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不可解





 目撃者Aに選ばれた三上と助手に選ばれた清沢。そして探偵に選ばれた俺。推理小説でもやっているつもりなのか、ふざけたネーミングだ。しかし、人質に選ばれた赤松が現在行方不明となっていることは確かで、悪ふざけにしては、手の込んだやり方だ。

「この手紙って、いつ届いた?」

 俺は、二人の顔を見比べて尋ねた。

「今朝学校に来た時、引き出しの中に置かれてあった」

 三上は手紙を指差して答えた。清沢も、わたしも同じと横から言った。やはりそうか。手紙を教室のそれも机の引き出しの中にしまうことが可能なのは、緑園学院の生徒か教師。犯人は内部の人間。この手紙に書かれているように俺たちを監視することは本当にできるのかもしれない。さらに俺は邪推した。この学校の生徒を気兼ねなく監視することができるのは、”練習”と称して毎日学校内のすみずみを行き来している生徒会の人間だ。それならば、宮池も容疑者に含まれることになる。いや、撤回。あいつはありえないな。

「真一。おまえ、まだ楽観的に考えてるだろ」

 あ、ばれてた。てか普通そうなるだろ?いくらこの手紙に付着しているのが血液だったとして、赤松のものだと決まったわけではないし、趣味の悪い輩の趣味の悪いイタズラだってことも否定できない。第一、この学校に人を誘拐できるような大物はいないだろう。

「あのさ……なんかイタズラだとしか思えないんだよね。赤松が誘拐されたっていう話が広まっているから、この手紙に書かれていることも本当のことみたいに感じるけど、まず赤松が誘拐された証拠もない。イタズラだよ」

 俺はきっぱりと否定しておいた。三上はすぐには言い返して来なかった。三上は口元をもごもごさせながら、何と言おうか迷っているようだった。清沢は知らん顔で窓の方を向いている。

「この手紙には決定的なことが書かれてある。俺とおまえしか知らない事実だ。思い出せよ、この手紙には俺は目撃者Aに選ばれたと書かれている。つまり、俺が最後に赤松に会っていたことを知っているんだ。俺と赤松が会って話していたのを、この手紙の送り主は知っているんだ。それが何よりも恐ろしいことを物語ってる。犯人は俺をわざと赤松と会わせたということだよ。もしそれが本当なら、相当よくできた計画だ。見事に俺を目撃者Aにしたんだからな」

 三上の言っていることは正しかった。この手紙の送り主は少なくとも赤松がその後どうなったのかを知っている。俺はここではじめて冷や汗をかいた。そんな、まさかな。

「だとしても、誘拐までして何の得があるんだよ。しかも俺たちに探偵ごっこなんかさせて」

「分からない。今のところは」

 三上は目を伏せた。清沢の顔は逆に窓の方向から俺の方へ戻って来ていた。なぜか不機嫌そうな顔をしていた。

「ったく埒があかない、あんたらと話していたら。それに東。あんた、特にうるさい。ごちゃごちゃ言う前に自分の頭で一回よく考えてみたら?今の状況」

「はあ?」

 一気に神経を逆撫でされた俺は清沢に詰め寄った。三上が慌てて仲裁に入る。

「ごちゃごちゃってなんだよ、いたって普通の見解を述べていると思うが!」

「真一、落ち着け」

 三上のがっちりとした体で敢え無く取り押さえられた俺はいったん引き下がる。

「だから馬鹿なのよ、あんたは。転校生のくせして、物知り顔しやがって」

 よくもそんな罵詈雑言を。

「赤松を狙ったということはほぼ間違いなく、月山潰しに決まってるでしょ。三上は十分、理解していると思うけど、余所者のあんたのために教えて差し上げるわ。ここの生徒、いや教師なら誘拐だってやりかねない。それほど命張ってやって、馬鹿なことやってんのよ、この学校は」

 そっちの方がよっぽど意味不明なこと言っているだろ。誘拐だってやりかねない、だと?いくら緑園学院大学の推薦枠が欲しいからって、それとこれとは別の話だろ。

「赤松を誘拐してその後どうするつもりなんだよ。赤松を試合に出られないようにしたところで、バドミントンの得点は減るかもしれないけど、なんだかんだ言ったって陸上部とか野球部、サッカー部の方が遥かに配点が高いじゃないか。それなのに、赤松を誘拐するほどの動機はないだろ」

 清沢は目を細め、俺を蔑むような態度を取った。

「短絡的ね。赤松の誘拐はおそらく見せしめよ。赤松が本当に誘拐されたのか、そうではないのかはともかく、今一番考える必要があるのは、目撃者Aのこと。三上が言ったように、三上は赤松と会わされた。そのとき、その付近に犯人が必ずいたはず。三上、あなたは何時に彼女とあったの?」

