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密談

竹聖高校は予想通り、歩いて30分くらいのところだった。緑園学院の校舎の北側、つまり正門側に月山追い祭りの開催される月山があり、その月山を越えたところに竹聖の洋風の校舎が立っている。現在、月山は北側に竹聖、南側に緑園学院、東側に建芸、西側に三葉、この4つの学校によって完全に支配されていた。月山は急峻な坂道の続く山道なので、日頃このルートを歩いている人は珍しいが、9月から10月にかけてはもはや各高校の部活動生しか見当たらない。竹聖の校舎内に入った。警備員に挨拶をした。立派な建物だ。グラウンドの方に回った。そこにはいくつかのサークルが組まれていて、部活動のミーティングかアップ中だと思えた。陸上部を探すと、一番手前のサークルにいるとわかった。そこに室崎のつんとした前髪が見えたからだ。室崎も永瀬と同様、同じ中学の同級生だ。俺の顔くらいは先方に覚えてもらえているだろう。クラスも2度同じだった。

「東、なんでここに」

幸い、向こうの方から気づいてもらえた。周りの部員達が怪訝そうに俺の方を見た。

「事情徴収だよ。ちょっとだけ時間、いいか」

周りの視線が痛かったので、室崎を無理矢理引っ張り出す。サークルから少し距離をとった。

「赤松のことだろ」

「宮池みたいに察しがいいな」

誰やねんと関西弁で室崎が言った。

「その話、聞かせてくれ」

「警察みたいだな。まあ、別に悪いことしてるわけでもねえしいいけど、で、どっちの話を聞きたいんだ」

選択肢があるのか。

「いい話の方で」

「何も知らんのか。赤松、妹か姉かどっちの話かと聞いたんだよ」

俺は雷をくらったような衝撃を覚えた。そうか、そういうことか。赤松は姉妹だったのか。

「なんだ、その変な顔。そんなんも知らんのか。刑事失格ですな」

「いいから続けてくれ」

俺は室崎の冗談を聞き流した。以前の室崎よりも随分、明るい性格に変わっているように思えた。

「それじゃあ、姉の話から。こっちとは行方不明になる日の前の夕方に月山で会った。それだけ。連絡を後から入れるからってそれだけ言って慌てて帰って行ったよ。用事があるみたいだった。まさかそのあと、誘拐……かどうかは分からないけど、行方不明になるとは」

室崎が一旦口をつぐんだ。

「時間は?」

室崎は笑った。

「本当、警察みたいだな。時間は……たしか、坂ダッシュの最中だったから、7時半くらいだな」

7時半?宮池から聞いた情報だと室崎が9時過ぎに赤松を見かけたという話だった。

「9時過ぎにも赤松の姉と会わなかったか?」

「それは赤松の妹の話。姉とは7時半くらいに会って、練習終わって学校の方に戻る時に校舎近くを歩いている赤松妹に会った」

なるほど。だがなぜ8時に早退したはずの赤松姉が7時半くらいに月山に。

「赤松の妹の方の名前は?」

室崎は鼻の辺りをかきながら、答えた。

「赤松……詩織だと思うけど」

それを聞いて、ふとなぜ室崎がここまで赤松のことを知っているのか気になった。別の学校の生徒である。

「よく他校の人のことについて知ってるな」

室崎は宮池みたいに目を細めた。

「赤松詩織の方は竹聖の生徒なんだよ。それに内の陸上部だ。でもおかしいのは、その日、赤松妹は体調不良っていう理由で練習を休んでいた」

今日は色々と情報が得られた。





バドミントン部の中の半数は月山駅伝の方の練習のため、月山へ向かった。そして残りは体育館でバドミントンの訓練である。俺は怪我人なので、木村と共にマネージャーを務めている、が、ほとんどマネージャー的な仕事は木村に任せっきりで、俺自体はほとんどやることがなく暇だった。体育館の隅っこの木製のベンチに座っているだけだ。あまりに暇だったので、この一週間ほどに得た情報を整理することにした。まず、9月の初旬に赤松香織が行方不明となった。その前夜、まず8時に木村に、早退する赤松香織が三上と2人で帰ることをほのめかした。その後、赤松香織は三上と会ったが、どういうわけだか、2人は帰らずにそこで別れた。しかし、ここで矛盾が生じる。室崎の証言では7時半に慌てた様子の赤松香織が月山で練習していた室崎の元へ現れている。さらに9時には赤松詩織の方が竹聖の付近で目撃されている。どういうことか。全くよく分からなかった。練習が終わって、部室で岩崎に話しかけた。

「赤松に妹がいるって知ってたか?」

「知ってたよ。妹っていっても全く似てないけどね。性格も真反対。姉は肉食系で、妹は草食系だ」

全く似てないか……赤松香織と詩織がその日入れ替わっていたのではないかと頭の片隅で考えていたので、少なからず落胆した。ああ、頭のいい奴に解決してもらいたい。ん?そう言えば……。俺が完全に自分の思考世界に浸っていたとき、岩崎がこう言い出した。

