意外な来客
魔緒はリビングの扉に手を掛けると、音を立てないようにゆっくりと開いた。客とやらは魔緒を待っているはずなのだから、音を消す必要はないと思うのだが。何故か忍び足でリビングに入り、来客用のソファへと向かう。客を、驚かせるつもりなのだろうか。ソファは丁度リビングの奥を向いているせいか、来客は魔緒に気づかないでいる。このことも考えに入れて、行動しているのかもしれない。
「お待たせ」
「きゃっ!」
来客は案の定、悲鳴を上げて飛び上がった。
「どうしたんだよ、家まで来て」
魔緒はそれに構わず(自分で驚かせて自分でスルーとは……)、対面の席に座る。
「……まおちん」
魔緒と向かい合うように座っている少女、仁奈は、喜んでいるような、拗ねているような、泣いているような、何だか良く分からない表情をしていた。
「単に遊びに来た、って言うなら構わねえ。けど、何か事情があるなら、先に話せ」
いやいや、来客用の菓子を食いながら言っても、全然様になってないぞ。却って苛つくだけだ。
「……うん」
おい、突っ込まないのか。それとも突っ込む気力もないのか。そんなに重大な事情があるのか。
という傍観者の声は、無論登場人物たちには届かず。よって、ここからは仁奈の回想である。