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カシカ1 歪んだ真実  作者: 丸三角死角
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変化の兆し

私の名前は丸三(マルスリー) 角死角(カシカ)。出身地はイギリス。父のハロルドと母の玲奈との間に産まれた、イギリスと日本のハーフだ。念のため言及しておくが、ハロルドがイギリス人で、玲奈が日本人である。


父は貿易会社に勤めていて稼ぎが多いため、私が産まれた時から家は裕福であった。


でもそのせいで幼い頃から出張ばっかりで、一つの土地に長くとどまることはなかった。友達をつくってもすぐ離れ離れになってしまう。だから家は裕福でも私の心は貧しかった。困窮の極みだった。


あれは小学校の低学年のこと。引っ越し先のスウェーデンで私は初めて虐められた。私は幼い頃から陽気で、相手の気分を汲み取れないことも多く拒絶されることも多かった。だから、私は誰にも受け入れられないんだと悟り、塞ぎ込むようになった。それからずっと、私は下を向いて生きてた。


しかし当時高校生になっていた私に転機が訪れた。それは日本への引っ越しだ。もうこの頃になると転校なんて別に気にしなかった。環境の変化にはすっかり慣れていたし、ちょうどこの時もいじめられていたし。


その時のいじめの原因は多分、私の容姿にあった。私は黒髪で、前髪はおでこがかなり見えるくらいの短さで、毛先は直線に揃っている。瞳も眉毛も黒。目は大きくて、イギリス人と言えばそう見えるし、日本人と言えばそう見えるような中途半端な顔つき。だからどこにいても浮いてしまう。


私はいつものように、誰かに見送られることもなく飛行機に乗った。今でもあの時の出来事は鮮明に覚えている。


私の席は二つ座席が並ぶ列の通路側にある席だった。家族とはバラバラの席だったからとても不安だった。自分の席に向かうと、窓側の席に同い年くらいの男の子が座っているのが見えた。金色の髪にグレーの瞳をした、いかにも英国人って感じの子だった。でもその男の子、どこか変。その子は右手で左の肩甲骨を掴んで、左手で右の肩甲骨を掴んでいた。すっかり内気になっていた私も流石に無視するわけにはいかなかった。


「何やってるの?」


久しぶりに自分から誰かに話しかけた気がする。


「こうすると安心するんだよ」


日本に向かう飛行機の中で、二人一緒にそのポーズをした。そしてそのポージングのまま、会話した。「何のために日本に行くのか」とか、色々。


話を聞くと、その男の子は数年前から日本に住んでいて、私が住む家の近所に住んでいるらしかった。日本でもいじめらるんだろうな、と憂鬱だった私は彼のおかげで少し元気がでた。


私は隣に座っているこの男の子に恋をした。その男の子というのが、今の私の恋人であるジャスティンだ。


あの飛行機での出逢いで見違えるほど性格が明るくなったとは言え、心の闇がすっかり消えたわけではなかった。幼い頃に負った傷は、死ぬまでその人の心を蝕み続けるのだ。


鏡を見れば未だに悪魔が見える。この顔で歩こうものなら通行人は興味津々にこちらを見てくる。自意識過剰なんかじゃなくて、事実。


日本にいる時はイギリス人のように扱われ、イギリスにいる時は日本人のように扱われた。どこにも馴染むことはできなくて、誰とも深い関係になることはなかった。


私に話しかけてくる人といえば盛りの男くらいで、他は私の顔を見れば私から離れてゆく。私はコンプレックスの殻で心を閉ざすことを覚えた。でもそんな私をジャスティンが時間をかけて、着実に変えてくれた。

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