 三上はうーんと首を傾げて、

「練習の後だから、8時前とかだったかな」

 と言った。

「一人で会ったの?赤松はそのとき一人だった?」

「俺は一人だったし、赤松の方も一人だった。校門でばったりあって、少し会話して、別れた」

 少し会話したって……とても重要な会話をしていたんだろうが。あえて三上は永瀬の話を控えている様子だったので、俺は特に取り立てたりはしなかった。その後も清沢の尋問が続く。

「赤松はそのとき何か言ってなかった?考えことがあるとか」

 しまった。早くも琴線に触れた。

「まあ、考え事っていうよりは、永瀬のことで気になることがあるとは言われたけど」

 清沢は永瀬、と尋ねるような口調で呟いた。

「具体的には?」

「永瀬のバトンミスは、仕組まれていたんじゃないかって」

 清沢は堅い表情になった。その脳がブンブンと音を立てて、フル回転しているのが想像できた。

「おかしい」

 突如、清沢は呟いた。俺と三上は目が点になった。

「おかしいって何が?」

 俺がそう言うと、清沢は俺の顔を食い入るように見つめた後、口をゆっくり開いた。

「今三上が言った話、全部。赤松は8時になんか、下校していないし、赤松はそもそも陸上になんかまるで興味がない。永瀬にだって、ただ足がちょっと早いだけでしょ、とか言ってたくらいだから」

 違和感が募る。そして疑問。なんで赤松に関して、そこまで知っているんだ。

「赤松の友達だったのか?」

「そうよ。言ってなかった?」

 言ってねえよ。むしろ他人のような扱いだったじゃないか。でもこれで一つ納得した。友達だから、清沢は必死だったのだ。冷静な清沢にしては、やたら俺につっかかってくるなとは思ったが、そういうことだったのか。清沢って、この性格でよく二人も友達ができるよな。

「それで、8時になんか下校していないって、どういうこと?」

「バドミントン部はいつもだいたい9時くらいまで練習しているの。8時に下校しているのだとすれば、部活を抜け出す必要があったってこと。その理由が失踪、もしくは誘拐に関係しているかもしれない」

 考えてみると、はじめから清沢は真剣だった。俺は楽天的過ぎたかもしれない。まじめに赤松の安否を心配している清沢にとって、あまりに俺はむかつく対象に映っていたに違いない。

「さっき教室でバド部の奴らが話しているのを盗み聞きしたんだけど、赤松は一人で下校したんじゃないらしい。誰かと一緒だったって」

 三上が怪訝そうに顔をしかめた。

「本当に一人だったぞ。その人って誰?」

「それは分からないって言ってたよ。男なのか、女かも分からないってさ」

 それから全員が押し黙ることになった。情報が出尽くしたのだ。

「俺らが選ばれたのはどうしてなんだろう。清沢と三上はまだ分かるとして、俺は何も共通点がない。この手紙には、ランダムに選んだみたいに書かれてあるけど、ランダムってことはないだろ」

 二人とも、一言も返さなかった。お互い考えることがあったので、ここでお開きとなった。三上はこれから部活に行くと言っていた。清沢は何部に所属しているのか分からないが、おそらく文科系の部活であろうと思う。勝手な判断だが。俺は予定よりも遅れて、下の階の生徒役員室に向かった。中で、生徒会長と下っ端の宮池が雑談を交わしていた。内容は難しいそうだった。

「遅い。さっきバドの部長が帰ったところだ。でもまあ、入部の話はちゃんと通しておいたから」

「サンキュー」

 俺は宮池の隣のイスに座る。

「あのさ、ノートまだ写し終えてないから返すのは明日でもいいか」

 宮池は途端に嫌な顔をした。

「どうせ勉強しないだろ?」

「馬鹿。俺は毎日コツコツ型なんだよ。おまえにその生活を乱されたくはない」

 そう言われては、言い返せない。

「そうだ、赤松の目撃情報があったらしいぞ」

 宮池が世間話のように切り出した。

「なんとその目撃者によれば、赤松は一人で竹聖高校の付近で歩いていたらしい。それも9時過ぎ」

 俺はくるくる回るイスを回転させて、まずは落ち着くことにした。8時に三上と会ってから、約一時間後、竹聖に行った。竹聖はそんなに遠く離れたところにあるのではなく、徒歩でも30分くらいの距離だ。一時間は長過ぎる。

「目撃者っていうのは?」

「ああ、なんだっけな……竹聖の生徒で、名前は……室崎だったかな」

 俺はびくっと思わず飛び上がりそうになってしまった。室崎。聞き覚えがあった。永瀬に唯一勝利した、俊足ランナー、室崎翔太。あいつがここで関わってくるのか。まだ数は少ないが、一つずつパズルのピースがはまっていくような感じを覚えた。俺はすぐに生徒会役員室を飛び出した。

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