面倒な対話
◇
「それで、まおちんのお母さんがここで待ってなさいって」
その頃仁奈は、回想の内容を魔緒に説明していた。
「なるほど。母さんがやりそうなことだな」
大方、自分と同年代だから、友人か何かだと思ったのだろう。そんな状況で飛び出してきたのなら、余程泣きじゃくっていたのかもしれない。それならば、家に招いたとしてもおかしくない。あの母親ならありうる。と、魔緒は結論付ける。
「ま、家は来客大歓迎だから、ゆっくりしてけよ」
とりあえず着替えてくる。魔緒はそう言うと、自室へと向かった。
「……おい、魔似耶」
自室の鏡の前で、呟く魔緒。
「楠川の奴、どう思う?」
そして魔緒は手元の本を開く。この本は魔道書。彼が魔術師である証であり、その力の根源である。
「魔術解放」
魔緒の体が淡い光に包まれ、それがすぐに落ち着く。ただし、そこにいるのは魔緒ではない。
「にゃ~。難しい質問なのにゃ」
長身に合わせた女子の制服に、白髪の色に合わせた猫耳。くりくりと愛らしい、紅い瞳。彼女は猫田魔似耶。魔緒の内に潜む、もう一つの人格である。
「仁奈ちゃんは、離れたくないのにゃ。七海ちゃんとも、魔緒とも。だけど、自分を引き取ってくれた唯一の親戚に言われたら、うまく言葉に出来なかったのかもしれないのにゃ。ここはやっぱり、落ち着くまで一緒にいるべきにゃ」
魔似耶はそう言うと、目を閉じて魔道書を開く。
「魔術解放」
魔似耶の体が淡い光に包まれ、すぐに落ち着く。今度は、魔似耶ではなく魔緒がそこにいた。
「……やっぱ、そうなるよな」
魔緒は嘆息した。もう一人の自分である魔似耶に意見を仰いだものの、分かったのは彼女も自分と同意見ということだけ。
「ま、あんまり考え過ぎるのもあれか」
魔緒は手元の魔道書を閉じると、速やかに部屋を出た。