「東、なんか刑事みたいなことやってるんだろ?話題になってるぞ」

「は?」

予想外のことだった。

「まじで」

「何でお前が調べてんの?実は隠れ赤松ファンだったのか?」

岩崎がにやにやした顔で言ってきたので、完全に無視して部室を出た。頭のいい奴か。あいつに相談してみるか。そもそもなんで俺はここまで調査しているのか。暇だったということもあるけれど、それにしては積極的だったように思える。ここまで自分を突き動かすものは何なのか。やりがいがあるからか。赤松を助けるという?結局、よく分からなかった。






清沢怜は赤松詩織の自宅へ向かった。もちろん、赤松香織の自宅でもある。赤松姉妹の母親である赤松絹枝は思った以上にやつれていた。それもそのはずか。既に一週間以上も娘の行方が知れないのである。何かの事件に巻き込まれたと考える方が普通だった。警察としても困った状況だろう。仮に誘拐であったとしても犯人から要求が来てはいない。ただの家出だとしても行くあてがなく、そもそも理由もなかった。むしろ家出の可能性は極めて0に近い。赤松の性格上、月山追いでの周囲からの期待などといった影響で練習をさぼるということはありえず、それどころかやる気を増すタイプなのだ。やはりありえない。どうかんがえても外部からの影響。赤松本人の意志による失踪だとは思えない。しかし、状況的には赤松本人の意志だとしか思えない。矛盾。詩織が二階に上がってきた。詩織の方は気分が悪そうだった。最近、体調を崩し気味だと聞く。学校はずっと休んでいるらしい。

「大丈夫?かなりきつそうだけど」

「いいよ、気にしないで。怜さんは姉のことについて聞きにきたんでしょ」

図星だったので、何も言い返せなかった。正直、詩織の体調を気遣う余裕はなかった。

「お言葉に甘えて。赤松香織は、選ばれたということね。そしてあなた、赤松詩織も役に選ばれた。そうでしょう?」

詩織は少し驚いた表情を浮かべた。役についてわたしが知っていることは確かに予想外だろう。

「あれ、どこまで知ってるの?それ、知ってて大丈夫?」

「わからない。まずいかもしれないけど、偶然知り得たことだからしようがない。それで、さっきの質問のことだけど、どうなの」

詩織は引き出しから、封筒を取り出した。中から、白い紙を取り出す。それをこちらに渡した。



『赤松香織さんへ

あなたは緑園学院全校生759名の中から幸運にも、"人質"に選ばれました。定期的に指示を送るので、内密かつ迅速な行動のうえ、指示に従って下さい。では、最初の指示です。あなたは9月3日午後7時に月山北部へ向かい、"目撃者B"である室崎翔太に陽炎祭における竹聖高校側の不正行為があった旨を伝えなさい。また、同日午後8時に正門にて木村萠に連れられた"目撃者A"である三上京に室崎翔太に告げたものと同様の旨を伝えなさい。また、同日午後9時に"被害者A"である赤松詩織を竹聖高校正門付近にて殺害しなさい。手段は問いません。その後、月山南部山腹付近の仏像の元へ向かい、次の指示を待ちなさい。

追伸 なお指示の不実行もしくは違反行為を行った場合、適切な処置を行います。

(注)われわれは、あらゆる場所で監視活動を行っています。』

「これ、本物?」

清沢は信じられずにそう呟いた。清沢や三上に届いた脅迫状と同様の書体ではあったが、内容はかなり異なっている。

「一体、どこまで知っているんですか?」

清沢はもう一度脅迫状を読み返し、封筒の中に戻した。そして大きく息を吐く。

「まさかとは思っていたけど、本当のことだったとは。それにしても殺人だなんて…」

「怜さん、答えて下さい」

清沢はすぐには答えなかった。一旦、思考する。詩織が全ての計画を知っているわけではないだろう。おそらく末端。中枢は生徒会のあたりか。しかし、生徒だけでやっているとは到底考えられないため、教師陣もグルであろう。そうか、ようやく緑園高校の違和感の正体に気付いた。

「あなた、この封筒の送り主が誰か知ってる?」

今度は詩織が黙り込んだ。さっきの質問に答えろということらしい。彼女は自分のことを完全には信用できていないようだ。

「全ては知らないわ。誰なのか知らないけど大掛かりな芝居を打ってるってことだけ。これでいい?」

詩織は小さく頷いた。

「それなら私の知っていることとほとんど変わりないと思う。封筒の差出人は分からないけど、もしかしたらだけど……三上先輩か永瀬先輩が怪しいと思う」

三上と永瀬、そしてバトン。赤松香織。

「誰が何のためにやっているのかわからないけど……とにかく姉が巻き込まれたことは確かだし、もしかしたらもう既に殺されちゃってるかも知れないし……」

詩織は涙ぐんで、言葉を続けることができなかった。詩織はうつむいた。これが演技なら一級品だ。詩織は被害者だということは確認できた。これではっきりした。赤松香織は妹である詩織の殺害を実行できなかった。そのために香織が代わりに犠牲になったということなのか。

「とにかく詩織ちゃん、まだ危ないわ。警察に来てもらって保護してもらうべきよ」

詩織は顔を上げて、それだけはだめっ、と清沢の肩を掴んで激しく抗議した。

「警察はだめ。あそこもグルかもしれない」

清沢も考えていたことだが、しかしさすがに警察全員がグルだとは考えられない。詩織は頑なだった。結局、説得することはできなかった。突然、部屋のドアが開いた。足音が大きかった。変だ。人数が多い。2人は意識を失った。









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