意外な回想?
◆
「ただいま」
何ヶ月か振りの「ただいま」。普段は家に誰もいないから、一々言わない。けど今日は、いる。今となっては、姉を除いた、唯一の家族と呼べる人が。
「おかえり。早かったじゃない」
奥から出てくる妙齢の女性。私の叔母だ。因みに、ここは彼女の家。私は彼女の家に居候している身だ。もっとも彼女は仕事が忙しく、滅多に家にいないのだが。
「今日は早く帰れって言ったの、そっちでしょ?」
そう。今日はこの叔母に、早く帰るように言われていた。そうじゃないなら、折角のまおちんと過ごせる時間を削ってまで、早く帰ったりはしない。
「そうだったわね」
まったく、自分から言っておいて何なんだろうか。
「話があるの」
昼食後、叔母がそう切り出した。
「何? そんな改まって」
もしかして、出てって欲しい、とかじゃないよね? それだと本気で困る。私にはもう、頼れる人がいないから。
「学校のことなんだけど」
なんだ学校か。でも、学校がどうしたんだろう。赤点はギリギリ免れたはずだけど。
「二学期から転校させるから」
……え?
「転校」
私が理解できていないのを見透かしたのか、もう一度その単語を口にする。転校、という言葉を。
「誰が?」
「あなたが」
「いつ?」
「二学期から」
「どこへ?」
「近くの別の高校」
「どうして?」
who、when、whereと来て、whyの部分で止まった。
数分程経って、やっと叔母が言葉を発した。
「あなたの通ってる学校、教師や生徒が失踪してるらしいじゃない」
それは、まおちんが「亡者」っていうのを退治してた時の話。正直、あの後まおちんがしてくれた説明でも、全部理解した訳じゃない。寧ろ、殆ど分からなかった。
「そんな危ない学校に、いつまでもあなたを置いとけないわ」
だけどそれは、まおちんが解決した話。だからもう、学校は危なくなんかない。
「丁度夏休みに入るし、その間に転校の手続きを済ませるから。いいわね?」
……いいわけない。折角お姉ちゃんと仲直りしたのに。それに―――
「……嫌」
それに―――
「嫌、じゃないわよ。これはあなたのためを思って―――」
「嫌!」
気づけば、叫んでいた。
「絶対に……、絶対に嫌!」
そして、私はそこから、逃げ出していた。家を飛び出し、ただひたすら走った。どこをどう通ってきたかなんて、覚えてない。けど気が付いたら、まおちんの家の前にいた。前に家の場所を教えてもらってたからかもしれない。けど、そんなことはどうでも良かった。
気が付けば、私はその家のインターホンを押していた。