々精進。

 環薙は真中の「半熟が良い」というリクエストに応えられるようになっていた。


「やるな環薙、美味いぞこの目玉焼き……」


 素直に褒めると環薙は「えへへ……」とはにかむのだった。



 学校の支度をし、二人でマンションを出る。

 鍵を締めるのは最近だと環薙の仕事になっていた。

 合鍵、いつの間に作ったんだろう……。


 学校に向かう途中、真中は前から聞いてみたかった事を尋ねてみた。


「そう言えば環薙は何であの学校に転校して来たんだ?」


 環薙は「うーん」と少し考えると


「力が欲しかったのもあるんだけど……誰かに助けて貰いたかったのかも。なんてねっ」

「環薙……」

「えへへ、ちゃんと願い通り誰かさんが助けてくれたから来て正解だったのっ」


 小さな体でぴょんぴょこ元気ですよアピールする環薙。

 どれだけの苦しみと戦って来たかを考えた真中は、何があっても味方になってやろう……そう、決意した。



 学校に着くと、生徒達の活気ある掛け声が耳を突き抜ける。

 真中は、そういやもう直ぐだな……と、思い老けていた。

 去年のこの時期も全校生徒がより、魔道の練習に明け暮れていた。

 何故なら、生徒同士がペアを組んで闘う魔道バトル〈魔道祭〉が二週間後に控えているからだ。

 完全に忘れていた真中だが、真中はまったく出る気が無いので悠々とクラスに着いた。


 ーーしかし、


「来週の〈魔道祭〉は二年生以上は絶対参加なので早めにペアを組んで下さいね?」


 担任の藤本先生は確認をとる。


 ーーんな!?


 真中は驚愕する。

 絶対、参加……だと……。


「なあ、そんなこと言ってたか?」


 後ろの席の環薙にこっそりと聞くと


「え? 言ってたよ……?」


 と普通に返されてしまった。

 恐らく真中が爆睡していた時に知らされたのだろう。


(やばい、今から組む奴なんて残ってねぇぞ……最悪、尼織の相方を病院送りにして……)


 なんて物騒な事を考えていると。


 つんつんつんつん。


 背中に4回、可愛いらしい感触が繰り返される。

 振り向くと、環薙が期待と不安を混ぜた表情で聞いて来た。


「真中は……誰かと組んでる?」

「いや、さっぱりだ……絶対参加なんて始めて聞いたしな」

「そっか……じゃあ、私と組む?」

「まだ決めてなかったのかっ! じゃあ頼むな一之瀬」

「うんっ」


 HR中なので、そのやり取りを終えると前に向く真中。

 真中はクラスの連中に悟られないように学校では名字で呼ぶが、それはどうやら無駄に終わりそうだ。

 後ろでは環薙がちっちゃくガッツポーズをしたのを見て、近くの席の奴は驚いていた。


(あの一之瀬さんが人と会話してる……!?)


 しかも、何だかカップルみたいなやり取りをしている。

 これ如何にと、女子生徒はクラスの女子にタレコミした。

 二人の関係性が囁かれるようになるのは一瞬の事だった。


 昼休みにもなると、クラスの女子共が環薙を囲い、情報収集のため群がっていた。

 同じ目に会いたくなかった真中は助けを求める環薙に片手で謝って教室から退避した。


 購買で惣菜パンを2、3個と缶コーヒーを買うと、天気が良く気持ち良さそうな外へと繰り出した。

 備え付けのベンチに座り、パンを貪る。


(そういや、環薙が来てから一人になるのって久し振りだな……)


 思い返すと自分はボッチという奴だったんじゃないかと思えて来て首を振る。

 今はこの晴天の空と清々しい春風を楽しむのだ。

 と、目を瞑って日差しを浴びていると……。


「誰か分かるか?」


 ふと瞼に影が落ちた。

 塞がれた視界で情報は音だけだが、真中には直ぐに分かった。


「なんだよ姝刄?」

「凛恵と呼べと言ってるだろう……まあよい」


 姝刄は手を退けると隣へ座った。

 そして、勝手に真中が買ったパンを開けて食べ始めた。


「おいおい、俺が買ったパンだぞ……」

「うちでは、この様なへんてこなパンは食べる機会が乏しい。許せ、代わりにこれをやる」


 渡されたのは手作り弁当だった。


「お主もこんなものばかり食べてると、身体に悪いぞ?」


 にかっと笑って言う姝刄にドキリとする。言葉遣いはへんてこだが見た目は可愛いのだ。

  真中は返答の代わりに弁当を開ける。

 中には卵焼き、ミニトマト、唐揚げ、ハンバーグなどが入った、真中の好物弁当だった。


「おぉ美味そうじゃねぇか!」

「そうであろう、私が作ったのだ」


  胸を張って言う姝刄に「へぇ、意外だな」と返すと少しむっとするが、直ぐに食べ始める真中の様子を伺った。


「じゃあ食うぜ? いただきます……もぐもぐ、うめぇっ」

「ふふっ」


 完食して缶コーヒーで一息ついていると、尼織は元気無さそうに尋ねてきた。


「……お主は転校生の事をどう思って居るのだ?」

「ブフっ!? ……ゲホッ、コホッ……ったく妙な事を聞きやがって。何とも思ってねぇよ」


 唐突の質問に缶コーヒーを喉に詰まらせる。

質問には素直に返してやる。


「では、あ、逢引とやらはしてないのだな?」

「あ、合挽き……? 別に付き合ってるとかじゃねぇよ」


 変な詮索する尼織にぶっきらぼうに答える。

 すると、さっきの元気を取り戻し、柔和な笑顔を浮かべた。


「そうか、すまなんだ。私は周囲の真しやかな噂話を聴いて、早とちりしてしまった様だ……すまない真中」


  らしくなくしゅんとした表情を浮かべる姝刄。

  真中は珍しく思いながら、なんだか仔犬の様に見えて頭に手を乗せた。


「う、な、何を……はふぅ……」


  少し狼狽えるが、直ぐに大人しくなった。


「気にすんな、俺とお前の仲だろ……な?」


  されるがままの姝刄に笑って言い聞かせると姝刄は頬を真っ赤に染めて素直に頷いた。


「……うむ!」





明日は21時に一本投稿します。


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