コンプレックス
春休み中ずっと、こんな調子だった。街を歩いて案内してはくれなかったけど、それなりに充実した日々だった。
そして遂に迎えた登校日。いつもなら緊張しすぎて正露丸の持参が必須だったけど、ジャスティンが傍にいたから安心できた。
真っ黒の髪に真っ黒の瞳に真っ黒の制服。何かが足りない。私は小さな脳で熟考した。しばらくするとあることに気がついた。抜け感が足りないのだ。だから私は片手に持ったバナナで抜け感を演出して家を出た。
するとちょうどその時、ジャスティンが私の家のドアの前に立っていた。私は慌てて「びっくりー!」と言った。するとジャスティンは冷めた声で言った。
「カシカ、メイクしてるだろ?」
「うん、してるけど...」
「やめておけ、日本じゃ清潔感が大事なんだ、それじゃ浮いてしまう」
「メイクしなくても浮くし、それに...」
少し沈黙が続いたあと、ジャスティンが言った。
「それに?それに何?」
私は言いたくなかったが、意を決して言った。
「恥ずかしいの!本当の自分を見せるのが嫌なの!」
ジャスティンは冷淡に言った。
「何で?」
「だって...顔がコンプレックスだから。絶対馬鹿にされるもん」
私は言うのが怖くて、せっかくの化粧した真っ白の肌に涙を流した。
「塗りすぎだよ。俺はありのままのお前が好きだ。誰がなんて言おうと、お前は綺麗だ、俺が保障する」
それでも私は不安だった。すると彼は、そんな私の姿を見て大声で歌い出した。
「分厚いファンデーションは肌色消して
真っ白な世界に一人のあなた
ハリが心にささやくの
このままじゃダメなんだと
角質傷つき誰にも打ち明けずに
悩んでたそれももう止めよう」
私は思った。何処かで聞いたことある。でも思い出せない。ジャスティンは歌い続ける。
「ありのままの素顔見せるのよ
ありのままの自分になるの
何も怖くない 汗よ吹け
少しも恥ずくないわ」
それは将来の自分が聞いてそうな歌だった。この時はまだ知らなかった。この曲がのちに松たかこ的に有名になるなんて。
気がつくと私は、雪のようなファンデーションを無心で洗い流してた。
「何やってたんだろう私。そうよ、ありのままの自分になるの!」
私は急いでジャスティンの元に戻り笑顔で「遅れてごめんね」と言った。