恋人の友達
出発から二十分ほど経った頃、校門が見えてきた。比較的新しい建物みたいだった。
ジャスティンによるとこの高校は日本的ではなくて、今まで通り全ての授業が移動教室でありクラスは存在しなかった。だから私は自然に溶け込むことができるかもと感じた。
門をくぐり学校の敷地へと足を踏み入れる。緑が多く、中庭も見える。綺麗な学校で良かったと、私はほっとした。
私は手続きを済ませるために一旦職員室に寄った。その時もジャスティンは一緒に来てくれた。教員のくだらないジョークを小一時間受け流して、二時限目からは皆と同じように授業を受けることになった。
私とジャスティンで哲学の授業が行われる教室へ向かう。私はここで異変に気がついた。
何故かすれ違う人がジャスティンに向かって「おはよう、ジャスダック」と挨拶している。皆が名前を間違えてる。私はジャスティンに理由を聞こうとしたのだが、その時にはジャスティンはもう教室に入室していて、そそくさと席についてしまったから聞けなかった。
私がジャスティンの左隣の席に着いた瞬間、チャイムが鳴った。すると教師が教室に入るのを押しのけて数人の生徒が入ってきた。そしてそのうちの一人の女の子が私の左隣に座った。
茶髪でロングヘアーの左隣のその子は授業中にひっそり話しかけてきた。
「あれ、ひょっとして転校生?」
私は同じように小声で応えた。
「うん、そう。よろしくね」
「ジャスダックから聞いてる。毎日、彼女が彼女がって本当うるさくて」とその子が呆れた様子で言ってきた。
どうせ私が毎日バナナを一房たいらげる秘密でもバラしたのだろう。私はジャスティンを疑いの目で見た。
するとその子は続けて言った。
「私、ナオミ。この学校の校則以外なら何でも知ってるから分からないことがあったら何でも聞いて」
私のこの子の第一印象は、サバサバしたお嬢様。今まで接したことのない類の人種だが、初日で話し相手ができて少し安心した。
それから退屈な授業中、彼女とずっと喋っていたが、遂に不思議に思ってたことを聞いてみることにした。
「あのさ、疑問に思ってたんだけど...何で皆ジャスティンのことをジャスダックって呼ぶの?」
「それは彼が株式売買が好きだから」
私は高校生で株に手を出したらしいジャスティンに衝撃を受けて言葉を失った。
そんな真に受ける私を見てナオミは慌てて言い直した。
「冗談だよ!本当の理由はね、彼がアヒルの真似が上手だから!あるパーティの時、彼はそれを披露したの。それがいい具合にスベって、それから彼のニックネームはジャスダックになったってわけ」
私はなんだか複雑な心境だった。自分の彼氏を自分以外の人が馬鹿するのはあまり心地良いものではない。
それからナオミは少し声を大きくして言った。
「ねぇ、ジャスダック。久しぶりにダッグの真似してよ!」
ジャスティンは恥ずかしそう。照れた彼はいつにも増して可愛く見えた。
「勘弁してくれよ」
さらにナオミは教師に聞こえない限界の声量で言った。
「みんなー、ジャスダックがダッグの真似をやるらしいよ!」
ジャスティンは呆れた顔見せたあと、何かを悟ったように生き生きとした様子で言った。
「そうだ、もっと面白い真似を出来る奴を知ってるよ。カシカって言う子が鰍の真似が出来るらしいんだ!」
ジャスティンは私を売った。私という証券をいとも簡単に上場した。私には彼の考えていることが分からない。私は鰍の真似なんてできない。そもそも鰍が何なのかも分からない。
こうして私が呆気に取られていると、終わりのチャイムが素っ気なく鳴った。