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失踪




 2年9組。俺のいるクラスだ。メンバー的には、タレント勢揃いといったところだな。わが緑園学院のエース、永瀬。さらに永瀬に匹敵するほど、女子学生から人気の高い三上京。

「で、決めたのか?どこの部に入るか?」

 実は・・数学で手一杯で、ですね〜、全く考えてなかったんですよ。とは言えないので、

「だいぶしぼったよ。サッカー部かラグビー部だな」

「昨日、足遅いって言ってなかったか?」

 宮池が怪しい目つきで俺をにらむ。

「明日には決める。おまえも人の心配するな。生徒会頑張れ〜」

「はぐらかしたな」

 捨てゼリフを残して、宮池は教室を出て行った。毎日毎日ご苦労なこと。宮池は生徒会の事情と言ってよく朝礼の前に抜け出す。本当に生徒会の用事なのか定かではない。入れ替わるようにして水本が入って来た。水本はこのクラスの担任だ。そして数学の教師でもある。すぐに号令がかかる。俺たちは礼をして着席した。水本はいつになく険しい顔だった。さすがの俺でさえ、状況を悟った。何かあったんだ。この学校で。

「突然だが、今朝、職員朝礼で連絡があった。隣のクラスの赤松が、昨日の夜から家に戻っていないという親からの連絡だ。まさかとは思うが、誘拐の可能性もある。何か赤松について知っていることがあれば教えてくれ。あと、赤松と昨日会ったものは挙手するように」

 赤松香織。これまた有名人だ。今年の陽炎祭のバドミントンで二年で出場し、個人戦で優勝した。最終結果として優勝を逃したとはいえ、最下位に沈んでいた緑園を救った選手としていまだ人気だ。それに美人なのだ。こぞって男子が押し寄せる始末。そんな赤松が男の目をかいくぐって誘拐されたとは思えない。家出とかではないのか?

 と思っていると、やっぱり昨日、赤松に会ったという男子が5人ほど手を挙げた。その一人、岩崎が口を開いた。

「放課後、バドミントンの練習で会いました。会ったというか、同じバドミントン部なので、そのとき会ったんです」

「そうか。バドミントン部は後で呼ばれるだろうからそのとき話してくれ。他はいつ会ったんだ?」

 水本が手を挙げた残りのメンバーを見た。

「昼休みにです」

「それじゃあ、情報にならないな。もう座っていいぞ」

 このクラスからは手がかりはないようだ。

「朝礼は終わりだ。一限目は、数学だ。準備しとけよ」

 今日の朝礼は終わった。その後、昨日終わらせた数学の宿題を提出した。



 今日は特に居残りにされることもなく、終礼が終わるとともに帰宅した。バス停までの道のりで、陸上部のメンバーを見かけた。最近は月山で練習していると聞く。皆、この季節でもまだ半袖の方が多かった。この緑園のためにがんばりたまえ。俺はちょうど来た、バスに乗り合わせた。

「おい、ちょっといいか!」

 俺は振り返った。そこに、部活着の男が立っていた。俺は人気者が嫌いだ。

「なんだよ」

 俺はこのバスに乗るのを諦めて、その男、三上の前へ戻った。三上はぜーぜーと息を切らしていた。どうやら俺を見つけて走って来たらしい。

「頼みがある。だから俺のあとについてきてくれ」

 とこっちの意見を聞こうともせず、三上はすぐに歩き出した。陸上部がいる方向とは真逆だ。しばらく歩いて、三上はようやく足を止めた。もう息は整っていた。

「実は……永瀬のことなんだ」

 俺は顔をしかめた。また人気者のはなしか。

「真一、おまえも気づいているだろ?永瀬が妙におかしいことに」

 俺は目をそらした。

「気づいていたとして、なんだよ?」

「今日、香織がいなくなったって聞いたろ?たぶん昨日最後に香織と会っていたのは俺なんだよ」

「えっ?なんで水本に言わなかったんだよ」

 今度は三上が目をそらした。

「教師は信用できない。とにかく香織が消えたのと、永瀬がおかしいことは何か関係がある」

 三上の言い方からして、当てずっぽうで言っているわけではないことは伝わってきた。だが、なぜ関係があるんだ。永瀬がおかしいのは、バトンミスのトラウマだろ。それと赤松がどう結びつく?

「俺は昨日部活が終わってから偶然香織とあったんだ。校門の前で。それで香織からあることを聞いた。もしかするとバトンミスは仕組まれていたんじゃないかって」

「でたらめだろ?バトンミスを仕組む?どうやって」

 俺が驚いて質問すると三上は小さな声で答えた。

「あの日、よく考えてみたらおかしかったんだ。急に四走の吉谷先輩が具合悪くなって、急遽、永瀬が四走にまわったんだ。そしたらあのバトンミス。はたから見れば、メンバー変更によるミスだと考えるだろうが、そんなこともあるかと思っていろんな走順で試していた。メンバー変更でのミスは、ほぼありえない。香織は、竹聖のやつらがやったんだと思ってる。理由は今度話すからと言われて香織と別れたんだ。その次の日失踪だ。どう考えても、バトンミスと香織の失踪はつながっているだろ?」

「おいおい、落ち着け。わかった。仮に本当だとして、なぜ香織が失踪しなくちゃならないんだ。まさか竹聖の生徒が口封じのために誘拐したって言わないだろうな?」

 三上は首を振った。

「それはわからない。でも香織が何らかの証拠を持っていたことは事実なんだ。バトンミスに関する証拠を!」

 俺は三上を見つめた。ふざけている様子は微塵も感じられなかった。真剣に言ってるんだ。

「それで、頼みってなんだ?」

「調べて欲しい。バトンミスに関して」

 俺は息がつまりそうになった。

「なんで俺が?他にもいるだろ、たくさん。俺は第一、陸上部でもなんでもない。俺ができることは何にもないよ」

「むしろそれがいい。内のクラスでまだ部活動に入ってないのは、真一だけ。それに永瀬と仲良かったんだろ?小学生からずっと永瀬と同じ学校だったのはおまえだけだ。頼む。協力してくれ」

 三上は、深々と腰を折った。

「……調べるくらいならいいけど、俺だって部活に入んなくちゃならない。あまり時間も割けないぞ」

 三上はぱっと顔を輝かせた。女みたいなやつめ。

「すまない。できる限りでいい。悪かったな、引き止めて」

 三上は最後まで必死だった。そんなやつの頼みを簡単には断れない。面倒ごとが増えたなあと俺は言葉には出さずにため息を漏らした。

 バスの後部座席で俺は思った。確かに永瀬にしてはいつまでも失敗を引きずっているなとは思っていた。永瀬は例えるならロボットランナーみたいなもんだ。出場したら必ず優勝。フライングだって一度もない。百戦百勝の無敵のランナーだ。そして最大の強みは、精神力。どんな状況でも冷静で、あのバトンミス程度であんなに落ち込まないだろ。しかし、俺は永瀬の弱みを知っている。永瀬はかつて一度、幻のレースで、ある男に敗北を喫したことがあるのだ。もしあいつが関わっているのだとしたら、永瀬がおかしいことにも納得だ。意外と三上が俺に頼んだのは正解だったかもしれないと俺は思った。ひとつ気がかりなのは……大学受験に影響しないでくれよということぐらいだ。

 

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